バトルⅢ-Ⅲ
いきなり裏切っていいかなんて聞くルナ。少年少女は「へっ?」っと目を丸くしてルナを見た。
『な、何を言ってるんですか!貴方は魔法少女であり、正義の味方なんですよ?いきなりあっちに行っていいかとか聞かないで下さいよ!』
少年少女は両手をはたはたと胸の前で振りながら強い口調でルナに訴えた。
「待て!どう見てもあっちの方が強そうじゃないか!俺は自分から正義の味方になった記憶はこれっぽっちもない!ぶっちゃけ、俺はまだ死にたくないんだって!負け=死亡じゃないのかよ?」
『だ、駄目ですよ!だからってあっちに行くとか言っちゃ!あいつらはあんな事を言ってますが、本当にルナさんの命を助けてくれるかどうかなんて解らないじゃないですか!』
「うっ…た、確かにそうだよな…あいつらも俺を騙してるかもしれないよな?」
『もって何ですか!私はルナさんを騙してないですよ?』
「そうか…騙す前に女にしたんだからな…」
『そ、それは…でも、今はそんな事を言ってる場合じゃないでしょ?』
ルナが怪人達を見ると、殺気がムンムン伝わってくる。確かに言い合いしてる場合じゃないと理解した。
「た、戦うしかないのか?」
『そうです!僕も一緒に戦いますから!だからがんばりましょうよ!』
少年少女に励まされる魔法少女の図。
「えっと?でも…一緒に戦うってさ…お前って戦えるのか?」
『一応は僕だって戦闘用の人工生命体ですから!戦えます!いえ、戦います!』
ルナは少年少女の姿を確認する。中性的な美少年にも見える女の子。背中には大きなダミーの羽根がついている。正直に言って強そうには全く見えない。胸もちょっとしかない。
【どうやら我の元には来ぬようだな。残念だ…】
台詞を吐くと、魔界の王子がマントを翻しルナを指差した。すると、マンモス怪人がズンズンと先陣をきってこちらへ向かってくるじゃないか!
「でっかいのがイキナリ来たぞ!お、おい!武器をくれよ!何かないのか?魔法少女っぽい武器!俺って素手だぞ!」
『武器なんてないです!素手で頑張ってください!』
「待て!普通なら魔法少女って武器を持ってるだろうが!ステッキとかさ!何で俺には無いんだよ!」
『そんなに欲しいのならトイザラスで買って来てくださいよ!』
「トイザラスって玩具じゃねーか!馬鹿か!っていうか来たっ!」
すごい勢いで迫るマンモス怪人。そしてでっかい鉄製のハンマーを振り上げた。
『ルナさん!マンモス怪人は僕が押さえます!』
そう言った少年少女は『はぁぁぁ!』と雄たけびをあけると両腕を剣に変化させた。
「す、すごいじゃないか君は!」
思わずへんてこ上司的な台詞が出てしまうルナ。
『感心してないでいいですから、ルナさんは他をお願いしますね!』
少年少女はそう言うと、ヒュンっとマンモスに向かって飛び出した。
ガキーンとぶつかる武器と武器の音!少年少女がでっかいハンマーを弾いた!
武器と武器がぶつかり合い飛び散る火花!激しい金属音。
あのへんてこ人工生物がSSランクの怪人と互角にやりあっている!
ここでルナはちょっと冷静に考える。
えっと…あいつがマンモス1体を相手する…と言う事は…残り49は俺が相手?かおかしいだろ!?
そんなこんなで、AランクやSランクの怪人がうじゃうじゃとルナを取り囲んだ。
「か、か弱い少女を取り囲むとかイケナイ事だと思います…」って言うだけ無駄か?
ルナは両拳に力を込めた。ぐっと構える。しかし、拳はブルブルと震えて止まらない。
なんだかんだとやっぱりルナの心には恐怖心が芽生える。
ルナは喧嘩なんて強かった訳じゃないし、それどころか、殴り合いの喧嘩なんてやった事が無い。この前のゴキブリはたまたま勢いで倒せただけだ…
「な…何でこんな事になってんだよ…」
声まで震えるルナ。しかし、ルナが震えてようが、怯えてようが、怪人は躊躇しない。
【死ねっ!魔法少女ルナ!】
一気に襲ってくる怪人。ルナは次々に迫る敵を…その瞬発力で躱す!躱す!躱す!
「ひいぃ、うわっ!それって刺さったら死んじゃうから!やめろ!やめてって!お願いだから!ひっ!くそぉぉ!」
ルナはヤケになって怪人の一人に向かって殴りかかった。
《ドゴン》と重低音が響くとザリガニ怪人の胸がべこりと凹む。そしてそのまま吹っ飛び、泡を吹いて倒れた。
「へっ?あれ?や、やったのかな?」
【よ…よくも俺の兄弟を!】
後ろからカニ怪人が襲ってくる。ルナは振り返りつつ裏拳!
《バシュ》っとカニ怪人の顔にヒット!怪人はくるくると空中を舞って地面に突き刺さった。
もしかして倒せるのか?俺は敵のランクがAでもSでも戦えるのか?
勝てそうだと解った瞬間からルナは強さを発揮した!怪人を倒す!倒す!倒す!
「俺って強いじゃないか!」
自画自賛である。しかし、そんなルナをニヤリと笑みを浮かべてみていたのは魔界の王子だった。
【流石最強の魔法少女だな…だが、これでどうだ?】
魔界の王子はそう言うと、呪文のようなものを唱えながら手のひらをルナに向けた。
「んっ?」
ルナが魔界の王子の手のひらを見る。そして、その手の平が光ったと思うと、光線のようなものが飛び出した!
「えっ?ま、待てよ!と、飛び道具とかなしだろ!」
《ピカー》っと光る閃光でルナの視界が奪われた。目の前が見えない!これでは避けれない!
目が眩んで避けれないと解ったルナは、胸の前で腕をクロスさせて防御姿勢を取る。
それと同時に光線がルナを直撃した!
《バリバリバリ》っと激しい電撃の音が周囲に響き渡る!
「うわぁぁぁあ!」
激しい衝撃と激痛がルナを襲った!魔法少女になって始めてのまともな痛み。そしてルナはそのまま後方へと吹き飛ぶ。
『ル、ルナさんっ!』
思わず余所見をしてしまった少年少女をマンモス怪人は見逃さなかった。
【マンモーン!マモモモーン!マモマモ!マモーン!】
作者が安直に?考えたであろう呻き声をあげて、でっかいハンマーを「ハンマープライス」ばりに「ドーン!」と真上から少年少女を叩きつけた!
『し、しまったっ!』
《ゴズン!》っと鈍い音がしたと思うと少年少女にハンマーが直撃する。
『きゃぁぁぁ!』
速報:少年少女の悲鳴は可愛い女の子の声だった!
地面に激しくたたきつけられた少年少女はバウンっと地面でバウンドする。ダジャレじゃないよ?
あまりの酷さに周囲の怪人が思わず目を覆った。見てるだけでも相当痛そうだ。
しかし、やっぱり怪人は容赦しない。ダメージを受けて地面に倒れこむ少年少女へ向って攻撃を開始する。
「お、お前ら!これはコメディーバトル小説なんだぞ!?本気になっちゃ駄目だろ?だから少しは遠慮しろよ!あれだぞ?ちょっとボケを噛ましてもいいんだぞ?」
そう言いながらよろよろと立ち上がったルナ。だが、誰も聞いてくれません。
おい、聞けよ…俺って一応は主人公なんだぞ?っと思いつつ、左腕を右手で押さえながら苦痛の表情のルナ。
ルナの左腕に《ズキ》っと激しい痛みが走った。そして、右手にぬるっとした感触が伝わる。
やばい…左腕がむちゃくちゃ痛いぞ…それにこれって…
ルナは左腕を見た。すると左腕は真っ赤に張れ上がり、一部は皮膚が裂け、そして血まみれになっていた。
「何だよこれ…これ…やばい…だろ?痛っ…」
そういう間にも少年少女は攻撃されまくっていた。
しかし、今はなんとか起き上がって、なんとか耐えているとう感じだ。
【はははっ!弱いな?こんなものなのか?魔法少女よ!】
「っていうか、お前らが本気すぎるんだろ!」
なんて文句を言ったが聞いてくれるはずもない。
怪人は卑怯ともいえるくらいに全力で少年少女に攻撃している。
ルナは今になって理解した。こいつらがさっき言っていた事は紛れもない事実だったという事に。
普通のアニメとか漫画とかの場合は初期から強い敵なんて出ない。だいたい後半から強い敵が出始めて、そして最後にラスボスだ。
でも違った。強いやつは真っ先に殺す!邪魔な奴は真っ先に消す!そう、これが現実だった。
そうだ…こいつらは全力で俺達をつぶしにきたんだ。
「ははは…そっかそうだよな…俺が甘かったんだ…」
マジで俺は甘かった。怪人は簡単に倒せるって思い込んでいた。そうしたら、いきなり魔界の王子様の登場だとさ…
これって、RPGで旅に出て最初にあった敵がラスボスだった。こういう気分だな…
その時だった!「ザグ」っと、とても嫌な音がルナの耳に入ってきた。ルナはハッとして少年少女を見た。
すると、背中に剣を突き刺され、口から吐血して倒れる少年少女の姿が目に飛び込む。
「う、嘘だよな?嘘だろ!」
ルナは震える足に力を込めた。少年少女の大ピンチ!流石にこれは見逃せない!そして、一気に加速して少年少女に近寄ると肩を抱えて戦線離脱。
少年少女を見ると、ヒューヒューと虫の息だ。背中からは大量の出血。
血の気が引いた青い顔の少年少女が虚ろな目でルナを見た。
『ル…ルナさん…僕…やられちゃった…』
言葉を発するごとに口内から吐血する少年少女。それを見ているだけで体が震えるルナ。
これが本当の死闘をした姿なんだ…
「しゃ、しゃべるな!わかった!見ればわかるから!」
『流石だね…最強の怪人は…とても強…かった…よ』
「強いな…俺も勝てる気がしない…ほら、わかるか?俺も、もうボロボロにされてる。見ろ…体もすっげー震えてるんだぞ…」
『あはは…ホントだ…』
「くそ…マジで勝てる気がしない…」
『ルナ…さん…逃げても…いいよ?僕は…どうせ人工的に…つくられた物…だし…捨てても…い…げほっ』
少年少女は激しく吐血した。
「おい!大丈夫か?もう話すな!話さなくっていいから」
『ルナさん…優しい…僕…そんなルナさん好きでした…だから…逃げて…いいから…僕は…捨てて…』
「あ、あほか!なんで第3話で最終話みたいな会話してるんだ!大丈夫だ…俺には秘策があるんだ」
なんて意地をはるルナ。しかし、ぶっちゃけ秘策なんてなかった。
くそ…勝てねぇ…あの王子様が強すぎる。あの魔法は卑怯だ…
険しい顔をするルナを見て勝てない事を理解する少年少女だったが…
『…やっぱりルナさんは…すごいや…きっと…奇跡を起こす…んです…ね…』
奇跡を信じて少年少女は気を失った。