バトルⅡ-Ⅰ
何だよ?あいつ、本当に一人で行く気か?っていうか、あいつ戦えるのか?
ルナは道路に向かって歩く少年少女につい声をかけてしまう。なんだかんだと気になるらしい。
「おい、どうやって移動するつもりだよ?」
少年少女はルナの言葉に即反応した!待ってましたとばかりにルナの方を振り返る。
『ルナさん!心配してくれているのですか?でも大丈夫です!この世界に来る前に伝授してもらった良い方法があるんです!』
先ほどの哀愁が嘘のように元気になった少年少女は、元気いっぱい笑顔満点でルナに向かって話をしてきた。
そんなに俺と話すのが嬉しいのかよ…なんて妙な気持ちになるルナ。
「良い方法だと?ここはタクシーはあまり通らないぞ?」
『ふふふっ…僕を舐めないでください!これでも優秀な人工生命体なんですからね!』
「えっ!?」
な、何だと?何か凄い重要な情報をいとも簡単にカミングアウトした気がするけど…
ルナは「冗談だよな?」という表情で少年少女を見た。
まさか、こいつが人工生命体?今の現代科学で人工的に生命体を作るなんて出来るはずがない。なんて半分は信じていない。
「お前が人工生命体だと?」
『ふふふっ!そうです!僕は人工的に生み出された生命体なんです!』
腰に手を当てて無い胸を張る少年少女。
こいつの性格からして、ここまで言い切るとは、どうやら嘘じゃないらしいな…っと一応は信じる事にするルナ。
まぁ自分が女にされた時点で、この現代科学では証明出来ない出来事すぎるんだが。
ルナはじっと少年少女を見た。
人工生命体って事は、もしかしてこいつはすごい技とかもってるのか?
ファンタジー的展開にちょっと期待と興味が沸いちゃうルナ。
「もしかして、お前ってすごい技とか持ってるのか?」
気になったら質問。みんなもちゃんと聞きたい事は聞こうね!
『よしっ!早速その技を見せてあげます!そこで見ててくださいね!』
少年少女は、何処からともなくマジックを取り出した。そしてキャップをはずす。
『………あれ?』
「どうしたんだ?」
少年少女は周囲を見渡す。そして困った表情になった。
「おい…何がしたいんだ?マジックなんて持って」
『えっと…ルナさん…』
「何だよ?」
『ダンボールを…持ってないですか?』
「ダンボール?って…まさか?」
『白い紙でもいいんです!行き先が書ければ!』
「やっぱり…」
ルナは何度目か解らないけど、また頭を抱えた。
「良い方法ってヒッチハイクかよ!」
漫才ばりにバンっと突っ込みを入れるルナ。
『な、何でそれをルナさんが!?』
すごい衝撃を受けたような表情でルナを見る少年少女。
「いや、もう何て言うかさ…もうっ!あー!何処だよ!場所は何処だ!」
『えっ?それって…』
「良く考えたらあれだ…俺が元に戻るにはお前と一緒にいないと駄目な可能性が大きいから…」
そう言って、ルナはちょっと恥ずかしそうに腕を組んだ。
何だかんだと、理由をつけて少年少女と一緒にいてやる事にしたらしい。
『あ、なるほど…確かに僕と一緒にいないと駄目かもしれないですね?』
「だろ?だから…今回だけは特別に付き合ってやるよ!特別だからな」
ルナは唇を尖らせて少年少女と視線が合わないように言った。
そんなルナを見ていた少年少女はニヤリと笑みを浮かべる。もう何か楽しくって仕方無い表情になった。
『やだなぁ、もう!このツンデレさんめ!行きたいのなら最初から行くって言えばいいのにぃ!もうもうもうっ!可愛いんだからっ!』
ぶわっと砂埃が舞った!一瞬だった。少年少女の目の前にいたはずのルナが消えた!
『えっ?ル、ルナさん!?何処!?』
少年少女が左に気配を感じて顔を向ける。すると真横にルナの姿が!
『!?』
いきなり現れたルナを見て驚く少年少女。
50倍の瞬発力を早くもモノにしたルナ。その速度はまるで瞬間移動のように感じるスピードだった。
「な…何かおっしゃいましたか?」
ルナは笑顔で、満面の笑みで、とっても素敵な笑みで、そしてとても丁寧な言葉づかいで…
ぎゅっと少年少女の首を絞めた。これがネックツリーだ!
『ぐぐぐるじいいい…ごめんだざい…』
空中で苦しさに足をばたつかせる少年少女。
ルナは真っ赤な顔で「ふんっ」と鼻息を荒くする。
「今度ツンデレとか言ったら…ぶっ殺すからな!」
ルナは真っ赤な顔のままそう言うと、少年少女の首を持つ手を放した。
ツンデレと言われた事が相当恥ずかしかったらしい。というか、実は自覚があったりした。やっぱりこれってツンデレなのかよ!っと。
そして、ドサリと少年少女は地面に落ちる。
『ひ…ひどい仕打ちです…ぐすん』
「お、お前が一言多いんだろ!で、どこだよ?」
『こ…ここです…』
スマホを取り出してルナに見せる。
「ここか?よし!俺の背中に乗れ!一気に行くからな!」
『はい』
ルナは少年少女を背負うと、怪人のいるであろう地域へ向かって駆けて行った。
そしてあっと言う間に現場。
早いだろ?これが中略っていう技だ。えっ?違う?
「ここか?」
『ここですね…』
「怪人はどこだ?」
『えっと…あっ!そこの本屋さんの中です!』
少年少女が指差したのは最近オープンした大型書店だ。
「何だと?本屋の中に怪人がいるのか!?」
もしかして、本屋の中で大暴れしてる?人質を取っている!?そんな事が出来るなんて…
今回はまともに怪人なのか!?怪人が悪者なのか!?
ルナの頭にちょっとだけ不安がよぎった?
「急ごう!」
ルナはばっと駆け出す。そして書店の入口の自動ドアの前に立つ。
自動ドアはウィーンと音を立てて開いた。
店内に入ったルナに向かって、近くにいた店員が一斉に「いらっしゃいませ」と声をかける。
「いらっしゃいました…」っとくだらない台詞をぼそりと言ったルナ。
「あっ!フリフリのお姉ちゃんが入ってきたよ?」
自動ドアですれ違った子供がルナを見て指さす。
「駄目よ、見ちゃ」
母親は子供を何かおかしい人から引き離すように連れて行った。
まさに不審者と遭遇した時のテンプレートな反応だ。
「くっ…俺は怪しい奴じゃない…って言ってもこの格好じゃなぁ…」
ルナは自分の姿を確認する。
書店の中でピンクの可愛いフリルのついた戦闘ドレスを着こなしている少女は、傍からみても怪しい人です。
「おい…この格好はかなり恥ずかしいな…」
『ですよね~』
即、同意する少年少女。
「認めるな!そんな事ないですよ?とかせめて嘘でも言ってくれよ…空気嫁!」
『ルナさん、僕は嘘が嫌いなんです。あと、漢字が違います。嫁って何ですか?常用漢字も知らないんですか?プププ…』
イラッとするルナ。うざい…どうしてこいつはこうもうざいんだ?
という事で、ルナは少年少女を無視して本屋の中を見渡す。すると…
「おい…もしかしてあれか?」
『ちょっと!せっかく面白く対応していたのに、無視なんて酷いですよ!ここで僕がボケたら突っ込むのがルナさんでしょ!』
ルナは少年少女の頭を叩いた。
『痛っ!』
「俺らは漫才コンビか!そんなのはどうでもいいんだよ!あそこにいるのが怪人かって聞いてるんだよ!」
ルナが指さしたのは、料理本コーナーで立ち読みをする魚の頭の怪人だった。
『そ、そうです!あいつです!』
「見た目まんま怪人なのに…なんで立ち読みを?」
ルナは言葉を失った。