バトルⅠ-Ⅱ
魔法少女は逃げ出した!
ザザザザザッ(効果音)ってリアルでそんな音がする訳がない。
しかし、逃げ出したのは確かだ。魔法少女は少年を脇に抱えて公園のマラソンコースを移動する。
『何で逃げるんですか?』
「馬鹿! 流石にあそこにいたら恥ずかしいだろ!」
真っ赤な顔の魔法少女。
『お話は?』
「移動してから聞く!」
魔法少女は人々の視線を一身に受けつつも、中央のでっかい池の周囲にあるマラソンコースをかけ足で半周する。
「あそこでいい!」
そう叫ぶと、前方から見えてきた公衆トイレの男子へと突入した。
「ひゃっ!」っと中で用を足していた若い男性が動揺しする。
途中なのにも関わらずチャックを慌てて上げる。
同時に「うぎゃぁ!」という男性の叫び声が上がった。
ああ、痛いですよねそれ……byナレーション。
そんな男性を無視して魔法少女は個室へと入った。
しかし、貴方は今は女ですよ? いいのですかここで? なんて、ナレーションの私の声なんて聞こえている訳がないですね。
魔法少女は何も気にせずに個室の鍵を閉めた。
そして、洋便器の蓋を閉めるとその上に少年をちょこんと置く。
『えっと……』
「よし、ここなら人は来ないだろ」
確かに個室に人は来ないでしょうね。
『え、えっと……何故トイレなんでしょうか?』
「意味はない」
『は、はぁ?』
「という事で、そこに正座しろ」
腕組みをして魔法少女は少年へ命令した。
『へっ?』
少年は苦笑しつつ自分の下にある便器を見る。
まさかここに?
「そうだ、お前が乗っているその便座の上に正座しろって言ってるんだ!」
『いや、言ってる意味がわかんないです……あはは!』
「笑ってんじゃねーよ! 早く正座しろよ! ぶっ殺すぞ!」
『は、はいっ』
すごみを効かせた魔法少女。少年は震えながら便座の上に正座した。
「さて……俺がどうしてこんな姿にされて、あんな虫みたいなのと戦わされたのかを説明してもらおうか?」
少年は困り果てた表情をしている。
『ど、どこから説明をすれば良いのでしょうか?』
「最初から全部だよ!」
『ひぃぃ!』
少年は怯えている。
「早くしろよ!」
しかし、少年は怯えている。
「おい……」
しかし、少年はまだ怯えている。
……イラッ!
「お……お米チップス!」
しかし、少年はまだ怯えて……「ストップ!」いるって……ナレーションを止めないで貰えますか。
俺はお米チップスと言っただけだぞ? なのに何で怯えるんだよ。
……私の気分ですが何か。
気分かよ!
とりあえず、ナレーションに突っ込みのはやめてもらえますか?
お前がうざいからだろうが!
『え、えっと? どうかしましたか?』
「どうかしてるよ!」
『し、してるんですか!?』
とりあえずナレーション!
はい?
イラッとするナレーションはやめろ。
私としてはナレーションに突っ込むのをやめて欲しいです。ってさっきも言いましたね。
『あ、あのぉ?』
「うるさい! ちょっと待ってろ!」
『ひっ』
すこぶる理不尽な扱いを受ける便座の上の少年。
と、とりあえず、そういう事だかんな。
わかりました。善処します。
と、落ち着いたのか、私にちょっかい出しても意味ないと悟ったのか、今度は少年の瞳を睨む魔法少女。
単なる八つ当たりにも見えなくない。
「うるせぇな……」
『ひっ?』
話してもないのにうるさいと言われ、やっぱり怯えている少年。
本当に理不尽な魔法少女だった。
「じゃあ、俺が質問するから答えろ」
『は、はい?』
「はい? っじゃねぇ! 質問するからちゃんと答えろって言ってるんだよ! それくらい出来るだろ!」
『は、はい! 頑張ります!』
「よし、じゃあまず俺を魔法少女に選んだ理由は?」
『理由?』
「そう、理由だよ…」
『……』
少年は苦笑した。
「おい、まさか理由が無いとか言わないよな?」
魔法少女は手を胸の前で組むと【パキパキ】と指を鳴らす。
『あっ! あります! そうですよ! ありますよ! え、えっと……ある本を参考にしました!』
「本だと? 俺が載ってる本なんてないだろ?」
魔法少女がそう言うと、少年はごそごそと何処からともなく一冊の本を取り出した。
「ちょ、ちょっと待て……」
それを見た少女は驚愕する。それはそうだ。その本は普通は人選で参考にする為に使う本ではない。
「イ……イエローページだと?」
少年が取り出したのは日本語で言う電話帳だった。
『イエロー? ああ、この本が黄色いからそう言うんですか?』
「表紙に書いてあるだろ! ここだよ! ここにイエローページって書いてあるだろ!」
魔法少女は真っ赤な顔でイエローページの表紙をばんばんと叩く。
『あ、僕はこれが何て書いてあるか読めません』
笑顔で答える少年。いらっとする魔法少女。
「じゃあ、なんで俺と会話が出来るんだよ」
『えっと、翻訳機がこの歯に……このはひないひょうされてはして』
そう言いながら少年は自分の歯を指さす。
「何を言ってるのかわからん!」
『あっ! えっと……翻訳機が歯に内蔵されているのです』
そう説明する笑顔の少年。少女は溜息をついた。
「お前はどこの近未来からやってきたんだ?」
『えっと? 僕が何処から来たかですよね? そこはまだ未設定でして……』
「未設定!? こ、こらっ! お前はアドリブって言葉を知らないのか? 未設定ならアドリブを効かせろよ!」
『えっ? あっ……ごめんなさい……』
つくづく呆れる魔法少女。とうか、未設定でいいのでしょうか? 作者さん。
「……で? そのイエローページを見て、何で俺が選ばれたんだ?」
『えっと、適当に開けて……女性らしい可愛い名前を探したら……ですね』
「俺の名前を見つけたのか?」
『はい』
「ほう……でも、お前は少女を捜していたんだよな?」
『はい! だからルナさんを選びました!』
「なるほど……」
『ルナって名前だったし、まさか男性だとは思いませんでした!』
「くっ……」
少女は頭を抱えた。
『月って書いてルナって読ませるなんて……なんて中二病的な発想の名前なんでしょうね? あはは!』
本気で笑う少年。しかし少女は真っ赤な顔をしながらも我慢した。
「こ、ここは否定できない……お前の言う通りだから怒れないよ……実は俺もそう思ってるんだ……マジ……マジで俺の親は何でこんな名前を俺につけたんだよ! うぅ……」
がくっと肩を落とした少女の肩に手をぽんぽんと当てる少年。
『大丈夫ですよ。きっと良い事がありますから。気を落とさないで下さい』
少女の肩が震える。
『あ? もしかして僕ってすっごく良いこと言いました? 感動しました?』
「誰が感動するって?」
『えっ? どう考えてもルナさんが僕に感謝を……』
「自分の名前を女と間違えられて、あげくにこんな姿にされた時点で全然良い事が起こってねーじゃねーかよ! それで感謝とかあるか!」
『ひぃぃ!』
殴られるかと思った少年は頭の上を両手で覆った。
しかし、少女は殴る寸前で手をとめた。
「くっ……それでも名前は俺の親に責任があるからな。女と間違ったのは仕方ない事にしてやるよ」
『そ、そうですよね?』
「けどな? そこを突っ込む前にな?」
どうやら、少女の怒るポイントが違ったらしい。
少女の背景に再び火の手が……(以下省略)
こんな場面で次回へ続く。