1.システム概要
自滅 滅亡 衰退 消滅 壊滅 消失 絶滅 衰滅 死滅 隠滅 全滅 滅却
我らが住む世界の行く末が、大層画数の多い見栄えのある言葉で彩られていた。見事なまでに、終末思想信望者限定である。
幾多のシミュレーションの結果は、我々の未来を緩やかな衰退の果てに絶滅というものから猪突猛進の滅亡までと、様々な角度から見せつけてくれた。あらゆる結果が、この世界を道連れにして我らは滅していくことを提示する。
シミュレーションを作った自分が恨めしくなるくらい、容赦ない幕切れのオンパレードである。一筋の光明すらない。奈落の底にまっしぐらである。こんな結果を見たくて、研究所に泊まり込んだんじゃないと叫びたい。
汗水たらして滅私奉公している私に対してなんたる仕打ち。精も根も尽き果てるとはこのことか。
それにしても悔しい。この美しいところもそれなりにある世界を、我らが滅ぼしてしまうのかと思うと悔しくて仕方がない。
自族の滅亡が、世界をも滅ぼすなど許されることではない。滅ぶのなら、我らだけが滅べばいい。孤高の一族と冠されているというのに、何たるていたらく。
世界の頂点にある我らが種としてどん詰まりだというのなら、頂点の交代をすればよいのかと、短絡的に考えた。
頂点交代シミュレーション。
ああこれは駄目だ。
交代した途端に下からがんがん突き上げを喰らわせている。そんな元気をどこに隠してあったのかと、驚いた。
あっという間に返り咲いて、ふんぞり返って、黄昏れて世界を道連れる。さきほどまでの突き上げはどうした。登り詰めた途端に、しおしおとは情けないにもほどがあるであろう。さあ、立て意地を見せろ。立って世界を牽引していけ。頂点が項垂れんじゃねぇよ……。
ならば我らを一瞬にして消失させる、そのようなシミュレーションを組んでみれば、あら不思議。
急激に世界もまた消滅してしまった。その上、何も残っていないばかりか、空間が変な方向にねじ切れてすごい勢いで色んなものを吸い込んでいる。
半端ない吸引力のこれは、さすがにやばい。
世界の存続には我々が必要であるという結果に、嬉しさを隠しきれていない部下サングゥインの頭をはたいた。
「だって、アネスト博士。世界から必要とされていないと突き付けられるよりは、心中相手と見なされている方が気が楽じゃないですか。
目指す方向が一緒って心強いですよね。どこまでも突っ走られる」
「馬鹿か。世界を存続させるために年がら年中、研究三昧の日々をしてるのに、滅亡を目標に手を取り合うんじゃねーよ」
提示された結果を、詳しく読み取り続ければ打開策の一つでも出ないかと、藁にもすがる思いでしがみつく。世界を道連れなど矜持が許さない。
シミュレーションをいじくっても結果が同じということは、根本的な何かを見つけなくてはならないということだ。
我ら種族を存在せしめた上で、負の方向に突き進んでいる行く末を正に転換させることのできる何か。
サングゥインが明るい声で、これも絶滅それも壊滅あれも破滅どれも滅亡と歌うように結果の差異をふりわけていく。「こそあど★滅」という自作歌らしい。
悪くない声に、耳に残る韻律。もしかして、その肩の揺れ腕の振り具合は、振り付けつきということか。
羅列されている滅入り言葉と、楽しそうな歌声が妙に合っていた。頭でフレーズが鳴り響く。いつのまにか口ずさむほどのこれは、きっと空耳化する。
不本意極まりないが、何か、突破口が掴めそうな感じがする。この妙なコラボ感。下品雑多なものが入り交じっているのに、崇高なる高揚感が止まらない。
いつもなら「うるせぇっ」とサングゥインを大喝するところだが、そのまま一生歌っていろと歌わせ続けた。
そうして、画期的なシステムがひらめいた。
我ら種族に足りないものがあると認めよう。その欠けたるものを自助で埋めることができないから世界を道連れにしてしまうのだ。
独力で埋められないのなら他から貰い受ければいい。欠けている部分にスポッとはまりこむようなそんな補完システムを作り出す。
完璧とはほど遠い穴だらけのものだが、それはおいおいバージョンアップしていけばいい。
まずは大まかなシステムを構築する。瑣末は後から詰めていくから、絶対に詰めると約束する。矛盾点も、後で都合を何とかごり押し、いや解決してみせるから。
延々と(改)がつこうとも、ものごとには勢いが必要なんだよ。
停滞して何の面白味もないにもかかわらず、我が世界にまで流れ着いてくる強者達のご助力を借りることができたなら、きっと世界は騒がし、いや生き生きとしてくるはずだ。
さまよえる強者達に居場所を提供し、怠惰な暮らしに浸りきって瑞々しさを失ってしまった自族に活性化を促す。
我らの欠けたる部分にはまってくれる強者達よ、いますぐきたれ。
『貴方は誰に憑依しますか』
『貴方は誰を憑依させますか』
ウィンウィンのシステムを私は目指す。
略して「アナダレヒョシステム」を発動した。