第一話 ゴールデンレトリバー ジョン ♂ 四歳
一気に書き上げた作品です。
結構駄作です。
面白いと思ったら、評価と感想の方、よろしくお願いします>
俺は公園のベンチで本を読んでいた。本といっても、重苦しいタイトルの本ではない、ただのマンガ雑誌だ。今日発売で今し方買ってきたものだ。
マンガが一区切りつき、ふと顔を上げた。すると、目の前に若い男女数人と、赤い首輪のゴールデンレトリバーがいた。
しまった。と、おれは思った。何故なら俺は、目の前に動物が居ると、その動物の声が聞こえてくる。しかもその間、他の声は全く聞こえない、いや、そのほかの感覚全てが消え去る。
まずい。そう思い、手にしたマンガを放り出し、ベンチから立ち上がって逃げ出そうとした。しかし、俺の奇妙な能力は、俺が走り出す前に、その本性を露わにした。
フッ。今日は我が主との散歩か。
それにしても、今日はいい天気だ。心なしか、我が主も楽しそうだ。
ん。「お座り」とな。フッ。この私にしてみれば極簡単なことだ。
ほれ、こうすれば良かろう。
なんだ? 「そのまま、待て」とな。いいだろう、我が主が何を成すかは知らぬが、私はその命令に従うのみだ。
ん? なにをしている……? おお! それは私の大好物のビーフジャーキーじゃないか!
なるほどそうか、分かったぞ、我が主の命令の真意が!
我が主は、私の目の前でビーフジャーキーをちらつかせ、私がどれくらい耐えられるかを試すおつもりだな。
いいだろう。我が屈強な精神! 必ずや主のご期待に添えましょうぞ!
ん? 今日はいつもと様子が違うな。私の鼻の上にビーフジャーキーを……。おい、何をするのだ? 一枚、二枚、三枚とビーフジャーキーを私の鼻の上に……。
主のしていることがさっぱり分からん。
ん? おお、それは主の言葉で言う「びでおてーぷ」なるものだ。先日、私の芸の内容を録画しようと、それを使ったことは今でも鮮明に覚えている。
お。鼻の上のジャーキーが四枚、五枚、六枚。段々増えている。
それにしても、ジャーキーの放つ香りはとてもかぐわしい。主の隣の妙な髪の色の女よりも良い香りだ。
ん? こんどは、五枚一気に乗ってきたぞ。
はあ。一体どのくらいまで待っていればいいのだ? 朝から何も食べていないから、益々食べたくなってきたぞ。今すぐにでも、ジャーキーで腹を満たしたい。
ん? いつの間にかジャーキーが十六枚に……。
はあ。腹が減った。早く食べたい。これは、一種の拷問か。何故そんな事をする。これまで、私は主の命令に従い続けてきたではないか! 流石に、初めてあった日は主の存在に恐れを成し、噛みついたり飛びかかったりしたが、それでも今では従順しているではないか! その行いになんの意味がある。
はっ、そうか、わかった。我が主は『人間』だ。『人間』は我ら『犬』よりも遙かに高等で思慮深い生き物。ははは。私はどれほど下等で下らない問題に悩まされていたのだ。人間のすることは、我ら犬のすることよりも遙かに意味のある行い! それを私が完全に理解出来るものか! 私は主の命令に従っていればいいのだ。主の命令に疑問を抱くなんて、私は犬失格だな。
それにしても、私の鼻の上がずいぶん重たくなってきた。
ん。主が何か言っている。
「三十枚突破!!」
三十枚? ああ、ジャーキーのことだな。いやしかし驚いたな。この世にこんなに沢山のジャーキーがあるとは。
む!? しまった! よだれが! まずい。主の前でこんな醜態を晒すとは!
止めねば! このよだれを止めなければ! 主の信頼を裏切るような真似だけはっっっっ!
あああ、止まらない。何故だ、何故止まらない! この香しいジャーキーの香りのせいだな。ならば、このジャーキーをここから排除してしまえば……。
ダメだ! そんな事は許されない。主の命令は絶対だ。待ち続けなければ!
ああ! 腹が! 今、腹が鳴った! 腹の空いている証拠だ!
ああ、ジャーキーが欲しい。今すぐにでも食べたい。私の腹が鳴って懇願している!
主! 早くその命令を解除してくれ! 私はこれまでアナタに従順だった。これからもそのつもりだ!
頼む! 早く食べさせてくれ! ゲラゲラ笑ってないで早く!
食べさせてくれたら、この先何でもする!「お座り」も「伏せ」も、「ちんちん」だってやってみせる!だから早く!
「よ〜し。四十枚目!」
ああああ!早くぅぅぅぅぅぅぅ!!!!!
「おわっ! 崩れた!」
今だ! 今しかない! 主! 済まないが、ジャーキーは食べさせて貰う!お叱りは覚悟している! だが! それは食べ終わった後にしてくれ!
うおおおおおおおお!!!!! じゃーーーーーきーーーーー!!!!!
ガツガツ! バクバク! むしゃむしゃ!
旨い! 旨い! 旨すぎるぞ!
うおおおおおおおおお!!!!! ジャーキーばんざぁぁぁぁぁぁぁぁいいいいいい!!!!
ぐ。またか。またも動物の声を聞いていたようだ。
どうやら、目の前のレトリバーのようだ。
ふう、しかし。あの飼い主は自分の犬の姿を撮ってどうするつもりなのか。ああ、そうか。先週の「ぽちたま」で、ペットのおもしろビデオ募集とかいう企画をやっていたな。あれに応募するつもりだな。
まあ、いいや。俺は明日からも、いつもと変わらぬ毎日を過ごすだけ……。
このお話。まだまだ続きます。