バトルⅠ-Ⅲ
「お前の探していたのは少女だよな?」
『は、はい』
「イエローページに名前を載せる少女がこの日本の何処にいるんだボケ!」
顔を真っ赤にして怒鳴り散らす魔法少女。
『ひっ!ひいいい?』
「少女っていう年齢の奴はイエローページに名前を載せたくても載せられないんだよ!馬鹿野郎!」
『ひ、ひいい?』
「それに誰だよ!イエローページを見ればいいとか言った馬鹿は!イエローページで魔法少女を選ぶなんて画期的すぎるだろ!」
確かに、画期的すぎます。
『え、えっとですね…この世界に来たとき、あの…薄い黒い板みたいな中の人が言ってたんです!』
「薄い黒い板?」
『そう、その中の人が、困った時にはタウンぺージ~って言ってたんです!』
ルナは震えた。もう呆れて震えた。
「おい…その薄い黒い板。それは多分テレビだ。そしてお前が見たのはテレビCMだ。某電話会社のな…しかし…」
『え、えっと?何でそんなに怒ってるんですか?僕は正直に言ってるはずですよ!』
「正直とか嘘とかの前に…」
ルナはイエローページを少年から奪い取った。
「これはイエローページだ!解るか?イエローページ!テレビが言ってたのはタウンページだろうが!」
『ご、ごめんなさいっ!すぐにタイトルを修正しますから!』
そう言って、何処からともなくマジックを取り出す少年。そして、魔法少女からイエローページを取り返した。しかし、すぐに動きが止まる。そして苦笑した。
『あ、あの…僕はこの世界の文字が書けないんですけど…教えて貰えますか?』
ルナは呆れた。いや、もう呆れるというか、そういう問題を超えていた。
「もういい…わかった…お前と話すと頭が痛くなる…要するに、イエローページで適当に開いた場所に俺の名前があったんだな?」
『はいっ!そうです!そうなんです!えっと、こうやって開いたページに…』
少年がババババっとページを捲った。そしてぴたっと止める。
『あ、あれ?ここじゃない…もう一回…あれ?うまくいかないな…えっと…こうやって…』
何度もページを捲り返す少年。
それを見ていたルナは思った。そういえば、ぴったり100ページで止めるゲームとかやった気がするな…
何度も何度もページを捲り返す少年。もうなんていうか、必死である。
『お、おかしいですね?この前は一回で止まったんですけど…』
「あー!ストップ!もういい!」
『ひぃ…は、はい?』
「解ったから。適当に俺を見つけたって理解したからいい」
『だ、だから適当じゃなくって!こうやって!』
再びページを捲る少年。
「うざい!」
ルナはイエローページを没収した。
『と、取らないで!あと少しだったのに!』
「何が少しだ!こんなに見てたら日が暮れる!」
『むぅぅ…』
しょぼーんとする少年。
「お前がイエローページで俺を見つけたのは解った。で、俺をどうやって捜し出した?そこに載っているのはアパートの住所だろ?」
『え、えっとですね…』
少年は何処からともなくスマートホンのような白い機械を取り出した。
『これのアプリで人捜しが出来るんです。ほら、ここに名前を入れると…ほら!緑の矢印が出てるでしょ?これがルナさんのいる場所です!』
ルナがその機械を覗き込むと、見事に今いるトイレを指している。
どんだけ科学が発展した世界から来てるんだこいつは…
「お前は何処から来たんだ?」
つい、無意識にまた聞いてしまったルナ。
『えっと、まだそこは未設定でして…』
はい、結果は同じ。
「あー!馬鹿!アドリブって言ってるだろ!」
『ひ、ひぃ…ごめんなさい』
「…もうわかった…未設定な?くそっ!」
(作者め!設定くらいちゃんとしとけ!)
「で…俺を見つけたと?この公園でデートをしていた俺をな…」
『はい』
「で、いきなり俺の目に現れたよな?満面の笑みで」
『はい!』
「そして、その後に俺に向かって何をした?」
『スプレーしました!』
「したよな?それも無言で、すっごい満面の笑顔で…」
『はい!』
少年は元気に返事をした。ルナの肩が再び震える。
「俺が男だって解ったんだろ?どうみても俺は男だったよな?何にどうしてスプレーするんだ!」
『いや、だって、今から新しい少女を探すの面倒でしょ?まぁどうせスプレーで魔法少女になるし、いいかなーって』
ルナの怒りがMAXゲージに達しそうである。あとちょっとで必殺技コマンドを受け付けそうだ。
「おい!それでもいきなりスプレーとかするか?普通なら何か使命みたいなものを訴えてさ、そして仲間になってくれとか、一緒に戦おうとか、そういう台詞を言うんじゃないのか?」
少年は『ぷっ』と噴出した。
『それってどこのアニメですか?まったく…ルナさんはお子様ですね』
ルナの顔が引きつる。
「お前…絶対に殺すからな…」
『えっ!ど、どうして!?ルナさんは、そんな中二病なアニメ展開が好きなんですか?』
ルナの顔はひきつりつつ赤くなる。ルナは実はそういう展開がちょっと好きだった。
「ば、馬鹿か!もう、そんなのどうでもいい問題だ!」
『ま、待って下さいよ!何も言わなかった理由はちゃんとあるんです!』
「何だよ、理由は何だよ?」
『だって、ルナさんに魔法少女になって下さいって言っても絶対に嫌だっていうでしょ?成人男性が魔法少女になるなんて有り得ない展開じゃないですか?僕だってそのくらい解ってたんです!』
「ほう、よく解ってるじゃないか!嫌だって言うよ!あたり前だよ!普通に考えろよ!27歳の成人男子が魔法少女になるかよ!」
『でしょ?だからいきなりスプレーしたんです』
「いきなりすぎるだろ?俺はデート中だったんだぞ?俺が女になったのを見た彼女がすごい形相で逃げちまったじゃないか…」
両手で顔を覆うルナ。
少年は小さく首を振った。
『彼女さんとは、所詮はその程度の関係だったんですよ…ふっ』
ルナの眉間にぷくっと血管が浮く。大魔神のように覆った手をオープン。
「ごら…何がその程度の関係だ?お前のせいだろ!お前のせいだろうが!反省しろよこら!」
『ひ、ひぃ…は、反省してます!ごめんなさい!さっきのは半分冗談です!』
「半分本気だったのか!お前!」
ルナがついに拳を振り上げた!びくびくと体を震わせて両手を頭の上に乗せて防御姿勢をとる少年。
「そうだよ!その後にお前は俺になんて言った?【さぁ、魔法少女になって怪人を倒すのです!】だと?なんだその二流アニメ的な台詞は!お前はアニメ展開が嫌いなんだろ?」
ルナはぷるぷると体を震わせた。怒り心頭である。
『だ、だって、それは定番の台詞じゃないですか?魔法少女になったら聞きたい台詞じゃないんですか?』
「お前の基本的な考えからがおかしい!俺は望んで魔法少女になってない!そんな台詞も聞きたくなんてねーんだよ!あーもう!」
『お、怒らないで下さいよ。折角の可愛い顔が台無しですよ?』
「う、煩い!可愛いとか言うな!黙れ!」
大声でトイレ内部で怒鳴りあいをしていると、個室のドアを誰かがノックしてきた。
「すみません…ここで何をしてるのかな?警察だけど」
け、警察だと!?
警察という一言でルナの表情は青く変化していった。