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VSイフリータ リヴィの爆弾発言、夕霧の新武器

 気を失った夕霧は、フェイを処置した時に使用した道具の余りで応急処置がなされ、傷口をリヴィが凍結させ化膿を防ぎリオンに運ばれた。

 トーガは夕霧のために国中から医者を集めるため東奔西走、フェイもトーガに付き添い、リヴィは責任を感じているのか、着替えの時以外はほとんど夕霧の傍を離れていない。

 その甲斐あってか、彼女の容態はどんどん良くなり、あとは目覚めを待つばかりだ。

 しかし、一向に夕霧は目覚めない。

 夕霧が目覚めるまで待とうと言っていたのだが、ぴるぴるの遺体をいつまでも凍らせておくわけにはいかないので目覚めを待たずに葬儀を行った。

 普通の人間と変わらぬ、化け狸のものとは思えないほどきちんとしたものだった。

 ぴるぴるの骨は、夕霧のジャージと同じ柄に染められた布に包められて埋葬された。トーガが気を使って、国で一番の染め物職人を呼び作ったもので、ぴるぴるも気持ち良く天に昇っていけたのではないかと、フェイは思う。

「夕霧お姉ちゃん……」

 リヴィがお風呂に行っている間、フェイが夕霧の部屋にやってきた。トーガも行きたがったのだが、王子としてやらなければならないことが溜まりに溜まっていたので、フェイだけが来たのだ。

 夕霧はあいも変わらず眠っている。

「お姉ちゃん、見て? フェイ燃えてるよ? 水、かけなくていいの……」

 ごぉ、と初めて起こした時のように火を吐いてみせるフェイ。この数週間でフェイはグリフォンを倒すため、トーガに隠れて特訓をしていた。そのため炎を吐く量も完全に調節できるようになっているし、爪だっていつ誰に襲われてもなんでも切り裂けるように研いでいる。

 あとは、夕霧が目覚めるだけなのだ。そして、グリフォンへの復讐心を燃やしてぴるぴるの仇を取りに行こう、と言ってくれるだけでいいのだ。

 フェイだげがそんなことを言っても、リヴィだけなら賛成してくれるだろうが、トーガは断固反対するだろう。

「ねぇ、お姉ちゃん……」

 ガタン、と窓が開く音がした。

「……フェイ、来てたの」

 リヴィだ。髪の毛が濡れている。お風呂から上がってすぐにまた来たのだろう。

「お姉ちゃんが心配なのはリヴィお兄ちゃんだけじゃないんだよ?」

 困ったように笑うフェイ。トーガが言っていた。リヴィの夕霧に対する執着が異常だ、と。あんなリヴィ初めて見た……と。

「そうだね。トーガだって心配しているだろうし、僕だけじゃない……わかってるよ」

 リヴィが特等席に腰かける。眠る夕霧の右側だ。

「……ねぇ、夕霧。君は少なくとも三人の人間に心配をかけているんだ、さっさと目を覚ましなよ」

 語りかけるような口調。

「……夕霧お姉ちゃん、早く目を覚まさないと……リヴィお兄ちゃんが死んじゃうよ……」

 ぽつり、と呟くフェイ。

 何を言っているの、とリヴィはフェイを見るが、その目には力がない。夕霧が怪我をしてから数週間、リヴィはほとんど食事もとっていない。衰退していく様子を近くで見ているトーガとフェイは、夕霧と同じくらい、リヴィも心配だった。

 泣きそうなフェイを見て、リヴィはベッドの中に手を入れ、夕霧の右手を握りしめる。

「早く……目を覚ましてよ」

 ぎゅう、とリヴィの手に力が入った。

 その時。

「ん……」

 リヴィの手が握り返される。夕霧の左手が持ち上げられ、ごしごしと目をこする。

「……フェイ! トーガ、呼んできて!」

 リヴィが声を上げる。フェイは窓を飛び降りると、ドラゴンに変化した。今やフェイはドラゴンの姿でも大きさは自由自在である。

「夕霧、夕霧。気がついたんだね」

 目を覚まし、一瞬時が止まったかのようにリヴィと見つめあう夕霧。

「うわぁああああ! な、なんでお前私の手なんて握ってるんだよ! 恥ずかしいだろ!」

 振り払おうと躍起になる夕霧だが、数週間眠っていたままだったのだ。衰弱しているとはいえ、リヴィの力に勝てず振り払う事のできない右手。その右手にこつん、とリヴィは額をくっつける。

「良かった……本当に、心配かけるんだから」

 泣き出してしまいそうな声に、夕霧は茶化すこともできずに、困ったような、嬉しいような表情でリヴィを見つめた。

「……ぴるぴるは? !」

 はっと我に返り、愛狸の姿を探す夕霧。首の骨を折られたのだから、生きているはずはないのだが、確認をしないことには諦めきれないのだ。

「夕霧が眠っている間に葬式が済んだよ。夕霧のジャージそっくりに作った布で骨を包んで埋めた。多分、彼は幸せだったと思うよ」

 その言葉を聞いて、夕霧はがっくりと項垂れた。やっぱりか……と。そして、自分の足がまったく痛みを感じていないことに気が付き布団をめくろうとした。

「……リヴィ、右手使えないと不便だから離してくれ」

 無言で離すリヴィ。今度こそ布団をめくった夕霧は、自分の足に銃痕がないことを確認すると、首を傾げた。

「私、撃たれたよな? よくある漫画とかみたいなお守り持ってました! みたいなことしてないし」

 それを聞いて呆れるリヴィ。

「君、三週間は眠ってたんだよ。怪我も完治するに決まってるじゃないか」

 えぇ、と夕霧が眉間に皺を寄せる。

「そんなに寝てたのか。ごめん、迷惑かけたな」

「違うでしょ」

 リヴィがすかさず突っ込みを入れる。ここで突っ込むか、と驚く夕霧。まったくもって突っ込まれた意味がわからない。

「僕たちは迷惑なんてかけられてないよ。でもものすごく君が目覚めるのを今か今かと待ってた、心がすりきれそうだったよ」

 ジロ、と夕霧を睨むリヴィ。夕霧は少し考えて、

「待たせてごめんな、心配かけた」

 と言った。それで良いんだ、とリヴィは笑う。

 その時トーガとフェイが窓を破らん勢いで飛び込んできた。

「夕霧!」

「お姉ちゃん!」

 良かった、良かった、と繰り返す二人。夕霧は二人に待たせたこと、心配掛けたことを謝罪すると次の行動を考え始めた。

「ぴるぴるの仇をとりたい」

 夕霧がそう言うと、やっぱり、という表情のトーガとフェイ、困ったような表情をするリヴィ。

「夕霧は怪我で動けなくなったばっかりなのに、そんな無理しない方がいいよ」

 フェイの予想を外して、グリフォンに挑むことを否定したのはリヴィだった。

 トーガは夕霧の性格上、絶対にぴるぴるの仇を取ると言いだすとわかっていたのだろう、王子としての仕事の合間に、騎士たちに混じって訓練をしていたのだ。フェイには言わなかったし、ずっと夕霧の傍にいたリヴィには言う暇もなかった。だから、トーガが夕霧の案に反対しなかったのを見て一番驚いたのは、誰よりもリヴィなのかもしれない。

「オレ、マッチョに対しても何もできなくて、フェイが手を出すのを見てただけなんだ。オレ、もう見てるだけは卒業しようと思って」

 ちょっと遅くなったのはこれを取りに行ってたからなんだ、と剣を取り出すトーガ。数週間経っているのに、埃一つついていない。本当に訓練に打ち込んだのだろう。

「夕霧がまた怪我をするのも嫌だしね」

 と、トーガ。

「フェイもー! フェイも、あいつ倒したい!」

 ぴるぴるの仇、打つ! と、やる気満々の様子。

 しかし、リヴィは頑として首を縦に振らない。よほど夕霧が長い事目覚めなかったのが堪えたのだろう。

「……じゃあ、夕霧は直接戦わない戦法身につけてね」

 こんな無茶を要求した。刀しか持っていない夕霧に、それは不可能な話だ。

「ねぇ、リヴィ夕霧に過保護すぎだよ。どうしたのさ、リヴィらしくもない!」

 とうとう怒り始めるトーガ。流石に目に余ると判断したのだろう。

「僕らしくない、ね。君は僕が恋したのを見たことがあるの?」

 ぴし、と凍るつくトーガ。フェイはきゃー、と恥ずかしそうに顔を覆い隠したし、当本人の夕霧は事態を飲み込めていない。

「そういうことだから。僕は安心したらお腹もすいたし眠くなってきたから、先に休むよ、おやすみ」

 ドシルを呼ぶと、ひらりと出て行くリヴィ。残された三人は呆然としたり恥ずかしそうにしたり現実逃避したりと大忙しだ。

 話も進まないし、あとは明日片付けようということで、三人も結局すぐに解散。

 夕霧は一人になった部屋でリヴィの言ったことを考えていた。

 恋した、の事も重要だが、その辺は後々考えるとして、今は直接戦わない戦法の話だ。

 何か忘れている気がする、と考え込む夕霧。自分で戦わない戦法。ぴったりの才能があったはずだが、使い方がわからなくて封じ込めたもの。

 リンクス……ルナール……ヴィペール……と、順番にこの世界に来てからのことを思い出し、ソラニテの話を聞いたことを思い出した瞬間、夕霧は、ぴかん、と自分の脳が光ったような気がした。

「召喚術だ!」

 そう呟いた瞬間。

『……の? ゆ……!』

 どこからか、声が聞こえた。

 隣の部屋で誰かが話でもしているのだろうか、と思ったがここはリオン。防音はしっかりされている。

 そして思い出した、この単語。

「……イフリータ?」

 恐る恐る呟いた夕霧の周りで、しゅうしゅうと水色の煙が巻き上がる。

 そしてその煙は一か所に集まり二頭身くらいの毛玉なようなものになった。

「……毛玉のお化け?」

「毛玉って何よ失礼ね! まったく、十数年ぶりに反応したと思ったら、私の名前まで忘れてるの? まったく、失礼しちゃうわ!」

 毛玉はものすごく怒っているようだ。短い手で髪の毛をひとつにまとめ上げると、毛玉は女の子だということがわかった。デフォルメされたキャラのようだ、小さいなぁなんて考える夕霧。 

「……ちょっと。小さいって何よ小さいって。あんたが力を私に流してくれないからでしょ! もしかして、そんなことも忘れたわけ? 子供のころのあんたの方が数倍マシだったわ!」

 よく回る口だな、と思う夕霧。 

「長いこと無視され続けられてた私の気持ちわかるわけ? 言っておくけどねぇ、私はずっとあんたの中にいたの。あんたの考えていることなんて全部お見通しだしあんたのことは何でも知ってるの! 例えば、あんたのデータフォルダに入ってる画像の傾向とか……」

「うわーっ! やめて! やめるべき!」

 ばたばたと手を振る夕霧。

「……その変な言葉遣いの大元も知ってるわ。で、あんた強くなりたいんでしょ? どうすればいいか教えてあげる」

 イフリータはベッドサイドのミニテーブルに腰かけた。

「あ、あと私のことはイフリータっていう種族名じゃなくて、ファーチャって呼んで頂戴。夕霧だって人間って呼ばれるの、嫌でしょう?」

 彼女の名前を聞いて何かが引っ掛かる表情をする夕霧。

「……ファーちゃん」

 ファーチャは驚いた表情を向けた。

 ファーちゃんというのは、夕霧が昔彼女を呼ぶ時に使っていた愛称だ。

「ちょっとだけ思い出したようね。でもあんたは学ばなければいけない。チィータの国に行きなさい、あんたのパパの故郷よ」

「父さんの?」

 そう言って夕霧はハッとする。

「……そうか、召喚術……」

 幼いころにイフリータを召喚できていたというのなら、きっと力の使い方を学べばまた自由に呼び出せるようになるだろう。

 今日のように、たまたま呼び出せるというだけでは心許ない。

「まったく、クリードもとんだ仕事を任せてくれたものだわ。」

 え、と夕霧は言う。

「ファーちゃんは元々父さんに従ってたのか?」

 もしそうだとしたら、昔の話とかも聞けるかも……なんて夕霧の心が躍る。

「残念ながら、私はあんたに前の契約者のことについて教えてあげることはできないの。そういう決まりなのよ。でも、まぁ……そうよ、私は元々クリードの召喚獣だった」

 話を聞くと、ファーチャ (幼い頃だったから許したが、ファーちゃんという呼び名はあまり好きではないらしい) は夕霧が産まれたとき、父親のクリードに頼まれ彼女のおもりを頼まれ渋々契約したらしい。

 というのも、召喚獣の力は完全に契約者の能力に依存する。契約した者が強ければ強いほど、召喚獣も強い技が使える……らしい。信頼関係も大事だという。

 しかし幼い夕霧の潜在能力はクリードを超えていて、ファーチャは最初大喜びだった。

 夕霧が産まれてから三年間は、最強の召喚獣を言っても過言ではなかった……ということだが。

「あっちの世界だと力を分け与えてもらえなくて、ずっと具現化もできないしあんたは私の事忘れちゃうし。こっちの世界に戻ってきたかと思えばあんたの力に蓋がされていて少しずつ漏えいしている力をかき集めてやっとこの姿よ」

 元の姿に戻りたいわ、なんてため息をつくファーチャ。

 できることならば、戻してあげたいけれど……なんて考える夕霧。しかし、彼女はまだ力の蓋を取ることすらできないのだ。

 つまり、チィータの街に行くことは決定事項のようなものである。

「ファーチャは私以外にも見えるの?」

「具現化すればね。最低このレベルまで実体があれば、見えるはずよ」

 良かった、と安堵する夕霧。見えない人と話すようになったなんてトーガたちに知れたらとんでもないことになる。\\\

「なるべく具現化させてあげたいけど……。蓋を取っ払う方法ってあるのかな? 私の心の問題とかならなんとかなりそうだけど」

 んー、とファーチャは顎に手を当て考え始めた。与え方を忘れている、とかならば夕霧が調べればいい話なのだけれど。

「あっちの世界で力を使えないだけで、こっちに戻ってきたのならなんら問題はないはずなのだけれど……。力はえいってやれば私に流れ込んでくるはずよ」

 ふんわりしてるなぁ、と夕霧は苦笑い。しかし言われた通りにしてみようと、彼女はファーチャに手をかざし、

「……えいっ」

 言われた通りにやってみた。ファーチャに力を流すようなことをイメージしてやったのだが。

「やる気あるの?」

 無理だったようだ。

 やはり調べなければならない。そう思った夕霧は早速ベッドから抜け出そうと布団をめくる。

「もう遅いわ、明日にしたら? 書庫の鍵も閉まってるでしょ」

 外を見ると、もう真っ暗だった。

 そうだな、と呟いた夕霧は明日を待つことにして、布団をかけ直した。


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