バトルⅢ-Ⅱ●
挿絵があったりなかったり。
怪人を倒す為に勢い良くアパートを飛び出した少年少女だったが…
「ちょ、ちょっと待て!」
ルナの声が聞こえた。少年少女が後ろを振り返るとルナがついて来ない。
どうやらルナはまだアパートの中の様だ。
『待ってじゃありませんよ。早くして下さい!何をしてるんですか?』
少年少女が呆れた表情でアパートの中を覗くと、中ではあわふたと戦闘ドレスに着替えているルナの姿があった。
『早く着てくださいよ…もうっ、遅いなぁ』
その言葉にイライラが募るルナ。
ぶっちゃけブラがうまく付けれない。いや、付けた事がないのだ。
元が男でブラジャーの着用経験がある方が危ない奴だから仕方無いのだが、うまく付けられずに、イライラして顔がだんだんと赤くなるルナ。
「なんでいちいち下着から着けなきゃ駄目なんだよ!こう時はあれだろ!変身出来るようなアイテムがあって、それで一発で着替え終わるとかじゃないのか?こう、ボタン一つで服が着られるような奴だよ!よく魔法少女とか持ってるだろ!無いのかよ!」
ルナがそう言うと、少年少女は呆れた表情で溜息をつくいた。
『我が侭を言わないでください。漫画じゃあるまいし、そんな便利グッズなんてあるじゃずないじゃないですか。下着は自分で付ける。服は自分で着る。ルナさんも赤ちゃんじゃないんですよ?その位は出来るでしょ?』
少年少女が言った事はいたって当たり前。しかし、その態度にルナはひくひくと震えた。
「お前…超むかつく…」
そう言ってルナは体を震わせてブラジャーを床に投げ捨てると、少年少女へ歩み寄る。
近寄るルナに殺気を感じた少年少女はゆっくりと後ずさりを始める。
『な、何ですか?ま、待って下さい、ブラ、ブラジャー付けて下さいよ!殆ど無い胸が見てますっああぁぎゃあああ』
ルナの攻撃!
少年少女は3209のダメージを受けた。
少年少女は気を失ってしまった。
《デロデロデロロン》(効果音)
「よく考えれば、俺って胸ねーし!ブラなんていらねーよ!」
ブラジャーを投げ捨てたまま、裸に戦闘ドレスを着こむルナ。パンツだけは穿いてる。
そんなこんなで、やっと準備を終えたルナ。
玄関で気絶している少年少女を背負うと、そのまま怪人の居場所へと向かった。
中略してあっと言う間に怪人のいる場所。
「よし、ここか」
ルナはそう言って少年少女をゴミのようにぽいっと地面に投げ捨てた。
ゴロゴロと転がる少年少女。そしてその衝撃でやっと目を覚ます。
『あ、あれ?もう朝ですか?』
「テンプレっぽく寝ぼけてるんじゃねー!」
『えっ?てんぷら?』
「何が天ぷらだ!着いたって言ってるんだよ!怪人がいる所へ!」
『怪人?なにそれ美味しいの?』
「お前、俺を舐めてるだろ?」
ルナは戦闘態勢に入った。
『あ!そ、そうだ!怪人!怪人ですね!早く怪人を倒しに行かないと…』
「だからもう着いたって言ってるだろうが!」
『あ、あれー?』
そんな二人が到着したのは某白岡市内の公園だ。
ここは、広い野球場やサッカーグラウンド完備の広い公園で、市役所まで徒歩圏内の好立地だ。
今日は月曜日なので人はあまりいない。
「で…どこだよ?怪人は?」
『え…えっと?』
ぶっちゃけ、公園が広すぎて怪人の居場所が解らない。アニメみたいにうまく怪人に会えるような事もない。しかし!今はハイテク時代だ。怪人もアプリで探せる時代です。
と言う事で、少年少女はスマホで怪人の位置を確認した。
『あそこです!』
そう言って少年少女が指さしたのは野球場である。
「あそこか…」
ルナがホームの付近から中に入ると、外野の方に怪人らしき影が見えた。
そして、ルナは怪人を見て焦った表情になる。
おいおい…ちょっと待てって…なんだよあの数は!
ルナは焦り捲くっていた。それもそうだ。レフト側の外野には怪人がなんと50人位はいた。
そして、中にはマンモスのような七メートルはあろう巨大な怪人や、ヴァンパイアのような美男子の怪人までいる。
「おい…ちょっと敵の数が多すぎじゃないのか?あと、中心のあいつら…すっごい強そうなんだけど?」
『そ、そうですね?すごい敵が多いですね…僕もこの数の怪人は始めて見ました』
「そ、そうなのか?しかし…これは勝てるのか?俺は?」
『えっと…そうだ!写メで上司にランクの確認できるんです!』
「えっ?そんな機能まであるのか?」
『はい、敵のランクによって報奨金(給料)も変わりますからね』
「そっか!確認を早急に頼む!相手が強かったら俺もやばい」
今回は報償金とかって言う前に、こいつらを倒せるかっていうのが重要だ。
流石に負けたくないっていうか…負けるってどうなる事なんだ?確認してなかったな。
もし、拉致でもされて、エッチなゲームみたいな展開になったら最悪だ。
いや、エッチなゲームみたいな展開って何をされるかって?俺からは言えないから想像しろ。
で…えっと…とりあえず、俺はどうすればいいんだ?
なんて思っていると、ヴァンパイアのような美男子の怪人が台詞を言い放つ。
【はははは!お前が新しく生まれた魔法少女か?ふんっ!手強いと噂を聞いたが…どこが?ただのミニマムペチャパイ少女ではないか!】
いかにも怪人が言いそうな台詞を、ご丁寧に予想通りに言い放ってくれた。いや待て、ペチャパイとか言う怪人はいないだろ?
しかしルナは、くそっ!カッコいい台詞を言いやがって!なんて拳を震わせる。(ルナの感覚っておかしいです)
怪人を見ながらルナも考える。
ここはあれか?俺もズバっと言い放った方がいいのか?いいよな?とりあえず怪人共がびびるような台詞を言ってやる!
ルナはこの前見た魔法少女の戦闘ものアニメの台詞を思い出そうと頭をフル回転させた。
大好きで何度か見たアニメ。そのお陰ですぐに思いだした。しかし…
待てよ?あの魔法少女の台詞は女の台詞だよな?
そう、アニメの魔法少女が元男なんてことはない。ちゃんと女の子の台詞になっている。
でも仕方ないか?仕方ない、仕方ないよな…今は俺も女だし。っと自分に言い聞かせる。よし!今日の俺は女だ!
そして、ちょっと照れつつもルナは怪人を指差して言い放った。
「私は魔法少女ルナ!私を見かけで判断しちゃダメなんだからね?私は強いんだぞ!」
自分なりに可愛く言ってみた。でも、ぶっちゃけこれでびびるとは思えないぞ?ルナさん。
【ほほう…なかなか度胸は据わっているようだな?まったく胸のない魔法少女よ】
ほらみろ。
「さっきから胸がないとかペチャパイとか煩いわね!ちょっとはあるわよ!昨日の夜だって、お風呂で触って揉んだらむにゅってしたんだから!」
『じ、自分の胸を触って揉むなんて…へ、変態?』
速攻で反応したのは少年少女だった。
「お前が反応するんじゃねー!」
思わず男言葉に戻るルナ。まぁそんなもんです。
【ふんっ…まぁいい。かかって来い!貧乳少女よ】
「くそーー!俺に出会った事を後悔させてやるからな!」
元が男の癖に、胸を馬鹿にされてイライラするルナ。
少年少女のスマホから音楽がする。少年少女はスマホを見る。どうやら敵のランクが判明したらしい。
『わかりましたよ!敵のランクが判明しました!』
「おお!あいつら、どのくらいの強さなんだ?」
ルナはちらりと少年少女の方を振り返る。
『えっと、ランクはZからSSSまであるんですが…』
「ああ」
『昨日の虫の怪人はDで、魚顔の怪人がCでした』
「あんなのでそんなにランクが上なのか?で、今日の奴は?もしかして楽勝レベル?」
『えっと…今日のは…マンモス怪人さんがSSで、ヴァンパイアロードさんがSSSです。あ、ヴァンパイアさんは魔界の王子みたいです!SSSでも特SSSです!』
ルナの顔が引きつる。
「えっと待て?ちょっと聞いてもいいか?その特SSSって…ぶっちゃけ強いのか?」
『そりゃもう!私の担当だった、前の魔法少女さんがその特SSSに手も足も出ずに殺されたくらいですから!』
そう言って満面の笑顔になった少年少女。っていうか…そこで笑顔はないだろ?
「殺された…だと?おい!俺は今日がまともな戦闘の一回目だぞ?一撃で撃退できたゴキブリなんて戦闘じゃない。魚頭なんて戦ってもない!で、今回の初めてのまともな戦闘でいきなりそのランク?」
『はい!』
「それって無しじゃないのか?いきなり特SSSの魔界の王子ってどういう事?普通は最初の敵って弱くって、そういのって最後の方だろ?」
『と言われましても…これが現実です』
と…特SSSだと?なんでそんな強い奴がいきなり相手なんだよ?
冷や汗をかきながら魔界の王子を見る。
こ、こいつって…あれか?RPGで言えばラスボス級って奴だよな?
【どうしたのだ?顔が青いではないか?我々の強さを理解したからかな?】
そう言って魔界の王子はクククっと笑った。
「ひ、卑怯だろ!俺は昨日魔法少女になったばかりなんだぞ?それなのにいきなり最強ランクの敵とかなしだろ!それに何だその数は!こっちは2人なんだぞ?50対2とか卑怯すぎるだろ!」
まともに戦ったら負けると直感したルナは、思った事を正直に言った。
【ふんっ…何を言っているのだ?強い奴にはそれ以上に強い奴をあてる。そして数で押す。それが戦いの定石であろう?我々も負ける為に戦っている訳ではない!こちらは被害を出したくないのだ】
魔界の王子はキリッっとした表情でそう言い放った。
そしてルナも納得した。確かにそうかもしれない…もっともな意見だ…
『あ、そうそう…ルナさん、魔界の王子とマンモスの取り巻きも、最低でもBで、Sランクもいますね…いわゆる魔族一軍ですね…これはいきなり最強軍団が相手です』
ルナの顔色が一気に青くなった。そしてガタガタ体が震えだす。
う、嘘だろ?取り巻きってMOBキャラの事だよな?いわゆる雑魚だよな?真っ先にやられるキャラだよな?でもなんだそのランク?
取り巻きの癖して、ショッカーみたいに「キー」とか言ってやられてくれないのか!?
【どうした?戦わずして降参か?ふふふ…降参するのであれば、我の参加に下れ。そうすれば命だけは助けてやろう】
ど、どうしよう…これって勝てる気しない…こういう場合は…こういう場合は…
ルナは引きつった笑顔で少年少女に向かって言った。
「お、おい…俺さ…あっちに行っていい?」