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2.チャームを装着




 さまよえる強者達のこちらをうかがう気配をとらえているのだが、我らが一族に憑依してくれる酔狂、いや奇特な方々が出てこない。これは想定外であった。

 システムが立ち上がれば、速攻で憑依の申し込みが殺到するものだと思い込んでいた。

 お恥ずかしい限りのとんだ勘違いである。


 我らに魅力がないからかと、種族を挙げて憤るというか悔し涙にくれる日々が続いている。

 有り体に言えば、上から目線で選ぶ気満々であった我らのプライドはズタズタとなった。


 一通り愚痴を発散しあってから、ようようありのままの我らには魅力がないという事実を受け入れることにした。

 せっかくここまでたどり着いてもらっている強者達が、次の界へと素通りしていくのはもったいなさ過ぎる。

 正直に言おう、悔しすぎるではないか。聞くところによれば、我が界を抜け道と称している強者がいるらしい。抜け道とは言い得て妙と、納得するわけがなかろう。無礼千万である。思わず徒党を組んで、強者狩りに走りかけるところだった。


 この世界は決して、抜け道として存在しているのではないはずだ。

 さまよえる強者達の終着点としてなんとか、この地を選んでもらわなければ世界にも申しわけが立たない。


 へし折られたプライドを後生大事に抱え込んでいる暇などありはしない。プライドで強者は釣れはしない。



 我らに魅力がないのなら、人工もので勝負をかける。いわゆる、チャームという代物の開発に着手した。

 サングゥインと手分けして、チャームになるのではないだろうかと思われるものを手当たり次第、作り上げていった。


 あのサングゥインを野放しにすることに抵抗がなかったわけではない。しかしながら監視しながらだと効率がよくないのだ。

 近い未来、部下への監督不行き届きという事態がおこる予感がびんびんである。サングゥインに今、時間を取られるか、後で取られるかの違いなら、選ぶのは後回しであろう。

 まあ、その際には誠心誠意の対処で勘弁してもらおう。


 いくつかのチャームが仕上がった。

 これらを強制的に付加することを一番に考えたが、更なるプライド爆砕になるのではというサングゥインの駄目出しを受けた。ちっせープライドだなと口に出してしまったのだが、これだから博士はという視線に屈した。すでに一度、へし折られたプライドに追い打ちをかけるのはまずいのは確かである。

 まずは、希望者にオプションとして配布することにした。


 それも親切設計の個別対応を掲げた。希望者にどーんと一律配布にしようとするサングゥインには呆れる。

 それぞれが特化したチャームを装着することこそ意義があるのだ。装着する者は、特別なチャームに愛着を持つに違いない。

 それに皆が皆、同じもの持っていたら強者達のふるい分けができないではないか。



 できたてほやほやのチャームリストを希望者に公開した。吟味されている様子が刻々とデータ化され表示されていく。チャームごとの人気の差が如実に突き付けられた。

 それでも全体を通せば盛況である。幸先の良い滑り出しに、自族の本気を垣間みた。




 こっそりと身を潜めるようにやってきた希望者が醸し出す空気は、暗かった。これは、早々に何とかしないとまずいレベルに到達している。にじみ出たオーラがひたすら地を這うように沈殿していく。

 居住域の停滞ぶりはさぞかしひどいこととなっているに違いなかった。


 こだわりと進みたい道を拝聴した。是、諾、是である。

 彼女の切望を叶えるために、サングゥインを部屋から放り出した。邪魔である。エチケットの基本である。


 共闘し試行錯誤の末、出来上がったそれに彼女は満足の吐息をついた。私も大満足。


 故郷に錦を飾るかのように軽い足取りで辞去していく彼女をサングゥインとともに見送った。

 サングゥインのぽーっと熱を浮かした表情に勝利を確信した。


「弾んでましたね」

「渾身のこねの結果だ」


 豊胸と美乳は正義である。彼女を素通りできる強者はいない、はずだ。



 彼女は熱く語った。豊かな胸の素晴らしいまでの効能と美しいラインへの憧れについて滔々と語った。是、諾、是。


「この胸一つで、貧乳であった者達を入れ食い状態にしてみせます」


 高らかと宣言した彼女に、選ぶのは一人だけだからねと最初の諸注意を繰り返したのだが、頭に入ったのであろうか。



 この後、美乳シリーズに入れ込む私に苦言を呈するべきか心底悩むサングゥインの姿があった。


「あんな貧、慎ましい胸にまで入れ込むなんて正気の沙汰とは思えません。時間の無駄です」


「あれこそが通の道だと豪語する者もいるんだから強者とは懐がでかい。チャームの作りがいがあるというものだと思わないか。本当に奥が深い、まるで底なしのようだ。

 慎ましい胸も正義だ。言うなれば、どんな胸も正義だ」



 生き生きと胸囲のおしゃれに余念がない憑依人の姿に、周囲が感化されていく。きっと、サングゥインが見せた熱の浮かされた表情を浮かべる自族の者達が続出しているはずだ。

 活性化間違いなし。


 良い仕事をした。




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