バトルⅢ-Ⅳ
少年少女は全力で戦い、そして敗北した。
「ここで待ってろ…俺があいつらを…」
倒せる気はしない。だけど、きっとあいつらは俺が逃げても追っかけてくるよな?
なんていうか、そういう卑怯な事は平気そうだし…だいたいこっちは2人なのに相手が50人とか考えられないだろ!
あーむかつく!くそ!こうなったらもうあれだ!どうにかする!
「俺は最強だ!最強の魔法少女だ!たぶん」
ルナは少年少女を木陰に優しく寝かせると再び怪人に向かった。
「逝って来る!」
ルナは死亡確定フラグを立てて敵前へと戻った。
【おや?逃げ出したのかと思っていたが、戻ってくるとはな。お前は相当の馬鹿だろう?】
魔界の王子はそう言いつつも、まるでライバルの再登場の時のような嬉しそうな顔をしている。
「ふっ…ふんっ!お、俺はまだ本気を出してないんだぞ!そして、あれだ!お、俺の相棒をボロボロにした償いをしてもらうからな!か、覚悟しろよ!」
体が、そして声が震えるルナ。
【何を強がっているのだ?体が恐怖で震えているではないか。ボロボロで怯えた表情で、よくそんな事が言えたものだ】
「う、煩いぞ!」
魔界の王子の言った事はだいたい合っている。しかし、認めたら負けだ!
やってもやらなくても殺されるのなら…
ルナは足に力を込めた。シュンっと高速でマンモス怪人の下に潜り込む。
やって負けた方がましだろ!
「図体のでっかいやつななぁ…!」
ぐっと右拳に力を込めるながらしゃがむ!
「こういう場所が最高に弱いんだよ!タブンな!」
そう言ってジャンプしながら、股間をおもいっきり突き上げた!
「必殺!スクリュー昇竜撃!」※技名がないと格好が悪いのでルナがつけました。
マンモス怪人の股間に拳がずぶッとめり込む!
「な、なんで股間に拳がめり込むんだよ!って…まだ!まだだ!連続コンボ攻撃!オーバーヘッドキックみたいだけど、実はつま先でダメージを与える攻撃スペシャル!」※技名は長ければいいってもんじゃないよね?
めり込んだ拳を軸にして、くるんと体を後転しながらこんどはマンモス怪人のお尻を蹴り上げる!同時にすぽーんと抜ける拳。
マンモス怪人の丸まった背筋がピキっと伸びた。そして電流が走ったかのようにブルルっと震える。
【マモォォッォン!】
直立して低い声で唸るマンモス怪人。そしてそのまま仰向けにズーンと倒れた。ルナもそのまま地面に仰向けに倒れた。
「よしっ…ま…まず一匹…」
ここで本来のバトルものならば魔界の王子と会話とかの流れなんだろうが、現実では違った。
仰向けに地面に倒れたルナを、武器を持った怪人が寄って集って攻撃する!
【そいつを倒せ!殺してしまえっ!】
【今だ!今がチャンスだ!】
刀が、そして槍がルナを一斉に襲う。
「一気にくるなって!きもい!うざい!怖い!」(最後のが本音)
そう言いながら高速地面横回転でその場を脱出したルナ。
体中が土まみれ。顔も土まみれ。そして、ダメージを受けていた戦闘ドレスの左肩から先がぽろりと解れて落ちた。
腫れて血まみれの左腕が露になる。指先から血が地面へと滴り落ちる。
【ほほう…そんなにボロボロなのになかなかやるな。本気で俺の側近として欲しくなった】
戦闘には加わらずに遠めでルナを見ている魔界の王子。
「だ、誰がお前の側近になんてなるか!どうせそう言って油断させて俺を殺す気だろ!」
魔界の王子の表情がルナの言葉を聞いて不満げに変化した。そして手の平をルナに向けて突き出しす。
【残念だ。魔法少女ルナよ】
えっ!嘘!さっきの光線がまたくるのか!?
「ま、待て!ちょっと待って!今も苦戦してるのに、それってオーバーキル攻撃だろ?ここはあれだ、もうちょっと様子を伺ってたほうがいいんじゃないのか?」
しかし、魔界の王子はルナの意見を無視して魔法の詠唱を始めた。
【とても強く勇敢な魔法少女ルナよ…残念だがここで死ぬのが運命のようだな。お別れだ…】
「だから待てって言ってるじゃん!ちょっと待って!タイム!タイムの意味わかるかな?ストップと同じだぞ?」
しかし詠唱は止まらない。
「あっ!お前の仲間は?お前の仲間がここにいっぱいいるのに撃つのか?それって無いだろ?」
そう言いながら、ルナは怪人を羽交い絞めにして後ろに隠れた。
怪人を盾にする魔法少女。ぶっちゃけ卑怯です。
【お、お前!正義の味方じゃねーのかよ!】
羽交い絞めにされた怪人が怒鳴った。
「煩い!正義の味方とかなった記憶は無い!それに、俺はまだ死にたくないんだよ!」
怪人とルナの言い合いの途中で魔界の王子は魔法を放った!
うひゃ!躊躇ねぇぇぇ!
ぐっと足に力を込める!こんなのもう一発浴びたら完全に終了だ。こうなったら一か八かっ!
ルナは怪人をつき放すと、左に移動しながら体を前方に前のめりに倒す。そして、地面ぎりぎりで顔が触れるか触れないかの所で足に力を込め、地面を駆け出した!
ぶっちゃけ地面に体がすれている。しかし、両手の平で地面をすりながらルナは前に突き進む!
焦げ臭い匂いがする。肉と皮の焼ける匂いだ。手の平からは凄まじい痛みが脳へと伝達されている。
「ぐぅぅぅぅ!すげぇ痛いっ!だけど…俺はっ!」
魔法が背中ギリギリを通過した!背中に激痛が走った。戦闘ドレスが背中部分からぶわっと裂けた。後方からは【ぎゃあああ!】と怪人の断末魔の叫びが聞こえた。
だが!躱した!
ぼろぼろっと戦闘ドレスの左半分が裂けて捲りあがる。そして、ルナの左胸部が露になった。
しかしルナは止まらない。胸が見えてようが、恥ずかしいとか言ってる場合じゃない。
ルナは超加速で一気に魔界の王子へと迫る。
【なっ!何だと!?躱しただと!?】
驚いた表情でルナを見る魔界の王子。
「魔界の王子様!教えてやる!今すぐにでも倒れそうだ!そして、もうヘタヘタだ!でもな…」
【うおっ!?】
「俺もただじゃやられねぇ!人間様をなめるなよ!」
【何をする気だ!】
ルナは残った力すべてを両足に込めた。そして、両足を揃えて折りたたむと一気に力を込めて地面を蹴る。
土煙が舞った!そしてルナの体はまるでロケットの発射の様に飛んだ!
「最後の力を振り絞って…自らを犠牲にして…敵を倒す!これが人間魚雷だぁぁぁ!」
『ドーン!』と一直線に魔界の王子に向かって高速で飛ぶルナ!その姿は本当にロケットに見えた。
人間魚雷ルナは一直線に魔界の王子へ向かって飛んでゆく。
土埃を舞い上げながら高速で魔界の王子に迫るルナ。
躱せないと悟り、焦った表情で防御を試みる王子。
そして…
激しい衝突音が辺りに鳴り響いた。