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VS召喚術 チィータの街2

「……おかしいな?」

 先程から夕霧は同じところをぐるぐると回っている。ずっときょろきょろしながら街を徘徊している彼女は、きっと街の人から見れば不審者のように映っただろう。

 夕霧の図太い神経がガリガリと音を立てて削れていき、か細くみそっかすだけが残り、心が折れかけたころだった。

「何迷子になってるの?」

 救世主の声が、夕霧に降りかかる。

「リヴィ! 助かったよ、このままもう会えないのかと思い始めてたし……」

 ストレスで神経がマッハだったよ……なんていう夕霧。

「……そんなわけないでしょ、帰ってこなかったら氷人形で探すまでだし、夕霧を見捨てるわけがないじゃないか」

 よしよし、とここぞとばかりにリヴィは頭を撫でる。

「それはそうと、私の父さんの弟子っていう人を見つけたんだ。その人に色々教えてもらうから、私はそっちに泊まる。リヴィたちはどうする?もう宿とったならそれはそれでいいけど、仲間を連れてきてもいいって言われてさ」

 リヴィの眉間に皺が寄る。

「君のお父さんの弟子、ねぇ……トーガとフェイはもう寝てるから、僕だけ行くよ」

 まじか、と呟く夕霧。

 しかし大分心細くなってきていた上疲れていた夕霧は思考回路が正常に働かず、

「じゃあ、戻るか」

 と。しかし。

「もしかして、夕霧道わからないの?」

 呆れた声を出すリヴィ。

「……ごめん」

「はぁ、仕方ないな。グラキエース・ドラコ(氷龍召喚)」

 リヴィが少し大きめな陣を描き、小さな氷の龍を出した。ファーチャのように話せたりはしないが、記憶を辿って道案内をしてくれる便利な案内人だ。

「この子がさっきまでいた場所に連れて行ってくれるよ」

 氷の龍は夕霧の頭のまわりをくるくると回り始め、しばらくして彼女と目を合わせ首を傾げた。

「何か情報を与えてあげて。場所の名前とか」

 夕霧がうろうろしすぎたせいで場所が特定できなかったらしい。

「人の名前とかでも大丈夫かな? クリフさんって言うんだけど」

 ふぅん、男なの、なんてリヴィが呟く。一度自覚してからは気持ちを隠そうともしない。

 氷の龍はぴん、とまっすぐ体を伸ばすと、ゆっくり宙を泳ぎ始めた。

「わかったようだよ」

 二人で氷の龍についてゆき、二十分くらい歩いたところでクリフの家に辿りついた。

 四時間は彷徨っていたのに、と少しショックを受ける夕霧。

 落ち込んでいると、クリフが家の窓から顔を出した。

「おや? 夕霧ちゃんの仲間って、男の子一人なのかい?」

 彼の眼光が、少し鋭くなった。

「いや、あと二人いるんですけど寝てしまったらしくて、リヴィだけついてきてくれたんです」

 あ、彼リヴァイアって言います、と軽く紹介をする夕霧。

「ほう……。夕霧ちゃんの保護者として、これは黙ってられないな……」

 リヴィは眉間に皺を寄せる。

「貴方が夕霧の保護者? どうして? 貴方はただ夕霧の父親の弟子というだけでしょう?」

 何故かここで喧嘩腰になるリヴィ。

「保護者も同然だよ、夕霧ちゃんがまだオムツもとれてないころから知っているんだ」

 二人の間に火花が散る。

「クリフさん、召喚術教えてください! なるべく早くマスターしたいんで!」

 この場を収めようと、夕霧が言った苦し紛れの一言だ。

「あぁ、ごめんね夕霧ちゃん。じゃあ、すぐに始めようか」

 クリフがついておいで、と手招きをする。

「……僕も。召喚術は魔法の一種だし、強化するにこしたことはないからね」

 ひく、とクリフの表情がひきつる。よっぽどリヴィが気に食わないのだろう。

「構わないけど、俺の教え方はスパルタだからね」 

「別にいいよ」

 この二人の間にいると焼かれそうだ、なんて思う夕霧。こんな時、ぴるぴるがいてくれればいいのに、なんて亡き友人を思った。

 修行場は地下にあり、ものすごく広くて頑丈だ。

「昔は、ここいっぱいに陣を書いてやっと人型くらいの大きさにできた。俺はただの凡人だったからね」

 東京ドームが何個も入ってしまいそうな陣である。

「でも、修行によってこの手の甲の陣で」

 肌色より少し暗い色で描かれていた陣が、うっすらと光りだした。

「ここまで……成長した!」

 赤く輝く右手の陣を地面に押し付け、クリフさんは呪文を唱える。

「イグニス・ウルラ(炎鷲召喚)!」

 陣から炎が飛び出し、その炎はどんどん大きくなり、巨大な鷲の形になった。

 ファーチャなんて比べ物にならない。

 足の爪にひっかけられて攫われてもおかしくないような大きさだ。

「どうだい、俺でもこんなに大きな召還獣を出す事ができる。師匠なんて山ほどもある亀を召喚したこともあるんだ、夕霧ちゃんならそれを超えることができるよ」

 国が壊れてしまうのではないか、という程のクリードの力。もしかして、その気になれば世界征服なんて軽かったのかもしれない。

 それを超える夕霧の力とは、一体世界をいくつ制圧してしまうのだろうか。

「山より大きい、ファーチャなんて……」

 山ほどもあるファーチャの、ガミガミ攻撃。夕霧は想像するだけで身震いしてしまった。

「普通の人は一匹しか召還獣と契約はできない。それは知っているかな?」

 リヴィの基本授業で教わったことだ。

「知ってます」

 氷龍のリヴィに、炎鷲のクリフ。

 かっこよくて羨ましい、と呟く夕霧。

「でも、師匠は最大五匹の召還獣と契約していた。多分、夕霧ちゃんもそれくらいは余裕だ」

 自分の力以上の召喚獣と契約してしまうと、精神を食い荒らされて廃人になり、最後には死んでしまう……それを知っている夕霧は身震いした。くれぐれも自分の力を超えるものと契約してはならないと、リヴィにきつく言われているのだ。

「私、自分の力の底が見えてちゃんと召喚獣を収めきれることがわかってから契約したいです……」

 意外と夕霧はチキンである。 

「力の底、か。大丈夫だよ、夕霧ちゃん。俺は人の能力の限界を見る力があるんだ」

 それに食い付くリヴィ。

「……ふぅん、興味深い能力だね」

 夕霧は、リヴィのその笑顔の意味がわかってしまった。いくら仲が悪くとも、金になるとわかれば最上級の笑顔を見せるのだ。

「リヴァイア君の氷系魔術に関しての才能は底知れないものがあるね。小さくても龍を召喚できるだけのことはある」

 クリフは意味ありげな笑みを見せた。小さくても、というところを強調していたのはきのせいだろう。

「そして夕霧ちゃんは……俺には見えない。底がないようだ」

 夕霧は一気にクリフに対するふ

「信じてないね? 本当だよ」

 試しに数匹契約してみよう、今日は夜明けが過ぎても寝かさないよ……なんて、クリフが笑顔で言い放った言葉を冗談と受け取った夕霧だったが、これが本気であることを知るのは、夜が更け、眠気を訴えた際に笑顔で「寝かさないって言ったでしょ?」との言葉を聞いた時だった……



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