表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
16/21

VS召喚術 チィータの街

「グリフォンに天敵はいない。けれど、弱点はある。スピードだよ」

 翌日、夕霧がトーガとフェイと共に朝食を食べていると、リヴィが現れそう言った。

 今まで寝ずに文献漁りをしていたらしい。

「スピード……ってことは何? スピードを上げる魔法でも習得するの?」

 トーガは首を傾げる。そんな魔法があるのか。

「いや、夕霧が召喚術を使っているのを見て思いついたんだ。僕はペットを飼うよ」

 一瞬の間。

「ペット?」

 天才の考えることはわからない、と夕霧。

「だから、僕はそこまで召喚に強いわけではないから、召喚しなくても良い方法……つまり、ペットだ」

 フェイは、自分と似たような仲間が増えるのね、と目を輝かせる。しかし夕霧は反論した。

「リヴィ、ペットを飼うって大変な事なんだぞ? ちゃんと毎日餌やって、散歩して、糞の始末して……」

 ちなみに、夕霧は昔犬を飼っていたのだが、本当に大変だった。噛まれるし吠えるし躾がなっていないと言われればそれまでだが、罰として餌をやらなかったら脱走した。

 そんな罰を与えた彼女も母さんにご飯を作ってもらえなかった。自分も脱走しようかと思ったのは、ファーチャしか知らない彼女の黒歴史の一つである……。

「あっちの世界とは違うんだよ。散歩なんて勝手にするし、餌だって自分で取れる。糞はもししても魔法で消せばいい」

 不満げな夕霧。穴を探そうと必死に頭を回転させ、閃く。

「飽きたからって捨てたらだめなんだぞ!」

 捨てられた犬や猫がどんな末路を辿るかわかってるのか、と涙ながらに語る夕霧。

「捨てないよ、絶対的な戦力を手に入れるんだ、そう簡単に手放しはしないよ」

 にやり、とリヴィのいつもの笑い方。

「な、何を飼うの……?」

 トーガが恐る恐る尋ねた。

「白虎だよ」

 白虎。四聖獣の一角を担う西を司る神だ。ペットと言っていいものなのか、疑問なところである。

「だから、これからの道順は決まったよ。まずチィータの街に向かう。そして、僕の白虎を捕まえに最西の地ザパードに寄って、グリフォンを仕留めに行く。その間にトーガはそれなりに敵に立ち向かえるようにならないといけないし、忙しいよ。」

 既に決定事項らしく、口をはさむ暇もない。

「フェイは、何をすればいいのー?」 

 白虎って強いのかなー? とフェイは楽しみだと跳ねまわる。臆病だと自分で言っていたが臆病らしいことは一度も言っていない。

 ドラゴンの一般的な生活を見てみたいものである。

「フェイは、トーガを見守ってて。フェイが応援すればトーガもきっと頑張るから」

 別にロリコンではないのだが、何故か夕霧の中でトーガは小さい子供の応援で頑張れるというどこか間違った認識がなされている。

「うん!フェイ、トーガお兄ちゃんの応援、頑張るね!」

「よしよし、フェイは可愛い……な……」

 フェイの頭を撫でようと近くに移動する夕霧だが、とんでもないことに気がつく。

 出会ってまだ三週間ちょっと (眠っている期間含め)のはずの彼女が、出会った当初よりずっと成長している。

 もしかして、と夕霧はフェイの頭を撫でながら考えた。

 ドラゴンの成長スピードは、人間なんかとは比べ物にならないものなのではないか。

 ならば、グリフォンに挑む際立派な戦力になるのではないか。実際、マッチョを倒したのはフェイなのだ。

「フェイ、私たちと一緒にグリフォン倒したい?」

 そう尋ねると、トーガが少し怒った表情になる。やはりトーガはグリフォンと戦う事に賛成でもフェイは置いていくつもりだったのだろう。

「え? うん! フェイ、お姉ちゃんとお兄ちゃんと一緒に戦うー! いいの? 足手まといにならないかなぁ?」

 ファーチャも夕霧の中で言っている。この子を戦力に加えないのは馬鹿だ、と。

 ならば加えるべきだろう。トーガを言いくるめるのも、きっと自分の仕事だ、と夕霧。

 グリフォンなんて大物を倒したら、魔王にだって立ち向かえるだろう。

「大丈夫、フェイはとっても強いから。トーガを守ってあげて」

 にっこりと笑う夕霧。

「ふぅん……。夕霧も気付いたんだ」

 ぼそり、とリヴィが呟く。

 リヴィも夕霧と一緒の考えを持っていたわけだ。

 トーガは一人不満そうな顔をしていたが、フェイが喜んでいる手前余計な事は言いたくないのだろう。

 あとでこっそり何か言ってくるかもしれないが、ここで衝突するのは仕方のないことだと思うし、必要だ。

 フェイは戦士だということを、トーガにわからせなければならないそれが、今の夕霧の仕事だ。

「じゃあ、早速行くか。まずは、チィータだ!」

 そう言うと、フェイがつんつん、と夕霧のジャージの裾を引っ張った。

「フェイ、お姉ちゃん達三人くらいなら乗せて飛べるよ?」

 驚く夕霧。しかしトーガが慌ててフェイの肩を抱く。

「無理しなくてもいいんだよ、フェイ。まだ小さいんだから……」

 トーガだ。でも、その言葉を聞いてフェイの耳がぴん、と尖る。

「大丈夫なの! トーガお兄ちゃんだっていっぱい肩車してくれたじゃない! 今度は、フェイの番だよ!」

 ぷくー、と膨れるフェイ。

 その辺はまだ子供だけれど、なぜかこの光景が微笑ましく感じ、どこか寂しくなる夕霧。何故だろう? と考えた時、自分の弟の顔が浮かんだ。フェイと薫の姿をだぶらせ、夕霧は目を細めた。

「じゃあ、フェイに頑張ってもらおうか。でも、無理はしないって約束ね。辛くなったらすぐに降りる事。誰も怒ったりしないから」

「うん!」

 役に立てるのが嬉しいのだろう。早く早く、と外に飛び出そうとするフェイ。

「……夕霧、いくらなんでもフェイにそれは……酷じゃないかな」

 トーガだ。フェイに気付かれないようにこっそりと夕霧に話しかけた。

「トーガは、多分これからフェイの成長にものすごく驚くよ」

 その後ろからリヴィが言う。

「どういうこと? フェイはまだ子供だ、そんな大きな成長なんて――」

 そこまで言って口を噤んだトーガ。

 気付いたのだろう、子供時代が一番成長するということに。

 そしてはしゃぐフェイの背が明らかに高くなっていることに。

「ドラゴン、かぁ……」

 そう呟きトーガは困ったように微笑んだ。

「ドラゴンだよ。ドラゴンだから特別扱いするわけじゃない、ただ人間の定規で見たら可哀想だって言ってるんだよ」

 リヴィの意見は正しいと思う。ドラゴンには、ドラゴンの定規がある。

 フェイはそれに外れてしまったかもしれないが、それでも人間の定規で見るにはあまりにも強すぎる。

「……そうだね。フェイはオレが思っている以上に成長しているみたいだし」

 節穴だったよ、と頭を振るトーガ。

「じゃあ、行くか。フェイ様がお待ちかねだよ!」

 ドゥラーゴの山の麓でドラゴン化したフェイは、出会った時よりもやはり大きかった。

 それは人型でいるときよりも差は歴然で、三人とも驚いている。

 ドラゴンというのは、どこまで大きくなるのだろう。

 よじ登るのは大変そうなので、一度人型になってもらい、リオンで三人が入れそうな籠を買った。簡易気球のようなものだ。

「振り落とされないでね!」 

 人型から再びドラゴン化するとき、そう言ったフェイの言葉通り、気球なんて生易しいものではなかった。

 勢いよく籠につけたロープをひっつかみ、どんどん上昇していく。

「……これは……改良する必要があるね……」

 リヴィの声に頷く二人。さすがにこっちの世界に住み飛行に慣れている二人でもこれは辛かったらしい。生身で飛行機にへばりついているようなものだ。

 しかし、あっという間に目的地であるチィータの街に辿りつき、まったく空気が違うことに驚く三人。

 リオンも、ヴィペールもドゥラーゴも、それぞれ違う雰囲気を纏っていたが、ここはまったくの異質なもの。

 全体的に薄暗く、街全体が路地裏のような雰囲気なのだ。

「随分と重苦しいところだね、ここ」

 リヴィは顔をしかめたが、正直よくこの街に似合っている。

「オレ、ここ苦手だな。」

 確かにトーガには向かないかもしれない。

 どちらかと言うと老人が多く、子供はほとんど見当たらない。

 多分、もうすぐで滅びてしまうだろう……そんな場所。

「……私はちょっと召喚術について調べてくるよ。三人とも先に宿に行ってて」

 フェイは久しぶりの長距離飛行が楽しかったのだろうが、少し疲れている感じがする。

 それを見破っていたトーガは、フェイと共に先に宿を探しに行くことになり、リヴィはいつの間にか消えていた。

 まったく足の速い奴だと呆れ半分感心半分の夕霧。

とにかく、彼女は早速ファーチャを呼び出しチィータの探索を始めることにした。

「ふぅん、まったく変わってないわね」

 辺りを見回したファーチャは伸びをして夕霧の隣に並んだ。

 片やジャージを着ただっさいボサボサ女、片や綺麗な水色の髪の毛に、それに合わせたセクシーな衣装。美しさに大きく差が出ている事を少し気にする夕霧。

 もう少しまともな格好してればましに見えるのかな、なんて考えていると、ファーチャと目が合う。召喚獣は、主人の考えることがわかってしまうらしい。その事を思い出した夕霧は、

「なんだよ、夢は見ないって」

「……べっつにー」

 何か言いたげなファーチャを問いただすことはせず、彼女にひたすら着いていく。

 しばらく歩いていると、ファーチャの歩調が速くなる。

 ファーチャの歩幅は夕霧よりも長いので、だんだん小走りになっていたが全速力になる手前でファーチャの動きは止まった。

「クリフ!」

 真っ赤な髪の毛に、同じ色の瞳をした背の高い男に出会った瞬間、ものすごく弾んだ声。

 そのままファーチャはその男に抱きついた。

「ファーチャ! どうしてここに……?」

 知り合い……というよりも結構深い仲なのだろう、ファーチャを抱き止めると、そのまま抱きしめ返した。映画のワンシーンのようである。

 矢継ぎ早に質問するファーチャに、いちいち細かく答えを返すクリフと呼ばれた青年。

 律儀な人、なのだろう。

「待て、ファーチャがここにいるということは、夕霧ちゃんが……?」

 いきなり話題に上った夕霧は驚いて顔を上げるとクリフと目が合う。気まずくて目を逸らしていたのだ。

「そうよ、戻ってきたの。……力の使い方は忘れてしまってるけれど」

 残念そうに首を振るファーチャ。

「で、夕霧ちゃんは……彼女かい?」

 クリフはファーチャを離すと、夕霧に近付いた。

「……お久しぶりです」

 初めまして、は違うだろうと、まったくこれっぽっちも覚えていないがとりあえず挨拶をする夕霧。無難な挨拶だったが、クリフは涙ぐみ始めた。

「あぁ、夕霧ちゃん……こんなに大きくなって……俺も歳をとったわけだ、師匠が亡くなってから、幾年数えただろうか……」

 クリフはクリードの弟子だ。昔の話だが、彼がクリードを見つけ出し弟子入りするまでにはものすごい努力と時間がかけられたのである。

「弟子ね……父さんってすごかったんだ」

 夕霧にはまったく実感がわかない。

「何当たり前の事言ってるのよ」

 ファーチャが当然でしょ、と言わんばかりな態度をとった。

「こら、ファーチャ。師匠のお子さんに対して失礼な口を利くな」

 クリフさんこっわ……なんて青ざめる夕霧。本当にクリードを心から慕っているのだろう・

「で、力の使い方を忘れたとは……?」

クリフはさっそく本題に入った。ファーチャは眠い、と戻ってしまったのでなるべく手短に話している間、多少の驚きは見せたものの、話に割って入るようなことはなくものすごく話しやすい人だと夕霧は感じた。

「クリフさんは、父さんに色々教えてもらったんですよね? ……それを、私に教えてもらえませんか?」

 最後にそう言うと、またクリフは涙を見せた。涙腺が相当緩んでいるようだ。

「喜んで、俺でよければ喜んで教えよう」

 師匠がいなくなっても尚修行を続けていてよかった、と手のひらで涙を拭うクリフ。

 その手の甲に、なにかが書いていることに夕霧は気付いた。

 その視線に気付いたのか、クリフはにっこりと笑って、

「これは普通の術士が召喚術を使う時に必要な陣というものだ。師匠や君は必要としないみたいだけれどね」

 と言った。長年の相棒でもあるらしく、クリフは愛しげに陣を撫でた。

「夕霧ちゃんは今日どこに泊まるのかな? もし良ければ、俺の家でゆっくり術を教えられるし修行用の部屋もある。どうだい?」

 考え込む夕霧。他で外泊するなんて言ったらリヴィは怒るだろうし、トーガとフェイも心配するだろう。しかし、召喚術の修行も捨てがたい。

「仲間がいるので、ちょっと知らせてきます」

 結論。伝えておけば問題ないだろう。

「あぁ、夕霧ちゃんはもう仲間がいるのか。さすが師匠のお子さんだ。じゃあ、その仲間たちも連れてくればいい。どうせ部屋は余っているのだし」

 優しさに感動した夕霧は、さっそくみんなを呼びに来た道を戻った。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ