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最初の街リオン2

城下街を思うままに歩く夕霧を好奇の視線が襲う。

しかし、その視線の中によく知った感覚があることに気づく夕霧。

――なんで、怖いんだ?

恐怖の視線を向けられるようなことをした覚えはない。そもそも、この町の中にもハンターらしき人がたくさんいる。その方がよっぽど怖いだろうに、恐怖の視線は夕霧が独り占めしていた。

居心地が悪くなった夕霧は裏路地に入る。そこでは子供達が遊んでいたり、若者が屯っていた。向けられる視線は、好奇。

――なんでだ?

先ほど自分に恐怖の視線を向けていた者たちの顔を思い浮かべる。そういえば、すべて老人だった。昔何かがあったのだろうか、と考えた夕霧は図書館を探すことにして、ふらふらしていた足取りがしっかりとしたものになる。

この国の図書館はわかりやすかった。

大きな本を象った看板の周りを、鳥が飛んでいる。

近づいていくと、その鳥が空を飛ぶ本だということがわかり、夕霧は改めて魔法の力に感心した。

本鳥の群をくぐり抜け、大きく図書館、と書かれた本型の看板の下にある入り口を開けると、数人の魔法使いらしき人たちがいた。

どうやら一般人は滅多に立ち入らない場所らしい。

積んである本や、本棚に並べられている本もあるが、室内でも本鳥が飛び回る。元の国のような索引なんてまったくない。夕霧は途方に暮れた。そもそも、何を調べたら良いのかもはっきりはわかってはいないのだ。

とりあえず、今が何年かもわからない。昔なにかがあったことはわかるのだが、具体的に何年くらいに何があったのかを調べようもなく、夕霧は手近にあった本を開いてみた。

「おぉう……」

そのページには、ふわふわの黒髪に、胸元の露出と足のスリットが深いセクシーな黒い服を着た、見るからに悪女、と言った美女が描かれていて、くるくると情景が変わっている。開いた時は自信満々な笑みを浮かべていたのに、顔は描かれていないが一人の男に絡みつき狂ったような微笑みを浮かべている絵、それから男と引き裂かれ泣き叫ぶ絵、最後は黒髪の子供を抱いた母の絵が表示されると、最初の絵に戻った。

その隣のページに、悲劇の魔王・レディ・サタン・と書かれ、壮絶な半生が簡潔にまとめられている。

そこでぴん、と来た夕霧。

カラフルな頭や目がたくさんいた城下街で、黒髪を持つ者はほとんどいなかった。強いて言うならば、リヴィくらいのもの。

もしかして、黒髪というのはこの世界では不吉なものであるとか、そういう伝承があったのではないか。

だから、信心深い老人たちは自分のことを恐れているのではないか――

夕霧はレディ・サタンの半生を綴った文章に、世界を乗っ取ろうとしている途中、勇者の弟に恋をして誘拐し、監禁したが勇者一行に倒され野望は未達成に終わった、という一文を見つけた。

なるほど、だから悲劇の魔王か……なんて納得した夕霧は次のページをめくる。

そこには、レディ・サタンが犯した罪の数々が書かれていた。

細かい文字の羅列を見て、頭痛を感じ早くも次のページへ行く夕霧。

「これ……」

どうやらこの本はレディ・サタンについて書かれたもののようだ。レディ・サタンを葬った勇者一行、というタイトルの章一番最初のページ。

そこに、勇者一行の絵が描かれていた。

この絵は不動のまま、五人が座って笑っているだけのもの。

きっと、勇者一行が過去に自らの姿を残すために描かせたものだろう……どこの世界でも考えることは一緒だな、なんて思いつつ夕霧がその絵を眺めていると、あることに気付いた。

「盗賊……黒髪じゃん」

そう、真っ黒な衣装に身を包み、顔を隠すような格好をしているのですぐには気付かなかったが、確かに黒髪だ。

「そうだよ、僕の父さんだ」

「え」

夕霧が振り返ると、いつの間にかリヴィがいて辺りには誰もいない。どうやら、リヴィと夕霧の黒髪コンビを見て知識ある魔法使いたちは逃げてしまったようだ。

「ななな、なんでここにいるんだよ!」

ずざざざ、と音がしそうな勢いでリヴィから距離をとった夕霧を見て、リヴィは少し悲しそうな顔をする。

「……僕のこと、嫌い?」

実は恋愛経験どころか、異性と接することに慣れていない夕霧。

対処法もわからず、おろおろとするばかりだ。

「き、嫌いじゃない。うん、嫌いじゃない。だからそんな悲しそうな顔するなって。ほら、戻るから」

夕霧が元いた場所に戻ると、リヴィは夕霧の手元の本を覗き込んだ。

「あぁ、この本か。よく見つけたね」

先ほど数秒前のことなんてまったくなかったかのように、悲しそうな表情が微塵も残っていない。あれは演技だったようだ。

「……そこにあった」

そのことに気付き、不服そうな顔をしながら投げやりに回答する夕霧。

「……リヴィの父さん?」

今頃脳が処理を完了したようで、夕霧は盗賊とリヴィを見比べる。

「多分ね。僕は生まれてすぐあの城の前に捨てられていたらしくて、その後盗賊と踊り子は行方不明。……あ、盗賊は踊り子と婚姻関係にあったんだ、だから必然的に踊り子が僕の母さんだろうね。父さんは勇者と仲がよかったらしいし」

リヴィは淡々と語った。そりゃそうだろう、自分が捨てられた子供だなんて、いくら孤児が一般的な世界だからと言っても辛いことだ。

「……黒髪って、そんなに珍しいのか?」

お世辞にも、盗賊や踊り子とリヴィが似ているとは思えない。むしろ、レディ・サタンの方がまだ共通点がありそうだ、と夕霧は思う。

夕霧はレディ・サタンの半生を綴った文章に、世界を乗っ取ろうとしている途中、勇者の弟に恋をして誘拐し、監禁したが勇者一行に倒され野望は未達成に終わった、という一文を見つけた。

なるほど、だから悲劇の魔王か・・・なんて納得した夕霧は次のページをめくる。

そこには、レディ・サタンが犯した罪の数々が書かれていた。

細かい文字の羅列を見て、頭痛を感じ早くも次のページへ行く夕霧。

「これ……」

どうやらこの本はレディ・サタンについて書かれたもののようだ。レディ・サタンを葬った勇者一行、というタイトルの章一番最初のページ。

そこに、勇者一行の絵が描かれていた。

この絵は不動のまま、五人が座って笑っているだけのもの。

きっと、勇者一行が過去に自らの姿を残すために描かせたものだろう……どこの世界でも考えることは一緒だな、なんて思いつつ夕霧がその絵を眺めていると、あることに気付いた。

「盗賊……黒髪じゃん」

そう、真っ黒な衣装に身を包み、顔を隠すような格好をしているのですぐには気付かなかったが、確かに黒髪だ。

「そうだよ、僕の父さんだ」

「え」

夕霧が振り返ると、いつの間にかリヴィがいて辺りには誰もいない。どうやら、リヴィと夕霧の黒髪コンビを見て知識ある魔法使いたちは逃げてしまったようだ。

「ななな、なんでここにいるんだよ!」

ずざざざ、と音がしそうな勢いでリヴィから距離をとった夕霧を見て、リヴィは少し悲しそうな顔をする。

「……僕のこと、嫌い?」

実は恋愛経験どころか、異性と接することに慣れていない夕霧。

対処法もわからず、おろおろとするばかりだ。

「き、嫌いじゃない。うん、嫌いじゃない。だからそんな悲しそうな顔するなって。ほら、戻るから」

夕霧が元いた場所に戻ると、リヴィは夕霧の手元の本を覗き込んだ。

「あぁ、この本か。よく見つけたね」

先ほど数秒前のことなんてまったくなかったかのように、悲しそうな表情が微塵も残っていない。あれは演技だったようだ。

「……そこにあった」

そのことに気付き、不服そうな顔をしながら投げやりに回答する夕霧。

「……リヴィの父さん?」

今頃脳が処理を完了したようで、夕霧は盗賊とリヴィを見比べる。

「多分ね。僕は生まれてすぐあの城の前に捨てられていたらしくて、その後盗賊と踊り子は行方不明。……あ、盗賊は踊り子と婚姻関係にあったんだ、だから必然的に踊り子が僕の母さんだろうね。父さんは勇者と仲がよかったらしいし」

リヴィは淡々と語った。そりゃそうだろう、自分が捨てられた子供だなんて、いくら孤児が一般的な世界だからと言っても辛いことだ。

「……黒髪って、そんなに珍しいのか?」

お世辞にも、盗賊や踊り子とリヴィが似ているとは思えない。むしろ、レディ・サタンの方がまだ共通点がありそうだ、と夕霧は思う。

「まぁね。黒に近い色をしている人はたくさんいるけれど、漆黒に近い黒をしているのはレディ・サタン、父さん、僕だけだ……そこに君が現れた」

リヴィがレディ・サタンと言うときの声は、どこか毒々しい。心から憎んでいるようだった。

「私の国では黒髪が基本だよ。だから私はその二人の血縁者であるわけがない。さっきも言ったとおり、私は別の世界から来てるからね」

夕霧はぱたん、と本を閉じる。

「帰ろうか」

別に気を悪くしたわけではない。しかし、リヴィの探るような目が怖かった。夕霧は、自分の過去を知られたくはなかった。

「……ごめん。トーガもきっと君を待ってるから、近道を教えてあげるよ」

外にでると、既に辺りは暗く、子供たちの声で溢れていた路地裏も静寂を保っている。

そういえば、と夕霧はリヴィに尋ねた。

「リヴィって魔法使いなのに飛べないのか?」

「君の世界では飛べるの? 少なくとも僕は飛べないよ、氷系魔法が得意でそればっかりやってるから」

どうやら、この世界の魔法使いはそんなに万能ではないらしい。

夕霧はリヴィに連れられてトーガの城に戻り、ぐっすりと眠りについた。

「この街に困ったことは特にないようだし、リンクスの村に行こうと思ってね。リオンからリンクスの間にはそう強いモンスターもいないし、足慣らしにはちょうどいいよ」

と、リヴィ。

そんな訳で三人は朝食を済ませた後、早速リンクスの村へ向かって歩き始めていた。旅立ちの第一歩である。

「……トーガ?」

何度も後ろを振り返っては、城を眺めているトーガ。

そんな彼の様子を見て夕霧は声をかけた。

「あ……ごめんね、なんでもない」

トーガは力なく笑う。

「弱虫トーガ。いい加減に勇者っていう自覚を持ったら?」

「なっー」

冷たい口調のリヴィに、夕霧が反発した。

「そんな言い方ないだろ!」

朝食時、二人は幼なじみだと聞いた。しかし、いくら気心が知れた仲だといえど、あの言い方はひどい。性格は、生まれついてしまったものだから簡単には直せないことを夕霧は知っている。だからこそリヴィの言い方に腹が立った。

「いいんだ、夕霧。その通りだから……ごめんねリヴィ」

「……行くよ」

スタスタと先を歩くリヴィ、その後をついて歩くトーガ。

その様子を見て、夕霧はトーガにこっそりと声をかけた。

「……よくあいつに付いていけるな」

臆病なトーガの性格上、リヴィとは絶対に気が合わないはず。そう思った夕霧は何故トーガがリヴィと仲がいいのか不思議に思ったのだ。

「うん、リヴィって本当は優しいんだよ」

にこ、とトーガは笑った。リヴィを庇うような言葉ではなく、本心からそう思っているらしい。

「……どこが?」

幼なじみに弱虫、と吐き捨てるような優しい奴なんて、いるのだろうか。そんなことを思う夕霧。

「オレ、王子だから。さんざん甘やかされて育ってきてるせいで叱ってくれる人なんていなかったんだよね。だからリヴィは叱ってくれる唯一の人なんだ。多分、リヴィがいなかったらオレは永遠に子供のままだったよ」

今も大人とは言えないけど、と苦笑いのトーガを見て、夕霧はなるほど、と感心した。

「それに、昨日夕霧を迎えに行ったのだってリヴィだよ? 旅立ちの儀があって疲れてたのに、終わってすぐに外が暗いからって探しに行ってて、すごいなーって思ったもん」

「トーガ、余計なこと言わないで」

遅れて歩いていたトーガと夕霧を心配したのか、先を歩いていたはずのリヴィが戻ってきた。すかさず制止の声をあげる。

「だって、夕霧がリヴィのこと誤解するから」

しどろもどろと答えるトーガ。

「……さっさと行くよ。もうすぐモンスターが出る地域だから、死なないでね」

ぷい、とさっさと前を向いてしまうリヴィだが、心なしか耳が赤い。照れているのだろう、そのことに気付いた夕霧は声を殺して笑った。


「……何コレ」

しばらく歩くと、黄緑色の粘液が地面にへばりついている。ほんの僅かだが、動いているようにも見え、夕霧はバットでつついてみた。

「あ、夕霧それスラ―」

「うわぁああああ! ! !気持ち悪ぅ! ! !」

ぬちゃぬちゃ、と音を立ててバットに這い上ってくる粘液。それを振り落とそうと夕霧は力一杯バットを振り回すが一向にとれる気配はなく、むしろ徐々に夕霧の手へとその粘液が伝っていく。

「―イムだよ、なんて……聞いてなさそうだね……」

夕霧を助けるべく、トーガは剣を抜くが、構えたまま動かない。否、動けない。

「……いい加減構えだけの勇者は卒業しなよ。グラキエース」

固まってしまったトーガの代わりに、スライムに向かって呪文を唱えるリヴィ。スライムはみるみるうちに凍結し、黄緑色から紺色へと変化した。

それと同時に、へばりついていたバットから勢いよく飛んでいく凍った粘液。

「な、なんだったんだ……」

「スライムだよ。避けて歩けばいいものを、わざわざつつくから襲われるんだ、気をつけてね」

リヴィはまた先を歩き始めた。

すでに先ほど言われたモンスターの出る地域、とやらに入っていたらしく、よく見ればスライムがあちこちにへばりついている。何が楽しくて生きているのだろうか、と夕霧はスライムを避けつつ歩いた。

「ここ、スライムの巣かなんか?」

あまりのも多いスライムの数に、眉をひそめる夕霧。

「……こんなにスライムしかいないっていうのも、初めてだね……リンクスで何かあったのかも」

ニヤリ、とリヴィは笑う。早速仕事のにおいを嗅ぎとったのだ。

「そうと決まれば、早く行くよ。」


旅は不慣れな三人だ。結局今日中にはリンクスに着けず、たき火をするため三人は木片を集めた。

「カリドゥス・フラムマ」

トーガが集めた木片に向かって呪文を唱える。

相変わらず魔法は便利だ、とのんきに眺めていた夕霧はふとおかしな点に気付いた。

「トーガも魔法使えたのか?」

魔法使いであるリヴィと相談するでもなく、当然のようにトーガが火をつけたことに疑問を持ち質問する夕霧。

「普通科でも基本的な魔法は学ぶんだ。使える数は限られてるし、生活に使うくらいしかできないけど」

「普通科?学校でもあるのか?」

「もちろんあるよ」

トーガはこの世界の学校制度について、簡潔に説明してくれた。まず、子供たちは六歳までに保育科に入り、その後十歳までは幼等教育科、それからは各自の適正に合わせて普通科、戦士科、薬術科、魔術科、科学科、モンスター研究科に分かれるらしい。十七歳になると特に才能ある者だけが進める特別教育課程を受けることができるという。

「リヴィはスキップで魔術科の特別教育課程を終了したエリートなんだよ。オレは普通科しか出てないけど……」

「へぇ~」

感心したようにリヴィを見る夕霧。リヴィはというと、のんきに土の水分を抽出して簡易ベッドを作っていた。すごい、のかもしれない。

「あれ、トーガ戦士科じゃないの?」

「オレが勇者になったのはつい最近のことだよ」

それまでは保育科の先生になりたかったのだというトーガ。彼の人生がいきなり変わってしまったのは、城にしまわれていた剣を発見したところから始まったらしく、そのときのことを話し始めた。

「リヴィが退屈だ、なんて言うから城の倉庫を探検していいよって言ったんだ。そしたら、文献に出てきた剣を見つけたなんて言うから見に行って、手に取ったら持てちゃって」

リヴィは持てなかったんだな、と察する夕霧。

「そこを父さんに見つかって、晴れて勇者の誕生ってわけ。オレ以外は本当にだーれも触れないんだ」

困った剣だよ、とトーガはため息をつく。

「でも、勇者になったって魔王がいないならそのまま勉強してれば良かったんじゃないのか?」

「剣が勇者を選んだってことは、どこかで魔王も産まれたんじゃないかっていう適当なことを父さんが言い始めたせいで、国民の皆さん総出でオレが勇者だって応援始めちゃって。答えないわけにはいかないでしょ、王子としては」

更に深いため息。しかし、国民のことを考えて自分の夢を投げてまで勇者になる決意をしたのだ。いい王子ではないだろうか。

「ふーん。じゃあ保育科の先生にはなれなくなったってわけか……」

夕霧が呟くと、トーガはふるふる、と頭を横に振った。

「オレの両親、ずっと先生なんて反対してたんだけど、もし勇者として一回り成長して帰ってこれたら先生になってもいい、って……帰れたらなんだけどね」

唯一の救いが救い切れていないトーガに、同情の眼差しを送る夕霧。

「二人とも、もう寝るよ。モンスターが入ってこれないようにバリアを張ったから、勝手に出ていかないようにね」

鶴の一声ならぬリヴィの一声。

こうして、洞窟での夜は更けていくのだった……。


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