第二話 三毛猫 野良 ♂ 二歳
動物の声が聞こえたら、多分こんなこと言ってるんですかね?
公園での一件には参った。
ベンチの側だったのがせめてもの救いだ。意識を失った直後、自分の真後ろに有ったベンチに倒れたお陰で怪しまれずに済んだ。あの公園には寝てるサラリーマンが多いからだ。
さて、急がなくては。これから友人の家に行かなくては。
友人の家に行くには商店街を通っていくのが手っ取り早い。
あと数十メートルほどだな。
ん? あれは。しまった、路地の影に猫が!
くそう。このままでは。
松本の能力は、松本の意識を消し去り、その本性を現した。
へっへ。今日の獲物は鯵だな。「魚本」は青魚が旨い。
ああ、でも、一尾2500円の真鯛も捨てがたい。鯛好きなんだよなあ。
う〜む、悩むなあ。鯛にしようか、鯵にすべきか。
くそっ。あの店主め、なかなか頭がキレると見た。チクショウ、鯵と鯛を一目で確認出来るポジションに立っていやがる。どっちかを盗みに行ったとしても、確実に見付かる。しかも、あの店主はあのポジションを死守していやがる。客は全部嫁に任せて、あそこからほとんど動かないときたもんだ。
え〜い、舐めやがって。
ん。電話。ちっ、嫁が出た。
いや、これはチャンスだ。こうなってしまえば店主が店番をせざるを得ない。ふふ、貰ったぞ。
「はいはい、アサリですね」
動いた、今だ!
「500円です」
貰ったあぁ!
「毎度!」
行ける!
「ああ〜。猫ちゃんだあ! か〜わいい」
何! 子供!
しまった、これは計算外だ。まずい抱き上げられた、身動きがとれん。
「ママ〜、見てみて」
くそう、放せ。くそっ、店主があのポジションに。
「あらあら。まみちゃんはなしてあげましょうね」
そうだ、今すぐそうしろ!
ああ、嫁が帰って来やがった。これでは盗めない。
くそう。放せ。
「痛いー」
許せ、軽く引っ掻いただけだから深くはない。一週間で治る。それよりも鯛だ。
「大丈夫?」
よし! 嫁が女の子に近付いたぞ。これで店の守りは手薄だ。今しかない。
店主め、俺に気付いたな! 仕方有るまい、店の前で騒ぎを起こしたのだからな。しかし、気付いたからどうだというのだ、俺は行くぞ!
「あっ。このやろ」
ふはははは。遅い遅い遅ーい! この鯛は俺の物だ。
ん? 後ろから他の猫の群が……? はっ、アイツ等俺を囮にして。俺は踊らされていたのか。
「捕まえたぞ、この泥棒猫め!」
しまった! 捕まった! 放せ! オイ!
「ああ、仲間がいたのか!このお、ゆるさんぞ!」
待て! 違う! アレは俺とは関係ない!
や、やめろぉぉぉぉぉぉ!
はっ。またか。また、動物の声が聞こえた。
うっ、俺の周りに人だかりが。まずい、今すぐここから立ち去ろう。
しかし、この力にも困ったものだ。
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