バトルⅦ-Ⅰ
お待たせしました。バトル? スタートかも?
俺の名前はルナ。
性別は男子で年齢は27歳だ。
普通に大学を卒業して、普通に会社員になった普通の人間だ。
身長は172センチで体重は62キロ。
見た目、そんなには格好良くはないが、格好悪くも無いと思っている。
そんな俺には実は秘密がある。
それは……
俺は魔法少女なんだ!
デート中にスプレーを吹きかけられたら男から女になった。
何だこれ…マジでありえねぇ…。
ちなみに、魔法少女の癖に魔法が使えないときたもんだ。
だったらただの少女じゃねーか! なんて思われそうだろ?
いや、正解だ。 ぶっちゃけただの少女だ。
ただ、俺は普通の人間よりも色々な面で50倍の性能を誇っているらしい。
例であげれば、打たれ強さや持久力、そして走るスピードやジャンプの高さ。要するには筋力が50倍だ。
後は、視力、聴覚、嗅覚も50倍に出来るみたいだ。
もちろん調整は可能で、映画みたいにコップを持つと加減がわからずに割れるとかはない。調整可能でマックスで50倍まで増幅可能という訳だ。
でも、回復力は調整は出来ないみたいだけどな。
これを読んでいる奴に素直に言っておくぞ? 俺は魔法少女になりたくってなったんじゃない。
だいたい何で一般市民な俺が魔法少女になる? あと、俺は男ですから!
酷いだろ? 色々と酷いと思うだろ?
そして、さらにひどいのが今の状態だ。
実は、俺は大ピンチなんだよ!
魔法少女なんだからピンチくらいあるだろ? なんて軽く思ってないか?
いや、それも正解だ。
通常のアニメや漫画での魔法少女ものだとピンチなんて普通にある。
いや、無いと逆におかしいよな。
しかし、現実のピンチはアニメとは違ったんだよ…
現実は、あんなのほほーんと敵と会話しながら戦う寸劇みたいな戦闘じゃない。
じゃあどんなのだって?
よし、俺が状況を説明してやろう。
Ⅰ 敵が五十人もいる。
題名の通りで、俺は五十人の敵と対峙中だ。
普通に考えても多すぎだろ。俺は遠慮を知らない魔族なんて嫌いだ。
数が多くっても雑魚じゃないのかだって?
ああ、そうだな。五十人のうちの大半が雑魚なら俺も許すよ。
望むならドラクエでいうスライムくらいの強さがいいな。
しかし、現実は違う。五十人の全員がボス級なんだぞ!?
簡単に言えば、仮面ライダーで倒している各話のラスボスがいきなり五十人いるって事だ。
普通のバトルものらしく一対一のサシで勝負しろよ!
Ⅱ 俺の仲間が魔界の王子と王女だ。
おかしすぎるだろ? 何で魔界の王子とか王女が俺の味方なんだ?
俺はどうやら天界側の人間らしい。いや、そういう設定みたいだって聞いただけだで確信はない。
でもまぁ、あれだよ。他の魔法少女とかが援軍に来たのなら解る。
そう、例えば、俺と同じ境遇の人間で、同じように魔法少女になれた奴が、俺と意思疎通して仲間とかならありえる。だけど、俺のそばにいるのは本来であれば敵な奴らなんだ。
まずは、右横にいる赤い専用メイド服に身を包んでいる女性。
こいつは魔界の王女でソル。
可愛い顔してこの~子、鉄球が似合うんです!
で…俺の事が好きらしい? かどうか最近ちょっと疑問だ。
もう一人はジャングルの王者○ーちゃんみたいに、上半身裸の格好で三叉の矛を持っているのが…
……矛? おい、それってどっから出したんだよ!?
いや…そんな事は今はどうでもいいか…
そうそう、その矛を構えるイケメンで金髪の男子が、魔界の湖。そう、俺の背後にある巨大な湖。大きさは琵琶湖くらいありそうな湖(ルナの解釈です)の王子でフィレオだ。
普段は魚の頭の被り物をしているらしいが、ちょっと色々あって俺が壊した。
おまけだが、こいつは完璧に俺の惚れてる。
以上二人が俺の仲間だ。
どうだ? もうめっちゃオカシイだろ!
常識はずれというのはこの事を言うんだ! そして、常識外れと言えば…
Ⅲ ここは魔界だったりする。
そう、俺が居るのは魔界だ!
な~にぃ魔界だと? やっちまったなぁ。
ごめん、ちょっと古い。
それはさておき、この世の中に魔界がある事自体おかしいのに、何で俺は魔界にいるんだ?
いや、原因はわかってるけど、言ってみたかったんだ。
言いたいのは、俺は多分だけど、《地上を守る》為に魔法少女になったはずだ。
もう一度言うぞ?
《地上を守る》為に魔法少女になったはずだ。
なのに何で俺が魔界で怪人(魔族)と戦ってるんだよ?
もう、マジでやっちまった系だ。
こんな感じでピンチな上に普通じゃない状況だ。
あーあ…何でマジこうなったんだろうな…
ルナは完全に自分の世界に突入していた。
【ルナ様! ルナ様! 何をしてるのですか!】
それを見ていたソルが不機嫌そうな表情でルナの耳元で怒鳴った。同時に我に戻るルナ。同時に《ガキーン》と金属音がルナの耳に入る。
何が起こったのやら訳のわからないルナ。
何度も激しく武器と武器がぶつかりあう音が鳴り響く。
【ルナ様! もう戦闘は始まってるのですよ! 何を気持ち悪い顔でぶつぶつと呟いてるんですか!】
「おい待て! さらっと気持ち悪いとか言いやがっただろ!」
【気持ち悪いものは気持ち悪いのです! ほらルナ様! ぼーとしないで! 上から来ていますよ!】
「えっ? 上から!?」
ルナがソルの声に反応して上を向いた。が誰もいない。
そして、空には夕日に染まる綺麗なオレンジ色の雲が…無い…
そうか…地獄には雲は無いのか…(いや、魔界だし)
【ルナ様! 危ない!】
台詞と同時にソルの鉄球がすごい勢いでルナの真上を通過した。
勢いよく通過する鉄球の風圧が《ぶわ》っとルナの髪をなびかせた。
その瞬間に《グチャ》っと何かがつぶれる音。そして、《ドサリ》と砂浜に何かが落ちた。
ルナは思わずその落ちた場所を見ると、砂浜がべこりと凹んでいる。
「な、何が起こった?」
【何がじゃありません! さっきから何をボケっとしているのですか!】
ソルは怒り心頭である。
「何をって、お前が上とか言うから見ただけだろ!」
【言われて見るだけならサルにでも出来ます!】
サ、サル!?
「な、何がサルだ! 上を見たけど何もなかったじゃねーか!」
【なかった? 上空には敵が居ましたよね? 姿を消している敵が居ましたよね? 森の中から聞こえる音に惑わされたのですか? 敵は全方位から攻撃してくるのですよ?】
「えっ? 空中に敵がいたのかよ?」
ルナが驚いた表情でソルを見ると、ソルも驚いたような表情でルナを見る。
【ルナ様? もしかして見えてないのですか?】
「み、見えてないって? 何がだよ?」
【敵です。カメレオンの様に風景に溶け込んでいる敵です】
「えっ? 溶け込んでいる敵? どう言う意味だよ?」
【……意味が解らないのですか?】
ちょっとあきれ顔のソルは《嘘ですよね?》と小さく首を振っている。
しかし、意味がわからないものは解らない。
「ちゃんと説明しろよ! 何で呆れてるんだよ!」
【魔法少女なのですから、戦う事になる怪人の特徴くらいは知っているのがあたり前ではないのですか?】
た、確かに…正論すぎて反論できねぇ…
「いや…そうかも知れないけど…でも、勉強しろとか言われてないし、魔法少女になってすぐに戦わされたし…」
【そうですか…解りました。そこはもういいです…で、今回の敵は簡単に言えば透明なのです】
「と、透明な敵だと!?」
【そうです。本当は透明ではないのですが、透明に感じる敵です】
ルナはハッと思い出した。
そうだ! 確かにテラの側近のメイドは姿を消していた。
そして、テラは言っていた。透明な怪人は魔界じゃ珍しくないと。
でも、考えてみろ。完全に透明になれるなんてあるはずないよな?
そうか、そうなのか! カメレオンみたいに背景に溶け込んで透明に見せてたのか。
しかし、すごいな…やっぱり怪人って俺が想像しているよりも何倍もすげーんだ。アニメとか漫画の怪人なんて比にならない。
でも、服はどうしてるんだ? どうやって服まで透明にしてるんだ?
も、もしかして裸ペイントとか?
それはそれで…俺的にはぜんぜんOKだが…
相手が女の場合だけだが。(おい)
いや、でも城での敵は確かメイド服を着ていたような気がした。
という事は服は着たまま姿を消せるって事か?
【ルナ様? 何を険しい顔をしてるのですか!?】
「いや、ちょっと色々と考えているんだ」
【考えごと?】
ルナは敵が落ちたと思われる砂に窪みがあった場所に目をやった。
すると、そこにはメイド服を着た女性の怪人が横たわっているじゃないか。
「透明じゃなくなってる…戻ってる?」
【はい。集中力が切れると見えるようになるのです】
なるほど、どうやらずっと透明な訳じゃないらしいな。
見ればメイド服はボロボロになり、そして虫の息じゃないか。
まぁ、あの鉄球をまともに受けて無事なはずがないけどな。
「ソル、どうやってこいつらは透明になってるんだ?」
【どうやってって、魔法に決まってるじゃないですか】
超簡単な答えでした。魔法でした。
っていうか、あいつ(少年少女)は魔法なんてこの世の中には無いとか言ってなかったか?
いやいや、それ以前にテラだって魔法を使ってたよな?
あーやっぱりあいつの言葉は信用できねぇ!
【ルナ様! 構えて下さい! 次が来ます!】
「へっ? あ、わ、わかった!」
って、どうするんだ!? 俺には敵が見えないんだぞ!?
透明(背景に溶け込む)とか卑怯だろ!
【ルナ様、敵は目で見るのではありません。五感で感じるのです!】
「ご、五感だと?」
何を格好いい事を言う…
【そうだルナ! 感覚を研ぎ澄ますんだギョ! 心眼という言葉を知らないギョ?】
お前は何でそんな言葉を知っているんだ? 日本通か?
しかし、そうか…
五感か…五感を研ぎ澄ませばいいのか…
目を閉じろ…そして感じるんだ…
ほら、見えてくるだろ?
まるで目を開いているかのように…
あの、アムロやシャアだって出来たんだ…
俺に出来ないはずが…
………
……(汗
……(汗
………(イライラ
………
って出来るかぁぁ!
俺はアニメキャラじゃねぇ! ニュータイプじゃねぇぇぇぇ! 心眼とか出来るはずねーだろボケ!
【どうしたギョ?】
「無理ゲーすぎるだろ! イキナリそんな事できるかって言うんだよ!」
【落ち着くギョ!?】
「あーーーーーーーうがぁぁぁぁ! やってられるか!」
ルナは大鎌を地面に放り投げて頭を抱えた。




