バトルⅢ-Ⅰ
ピピピピという目覚ましの音と同時に、チュンチュンとすずめの鳴き声が外から聞こえてくる。
ルナは目覚ましを半分寝ている体を無理やり動かして止めた。
寝ぼけまなこでカーテンんを空けて外を見ると、外には青空が広がっている。
今日は晴れか…
ルナはいつののようにふらふらと立ち上がると、歯を磨いてからスーツを着込む…はずだった。
「うわぁぁ!」
『ど、どうしました?』
少年少女がルナの雄たけびで目を覚ました。
「お、俺が女になってる!」
『なーんだ…もう…昨日から女でしょ?まったく…もう一回寝ようっと…』
そう言って再び布団に潜り込む少年少女。しかし、少年少女の寝ていた布団は激しい勢いで捲られた!
『な、何をするんですか!』
「そうだよ!俺は昨日お前に女にされたんだよ!おい!どうするんだ!これじゃ仕事に行けないじゃないか!」
『…そうですね…行けないですね…じゃあ、おやすみなさい』
ルナはヒクヒクしながら思いっきり少年少女の頭を蹴った。
『痛っ!な、何ですか!もう!』
「何ですかじゃねぇよ!他人事すぎるだろ!お前が俺を女にしたのに何だその態度は!」
『…でも仕方ないじゃないですか?その姿になっちゃったんですし…諦めも肝心です』
ルナの眼光が鋭く光る。まるで獲物を殺す前のハンターの目だ。少年少女はびくんと震えた。
「お前のせいだろ?責任とれよ!会社に行かないと俺は首になるんだよ!」
『えっ?だからって、僕がどうしろと?』
「どうにかしろよ!お前のそのブラックカードをつくったバック組織にでもヘルプを頼んでくれよ!給料が入らないと俺は生活が出来ないんだよ!首になったら困るんだよ!」
ルナは涙目で訴えた。それほどまでに深刻な問題なのだ。
お金は大事だよ~。いや、マジで困るよね?
『わ、わかりました…じゃあ…会社の電話番号を教えてください…』
「うぅぅ…ほら!これだ」
少年少女は番号を確認すると、自分の持っている機械で電話をかける。
それって完全に携帯なんだな…
『あ、もしもし?えと、私、ルナさんの親族のものですが…』
「うまく言えよ?」
少年少女は親指をぐっと立てた。
『あ、はい!えっとですね?ルナさんですが…おたく辞めますから!』
「ぶーーーーー!」
『あ、もう行きません。はい。ああ、給料もいりません。はい!いいです!構わないでください!それではまた~』
「…な、な、な?」
『よしっ!ちゃんと辞めれましたよ!あれ?ルナさん?』
バッっとルナが少年少女から機械を取り上げる!
「あ、もしもし?俺です!ルナです!やめませんから!俺は辞めませんよ?えっ誰だって?俺ですって!ルナです!本人です!ああっ!切らないで!切らないで!き……」
ルナはガクンと項垂れると、電話のような機械を床に落とした。
『ド…ドンマイ!』
「何がドンマイじゃああああ!」
その時は周囲の時間が止まったのかと思いました。
確かに僕は普通に部屋に立っていたはずなんです。なのに、気がついたら僕は畳の上に横たわっていました。
どうやら僕は数分間気を失っていたみたいなんです。
いやぁ…今思い出してもすごかったです。本当にあの時のルナさんの動きは見えなかったんですよね。
少年少女暴露日記から抜粋。
『ぐぅぅ…ううぅぅ…ぐす…』
少年少女が意識を取り戻すと、横であのルナが泣いていた。
「どうしたんですか?ルナさん?」
涙目でキっと睨まれた少年少女。
『こ、怖いですよ…』
「お前のせいで会社を首になった!っていうか行けなくなった!」
『だから、大丈夫ですって』
「何がだよ!」
『僕のいる会社に入社手配済みです』
ルナの目が点になった。
「えっ?どういう意味?」
『魔法少女になった時点でうちの会社の社員になったんです』
「…えっと?魔法少女ってそういうものなのか?」
『他は知りませんが、うちはそういうシステムです』
「…で?給料は出るのか?」
『出ますよ?』
「いくら?」
『怪人を倒した数とランクによって変化しますが、一匹で平均10万です』
「い、いっぴきでじゅうまん?」
ルナの目の色が変わった。
『はい』
「き、昨日の2匹は?」
『それも入りますよ?』
「うぉぉ?マジか!マジか!マジなのか!?」
『そりゃ、ただで魔法少女をやってくれなんていいませんよ』
「…えっ?えっと…俺は今が初耳だけど?」
苦笑しつつ首を傾げるルナ。
『あ、あれ?そ、そうでしたっけ?』
同じく苦笑しつつ首を傾げる少年少女。
「まさか…言うのを忘れてたとかないよな?」
『…ま、まさかぁ…』
「忘れていたんだろ?」
『…は、はい』
「貴様ぁ!」
ルナは右拳を振り上げた!両手を頭の上に被せて怯える少年少女。
『ひぃぃ!』
しかし、ルナはすぐに手を引いた。
「と…本来はなる所だが、今回は特別に勘弁してやる」
そう言うルナの表情は妙に嬉しそうだった。
ここからルナの心の声。
やった!予想外だ!魔法少女って収入があるのかよ!
今の会社は男に戻っても勤めができるか微妙だけど、怪人を倒して収入があればなんとかなる!
一匹十万円って事はだぞ?100匹倒すと元に戻れるんだろ?っていう事は…1000万円!?
うおおおおおおおおおおお!
ルナは小さくガッツポーズをした。
そしてその時だった。少年少女のスマホが鳴り響く。そう、これは怪人が出たメールの音だ!
「か、怪人か!?」
ルナは鼻息を荒くしながら聞いた。少年少女はスマホのメールを確認する。
『あ…マックからのメールだ。僕はあまりマックは行かないからなぁ…』
ルナが震えた。何故にマックのメールがお前に届くんだ!と言うか、お前はいつマックに行ったんだよ!
ルナが心で叫んでいる最中にまたメールが届く。
「こんどはロッ○リアか!」
顔を真っ赤にしてルナが叫ぶが、少年少女は澄ました顔でメールを確認した。
メールの内容を見た少年少女の顔色が変わる。そして…
『か、怪人です!出ました!』
ついに怪人が出たメールが来た!
「な、何だと!?」
『さっそく退治に行きましょう!場所はここです!』
「おお!近いじゃないか!よし!行くぞ!行くぞ!」
ルナは前のやる気の無さが嘘のようにやるき満々である。
人間ってお金が絡むとこうも変わるものなのか?はい、変わるものです。
『では出発しましょう!』
少年少女はアパートのドアを開けると勢い良く外に飛び出した。