バトルⅣ-Ⅰ
「う…うーん…」
ルナはゆっくりと瞼を開いた。
ぼやっとする視界には見慣れない灰色の天井が広がっている。
「こ、ここは?どこ…だ?」
体を起こそうとしたルナ。しかし、全身に激痛が走り動かせない。
「痛たたたたっ!」
思わずルナはその苦痛に顔を歪めた。そこで思い出す。
そうだ!俺は魔界の王子に特攻して…負けた?でも、生きてるぞ?何でだ?
痛みを我慢して体を懸命に起こす。すると…
【まだ動かない方がいい。お前の体はボロボロなのだ】
何処かで聞いた声が耳へ入ってきた。
この声は…まさか?
ルナは顔を声の方へ向ける。
その方角へいた人物を見たルナは痛みを堪えて無理やりに起き上がった。そしてベットの上で戦闘態勢を取る。
「ま、魔界の王子!貴様っ!」
そう、声の持ち主は魔界の王子だった。
魔界の王子は木製の椅子にもたれて座り、ルナを落ちついた表情で見ていた。
【無理をするな。まだ完全ではなかろう?】
ルナの体を気遣う魔界の王子だが、ルナは顔を強ばらせて怪訝な表情で王子を睨む。
「そこで何をしている!俺に何をした!ここはどこだ!」
俺を完膚なきまでに自分を痛めつけた。そして完全敗北させた憎き敵が目の前にいる!そして、怪しい場所に連れてこられてる!
ルナは全身を襲う苦痛に耐えながらも拳に力を込めた。
【どうやらルナの中では、今だに我との戦いが続いているようだな。その闘志はすばらしいと感心する。しかし…】
「し、しかし何だ!」
【裸のままで立ち上がるのはどうかと思うが?】
魔界の王子は呆れた顔でルナを見た。それも躊躇なく胸元を直視している。
「へっ!?裸?」
ルナは慌てて自分の格好を確認した。下を向くと少し膨らんだ胸部が露わになっているじゃないか!
肌に擦れる感じがしていた布の感触は包帯だった。服じゃなかった。
要するには…はい、裸でした!
「うはっぁ!み、見るんじゃねー!」
ルナは真っ赤な顔で慌ててベットのシーツを体に巻きつけた。
【クククッ…これが、あの冷静かつ鬼神のごとく我の部下を蹴散らした少女か?そうは思えない慌てぶりだな】
魔界の王子はそう言って大きな声で笑った。
「わ、笑うな!」
【可笑しいものを笑って何が悪い?】
「くぅぅ!」
更に顔を赤くするルナ。耳まで真っ赤だ。それ程までに超絶恥ずかしかった。男なのに。
「そ、そうだ!ここは何処だっ!俺を何処につれて来やがった!」
話題を逸らして恥ずかしいのを誤魔化そうとするルナ。
【ここか?ここは魔界だ】
それを察してちゃんと答えてくれる魔界の王子。紳士である。
「ま、魔界だと!?」
ルナは部屋の中を驚きの表情で見渡した。
【そう、ここは魔界だ。そしてここは我の居城】
な、何だと!?いきなりラスボスの登場の次はいきなり敵の本拠地だと!?
確かに、雰囲気が普通じゃない。床も天井も壁も石造り…まるで中世ヨーロッパのお城みたいじゃないか。
そ、それはそうと、俺は何で裸なんだ!?
シーツをそーっと捲り、自分の格好を再度確認するルナ。何度見ても裸です。胸はちっちゃいままです。
ルナは唇を噛むとキリっと魔界の王子を睨んだ。
「お、俺を裸にして何をしたんだ!」
『んっ?』
「か、改造か?身体の調査か?それとも洗脳か?あとは…ま、まさかっ!エ、エッチな事をしたとか無いよな!?」
ルナはシーツをぐっと体に巻き付ける。もう体の全てが真っ赤になっている。
【何を勘違いしている?我はお前を治療しただけだ】
ルナとは違い、いたって冷静な対応の魔界の王子。
「くっ!くぅぅぅ!ち、治療なら、何で俺を裸にする必要があるんだ!」
【体中が傷だらけ。戦闘ドレスはズタズタ。そして血まみれ。こういう場合は服を脱がして治療するのが普通ではないのか?】
「うぅぅ?うううう…」
包帯でいたる箇所がぐるぐる巻きのルナ。確かに治療のあとだ。
くそっ!正論すぎるだろ…その通りすぎる…て、敵の癖にナマイキだ!
なんて思うもののルナはなにも言い返せない。
【そんなに興奮するな。落ち着け。まだ傷は癒えてないのだぞ?傷口が再び開いたらどうする?まだ休んでおけ】
そして魔界の王子がすっげー優しい…っておかしいだろ!俺は敵なんだぞ?戦闘の時には俺を殺そうとしてたじゃないか!
何かある!裏があるんだ!くそー!曝いてやる。
「おい…」
【何だ?】
「なんで俺を助けたんだ?」
【何故そんな事を聞く?】
「俺はお前らの敵だぞ?敵の俺を助けてお前らに何のメリットがある?」
【メリットだと?】
「そう、メリットだ!しかし、シャンプーじゃないぞ?」
【………】
(し、しまった…俺は何を…)
魔界の王子は椅子から立ち上がった。
(魔界の王子がスルースキルを持っていたとは…いや、よかったんだけど)
「お、俺を助けたのは何でだよ…」
魔界の王子はゆっくりとルナに近寄ってきた。
一応はファイティングポーズをとって身構えるルナ。
落ち着いた表情でルナの横までやってきた魔界の王子。そしてゆっくりと右手をルナの左頬へと伸ばす。
ルナは思わず右拳でパンチを繰りだして反撃した。
しかし、そのパンチは【バシッ】っという音と共に、いとも簡単に魔界の王子に受け止められた。
そして、ルナの拳をすーっと下に下げると、ルナの瞳をじっと覗き込んだ。とても凛々しく、そして優しい笑みで。
「な、何だよ!俺に何かする気かよ!って…あれ?な、何だ!?」
ルナが体を動かそうとしたが動かない!いや、動けない!
「な、何をした!」
【ふふふ…魔法少女ルナよ。我はいつでもお前を殺す事が出来るのだぞ?】
そう言いながら余裕の笑みを浮かべる魔界の王子。
「ぐぐぐ…」
俺のパンチを簡単に受け止める…そして簡単に動けなくされた…
この圧倒的な力の差。これが特SSSランク…ラスボスの力か…
俺がいきなり負けたのも納得できる。いや負けてあたり前だったんだ。
【いつでも殺せる】それは嘘じゃない。でも、やっぱり、何で俺を助けるんだ?
【だが…】
「だが?どうしたんだよ」
【我はお前を殺すのが惜しくなったのだ】
まさか?こいつは俺を仲間にしようとしてるのか?
「な…何でだよ」
【色々と勿体無いだろう?】
「色々って何がだよ!」
魔界の王子は動けなくなって硬直しているルナの顎をくいっと右手で持ち上げる。そしてあと数センチで接吻が出来るまでに顔を寄せた。
続く