バトルⅠ-Ⅳ
ルナはちょっと焦っていた。いや、決して悪い事をしている訳じゃない。した記憶もない。
しかし、警察という言葉に何故か弱いのが人間である。
別に悪い事をやってる訳じゃなくても逃げたくなるのが心理である。
「お、おい、ここから逃げるぞ?」
そしてこういう結論になった。
『えっ?何でですか?』
「何でじゃない!逃げるって言ってるんだよ!」
トイレのドアの向こうからまた声がする。
「もしもし?そこにいるんだよね?声が聞こえてるよ?」
やばいぞ…どうする?
「おい、何かこうあれだ…俺は瞬間移動みたいな技とか持ってないのか?俺って魔法少女だろ?」
『えっ?そんな技なんて無いですよ?だいたい、ルナさんは人間ですよ?人間が魔法なんて使えるはずないじゃないですか。まったく、この人は何を言ってるんだか…馬鹿だなぁ。あははは!』
ルナはキレた。
「お前が俺を《魔法少女だっ》て言ったんじゃないか!」
『だって、フレーズ的に魔法少女って格好いいじゃないですか?人間の間で流行ってるんでしょ?』
「流行ってるってなんだよ!それだけの理由で俺は魔法少女って設定にされたのか?じゃあ俺は何なんだよ!魔法少女から魔法抜いたらただの少女じゃねーか!27歳成人男性が少女になっただけなのか?あーーー!」
ルナは顔を真っ赤にして叫んだ。目にはうっすらと涙が浮かんでいる。そして、震えながら正座をしていた少年の首根っこをぐっと掴んで空中へ持ち上げた。
苦しそうに足をじたばたと動かす少年。
『ぐ…ぐるじい…でず』
言い合いが外に聞こえているのか、トイレのドアが『ドンドン』と叩かれる。
「こら!何をしているんだ!少女誘拐か?27歳成人男性がそこにいるのか?おい!そこでじっとしていろ!」
ルナの額から嫌な汗が出た。
「と、とにかくここから逃げるぞ?」
『あ、ちょ…ちょっと…待って…下さい』
「何だよ!」
『え、えっと…しいて…ルナさんの能力を…挙げると…すれば…その姿だと…筋力や…か、回復力…なんかが…ふ…普段の50倍に…なっているん…で…す』
「へっ?50倍だと?」
『はい…打たれ…強さも…50倍…です』
「なんだそれ?すごいじゃないか…どうりでゴキブリ怪人を倒した時にすごい体が軽かったのか…それにお前もやけに軽いなーって思ったんだ。今も全然体重を感じないしな」
『だ…だから怪人を一緒に…倒し…ましょう!』
「それはお断りします」
『えぇぇ…』
「おい!何をしている!開けないのならばこっちから開けるぞ!」
警官の声がトイレ内に響く。
「と、取りあえず出るぞ!」
ルナは少年を背負うと、トイレのドアの鍵を開けた。
バタンと開くドア。そして警察官とご対面。
警官は個室の中から出て来たのが可愛い少女で少し驚いている。
ルナは警官に向かってニコリ笑顔をつくる。それは本当に可愛い少女の笑顔だった。
「お騒がせしましたぁ!えっとぉ…ここにいるこの馬鹿彼氏と揉めていただけなんですっ!ごめんなさい!」
ぷりっと可愛くそう言ったルナ。演技力はなかなかである。
『僕は彼氏じゃな…んぐっ!』
ルナは口答えをする少年の口を無理矢理に塞いだ。
「貴方は黙っててねっ!貴方に発言権はないんだよぉ?」
確かに、傍から見たら同年代の男女だ。見た目は成人男子なんて居なかった。
二人を見て警官は困った表情で言う。
「あ、えっと…喧嘩はしちゃ駄目だとは言わないよ?でもね、ここは男子トイレだよ?君は女の子だよね?わかっているのかな?」
「あ、えっとぉ…ごめんなさいっ!どうしても彼がここじゃなきゃ嫌だって言うから…」
それってある意味危ないです。ルナ様。
『むぐーー』(言ってないです!)
「え、えっと…でもね?それでも男子トイレの個室はどうかと思うんだよ?」
「はい!今度は女子トイレの個室にします!それじゃさようならぁ!」
「えっ?あっ!ちょっと待て!それも駄目だって!」
ぴゅーん!という効果音が聞こえそうな速度でルナはトイレから走り去った。
自分が高性能と聞いたら躊躇なくその性能を発揮するルナ。
移動速度は時速にして80キロ。もはや人間のスピードじゃない。
流石は魔法少女である。いや、魔法は使えないけど。
高速移動中。ルナは少年を背負っていてある違和感を感じていた。
何かが背中にあたっている。何だこれ…男なのにおかしいだろ?この感触は…ま、まさかこいつ!
『こ、怖いよぉ!』っとあまりの速度に涙目の少年。
「おい、お前…まさか女か?」
『うわーん…怖いよおお』
「おいっ!聞いてるのかよ!」
『怖いよぉ!怖いよぉ!』
ルナはチッと舌を鳴らすと先ほどの公園から数キロはなれた小さな空き地へと入った。
「もうここまでくれば大丈夫だろ」
『うう…スピード出し過ぎです…』
「何がスピードの出し過ぎだ!俺を捜した時にお前はどうやってさがしたんだよ!その羽根でぴゅーんって飛んできたんじゃないのか?」
『えっ?いや、この羽根はダミーなんで飛べません』
「そんなに立派なのにダミーかよ!」
『はい。で…えっと…ここまで来るた為に、タクシー?って乗り物を利用しました』
「タクシー?だと?」
なんて現実的な奴なんだ…容姿がファンタジーな癖に…
「お金はどうしたんだ?」
『お金ですか?これを見せましたけど…』
そう言って取り出したのはブラックカードだ。
「ブ、ブラックカードだと!?それってクレジットカードだよな?それも高所得者が持っているという噂の…」
『えっ?そういうものなんですか?僕はこれを自由に使ってもいいって言われたんですが』
「あ…そうなんですか?」
思わず敬語になるルナ。
な、何だこいつ…
※ブラックカードとは?
ブラックカードは、クレジットカードに於いて最上位のグレードに位置付けられるものの通称である。
うぃきぺでぃあより~