バトルⅩⅢ-Ⅳ
わりとシリアスになってない気がします……。
夜音のキックを受けて弧を描き空中を舞った少年少女。
空中を回転しながら飛ぶ少年少女の胸元から、一冊の本が地面に落ちたのをルナは見逃さなかった。
(あ、あれは!?)
ルナは吸血鬼特有の能力で夜目が効く。
いま落ちた本はどこかで見たような気が……。
悪い予感がしたルナは慌ててその本の元へと向かい、本を拾い上げた。
本を見たルナの表情が強ばる。
(これって俺の秘蔵コレクションじゃないか。なんであいつがこれを持ってるんだよ)
(でも、まだソルや夜音にはばれてない。このままこの本を亡き者にしてしまえば……OKだよな)
ルナは本を引き裂こうとした時だった。
【ルナ様。その手に持っている『デラビジン』とは何の本なのでしょうか?】
その言葉にルナの動きが止まった。
振り向けばソルは真後ろに立っているじゃないか。それも満面の笑みで。
【な、なんの事だかさっぱりだ】
【ルナ様が手に持っているその本の事ですが?】
ソルはルナの手にある雑誌を指差した。
【こ、これは、ここで拾ったんだ! たぶんゴミだ。だから、ゴミ箱に捨てようかと思ってたんだよ。美化だよ! 公園美化の一環だひょ!】
声が思わず裏返ったしまった。
【なるほど……それはゴミですか? 公園美化とおっしゃるのですね?】
どうしてそんなに黒い笑みなんだ? 本の内容まではわかってないはずだろ?
【そ、そうだ! 美化だ!】
【そうですか】
【そうです!】
(いや、大丈夫だ。これが少年少女の胸元から落下した事実は見られていないはず。俺は夜目がきくが、ソルと夜音はきっと見えてなかったはずだ)
「それって、あいつの胸元から落ちた本じゃろ?」
【はい。ですが、ルナ様はここに落ちていたと嘘を……】
(こいつらにも見えてました! そして誤魔化そうとしたのもばれてました!)
【い、いあ、きっと気のせいだ。これがゴミだ。だから俺には捨てる義務がある! と言う事にしてくれ……】
(見逃せよ……)
【なるほど。ルナ様は女性の裸体が描写されている本をゴミとおっしゃるのですね?】
【……へ?】
ルナはフリーズした。
(中身までばればれ?)
そして、ロボットのようにギギギっと首をソルへと向ける。
【な……なにを? 言っているのかな?】
ルナの全身は熱を帯びた。顔がめちゃ熱い。
(いやいや、何でこの本の内容を知っているんだよ? 俺はこの本の内容を見せた記憶はマジでないぞ? だいたい、何で少年少女の奴がこれを持ってたんだよ!)
冷や汗が額と背中を伝わる。
【ルナ様、そんなに焦らなくても大丈夫ですよ?】
【な、何がだよ? 焦ってねぇし! それにこれはあいつ(少年少女)が落としたんだ! 俺のじゃねぇし!】
ソルは怖い笑みを浮かべるとルナからその本を奪い取った。
【えっ? ちょ、ちょっと待てくれ!】
【まず、この本はルナ様のご自宅の収納スペース(押し入れ)の下段。布団の下に収納されていたものですよね?】
(か、隠してあった場所まで完璧に把握されているだと!?)
【な、なぜそれを? ……あっ!】
ソルは黒い笑みを浮かべながら月を見上げた。
【そこでのびている駄目天使様が、ルナ様がお手洗いに行っている間に『男子の部屋に入ったらエロ本探しは必須業務ですよね!』と言って、『僕はすでにエロ本のありかは知っているのです!』と言いながらその本を押入れから出し、読み漁っておりましたので】
【…………なっ。何だとっ】
ルナはゴールネットの中に倒れる少年少女を見た。
(お前はどこの思春期男子だよ!)
【内容は私も確認済みですので、いまさら慌てる必要はありません】
ルナの額は先ほどの夜音以上の脂汗が浮かんでいる。
【……なっ……なんてこったいオリーブ!】
(いやいや、冷静になれ。そうだ。少年少女だって俺の家にはエロ本があるという大前提で動いたんだ)
(そうだ、一般の成人男子たるものエロい本の一冊や二冊は持っているものだろ? そして俺も一般的な成人男子であり、女性の裸には興味があるのは至極あたりまえで、これは一種の男性の生理現象なんだ)
(そう、俺は間違った事はしていない! エロ本は男のバイブルだ! エロ本が押入れに隠してあるとか一般的なんだよ!)
【ルナ様。もう少しわかりずらい場所に隠した方が良いかと思います】
(ソル、その笑顔がきつい! そして次は注意します……)
「男って……エッチじゃけぇね……」
(夜音、照れながら言うな! なにかいやらしい想像をしちまうだろうが!)
もはや天使に追われる身だとは、微塵も思わせないルナたち。
運動公園のど真ん中で、ルナは恥ずかしそうにひざをつき、少年少女はゴールネットの中で気絶し、ソルと夜音はすこし頬を赤らめていた。
【もう一度言います。私はその本の中身をすべて知っておりますので安心してください】
【そ、そうなんですか……あはは】
ルナの乾いた笑いが周囲に響いた。
「まぁ。ルナも男じゃけぇ、こういうのも見たいって思うのが普通なんじゃろうね……。うん」
【いや、まぁ……否定はしない……よ】
がっくりと肩を落としているルナ。そんなルナの両肩にぬくもりが伝わった。
ルナが顔を上げると、目の前には頬を赤くする夜音の姿。
そして、夜音が自分の両肩に手を置いているじゃないか。
しかも、すこし照れくさそうにするその姿は魔界ではまったく拝めなかったもの。
ルナも最近になって夜音は妙に色気を感じていたりした。
(こ、こいつって……こんなにかわいかったっけ?)
「あ、あのね……」
【な、何だよ】
「この本なんじゃけどさ……」
【こ、この本がどうしたんだよ】
「制服特集じゃろ?」
【は、はい?】
(なにを言うんだこいつ!?)
「せ、先生って……と、年下が好みなんかな?」
【えっ? 何で?】
頬を染めてくねくねと体をひねる夜音。
(どうした? どうしたんだ! と言うか、この質問には答えなければいけないのか?)
【私も気になりますね】
【な、何でソルまで?】
「うちのは単純な質問じゃけぇ。別に深い意味は……ない……かも?」
【そ、そのためはなんだ! あと、かもって何だ! かもって!】
【私も参考として……です……かも?】
【お前もためるな! あと、日本語おかしいだろ! かもを真似しようとしたからおかしくなったんだろ!】
「せ、先生ってさ、ま、まさかロリ……ロリコンじゃないよね?」
ハッとした表情で、ルナの肩から手を離すと、夜音は右手で口を押さえて一歩後ろに下がった。
【ま、まて! 俺は幼女趣味ではない! 俺は年下のピチピチギャル(死語)が好きなんだよ! 胸だって小さいよりはでっかい方が好みだ! わかったか!】
そして、夜音が口をあけて思わず自分の胸を見た。
「む、胸のおっきい子が好み……なんじゃ……」
ソルも視線を下げる。
【ルナ様、私の胸では不十分ですか?】
「そ、それで不十分だったらうちの胸は……(ないと同じ?)」
夜音は青顔でソルの胸と自分の胸を見比べていた。そして両手で胸を掴んで涙目になった。
ルナはそこでやっと気が付いた。夜音が自分の胸にコンプレックスを持っている事実に。
しかし、同時にどうして白岡の公園でこんな事態に陥っているのかがまったく理解できていなかった。
(俺たちって何をしにこの公園に来たんだっけ……)




