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VSドラゴン! ドゥラーゴの戦い3

いた。

丸くなり眠るドラゴン。

「好都合だね、凍らせてしまおう」

リヴィが呪文を唱えようと息を吸うと、

「だめ!」

口を塞ぐトーガ。

予想外の行動だったようで、さすがのリヴィも驚きに目を見開いている。

「オレに任せて。考えがあるんだ。それに、あの子に害があるとは思えないんだ」

そう言い残してドラゴンに歩み寄っていくトーガ。

ぽかんとする二人。

昨日、逃げる三人に向かって炎を吐きつけてきたドラゴンに害がない、と。そう言った。

リヴィは岩場に隠れ、

「知らないよ、まったく」

とため息をつく。

「昔から吹っ切れるととんでもない行動に出るんだよ、トーガは」

なんて言いつつも、命の危機があれば助けるつもりなのだろう、こっそりと様子を伺いつつ、魔法をかける準備をし始めた。

夕霧はこうドラゴンに距離があっては何もできないので、トーガの様子を眺めるだけだ。ぴるぴるも固唾を飲んで見守っている。

ドラゴンに向かうトーガは、背中の剣を握りしめると、なんとその場に突き立てた。何をしているんだ、と声が出そうになる夕霧。

トーガはそのまま眠るドラゴンの顔の近くまで行くと、手を伸ばし頬を撫でる。

ドラゴンはゆっくりと目を覚まし、トーガを見ると驚いて翼を開き宙へ飛び上がろうとした。風圧でぴるぴるが飛んでいきそうになるが、夕霧はさすがの反射神経で彼を守る。

「待って!オレは君に何もしないよ。武器だってそこに刺さってる。お願い、話を聞いて!」

ずる、とリヴィが滑る。トーガの作戦は、話し合いという至極平和でなんともトーガらしい作戦だった。

しかし、ドラゴン相手にそれが通用するかどうかは話が別だ。

ドラゴンはトーガをじっと見つめると、なんとどんどん小さくなってゆき、最後には小さな女の子になった。

夕霧は顎がはずれそうになっている。さすがに見苦しかったのか、そっとそれを戻すリヴィ。

「そういえば、ドラゴンにも変身能力があったね」

君と同じだよ、ぴるぴる、と、飛んでいかないように夕霧に握りしめられているぴるぴるを撫でるリヴィ。

しかしぴるぴるも夕霧と同じ顔をしていた。リヴィは再びそれをそっと戻す。

夕霧の目から見た女の子は、白地に赤い大きな花柄のワンピースを着ていた。彼女の弟である薫よりずっと年下であろう。フラフラとトーガの方に倒れ込んだ女の子。

トーガは彼女を抱き抱えるとリヴィと夕霧の元に連れてきた。

「手当してあげなきゃ」

近くで見ると、大きな赤い花を描いていたのは、女の子の血だということがわかる。

トーガはてきぱきと彼女の手当を進めた。

「いつもこんなの持ってたっけ?」

夕霧がガーゼを一枚持ち、女の子の血を拭いてやる。そっとやればできなくもない。力を入れないように、そっと。

「昨日買ったんだ。オレ、この子が小さい子供で怪我してるってわかって、どうすればいいのかずっと考えてて」

村の人からしてみれば、倒しちゃうのがいいいんだろうけど……と悲しそうに呟くトーガ。

しかし、眠るドラゴンを前にするとどうしてもリヴィや夕霧が攻撃するのを見ていられなかったらしく、こうなってしまったのだという。

夕霧的にも小さな女の子に斬りかかった挙げ句毒に犯すなんていう悪魔のような所行をせずにすんで良かった、なんて思っていたところだ。

知らずに殺して、あとでわかってしまったときの翌日の目覚めはひどいものだったであろう。

「……言えば良かったのに、僕だってそれくらいの良心はあるよ」

君は僕をなんだと思っているんだい、と唇を尖らせるリヴィ。

「だって、オレがいきなりさ? あのドラゴンは小さい子供で、手負いだから助けてあげようなんて言って、リヴィは信じる?」

少しの沈黙。

「……次からは信じるよ」

ぷ、と夕霧は吹き出す。

何笑ってるの、と鋭い目線が飛んできて、慌ててきりっとした表情を作る夕霧。

手当が終わり、呆然と痛みが収まった怪我を見つめる少女は、とても不思議そうな表情をしている。

「で、君はどうしてこんなところにいるの?見たところ君はまだ子供のドラゴンだ。ドラゴンは自分の子供は責任持って誇り高い一族の一員として育てると聞いているけど」

リヴィはいつも通り話しかけたつもりだ。

しかし少女には怖かったらしく、トーガの後ろに隠れてしまう。少しショックを受けるリヴィ。

「ダメだよ、子供には優しくしないと。……君、お名前は? お母さんとはぐれちゃった?」

さすが保育園の先生になりたいだけあって、子供の扱いがうまい。よしよし、と頭を撫でて彼女の緊張をほぐそうとしている。

「フェイ……フェイアロウ・ドレイク。お母さんは、ここでフェイを傷だらけにして、どこかに行っちゃった。もう戻ってこないの、フェイが弱いから」

三人の間に、緊張が走る。

「……ドラゴン、特にドレイク種は稀少が荒い。子供が産まれても自分の思う強さに達していないとこうして捨てちゃうとは聞いてたけど、本当だったなんて……」

トーガは悲しそうに目を伏せた。

詳しいね、とリヴィがトーガに声をかける。

子供たちが好きだからね……と心ここにあらず、という感じで答えるトーガ。よほどショックだったのだろう。

でも、とリヴィが呟く。

「この子は炎も吐けるし空も自由に飛ぶことができる……子供にしては強いと思うんだけど」

確かに……とトーガは首を傾げる。どうしてこの子が捨てられたのか解せぬ、という様子だ。

「フェイが、怖がりだから……」

彼女は涙声になりつつも一生懸命言葉を紡ぐ。

「フェイは、自分より小さいモンスターでも、怖いから……それに、ママは一族の中でも特に勇敢で、ドラゴン全体で見ても有名だったみたいなの。なのに、こんな娘じゃ一族に顔向けできないって……」

ぐす、ぐす、と泣き出すフェイ。

そうか、と夕霧はやっと理解する。トーガはフェイに自分と同じ匂いを見いだしていたのだ。だから、あそこまで放心するまで悩んだ。

リヴィもそれを理解したようで、トーガをにやにやしながら見つめる。

「な、なんだよ……どうせオレも小さいモンスターが怖いし勇者の甥っ子なのに臆病ですよ」

あ、そういえばそうか、と夕霧。

今のリオンを治めている国王は、トーガの父親でありかつての勇者の弟だ。レディ・サタンに誘拐されていた経歴を持つとんでもない国王だが、民衆は優しい国王を心から慕っている様子。良い国だったなぁ、と思い返す夕霧。

「さて、ここにはもう用はないわけだし……帰ろうか」

リヴィがそう言うと、フェイがびくりと体を震わせた。

「帰っちゃうの……?」

一人にしないで、とフェイの瞳が訴える。

「帰るよ」

トーガが笑う。フェイを抱き上げ、肩に乗せた。

「フェイも一緒に行くでしょ? オレ達は君を見捨てたりしないから」

一瞬驚いた顔をしたフェイは、みるみるうちにまた泣き出した。

「うん……! フェイ、お兄ちゃんとお姉ちゃんと一緒に行く……!」

まったく、と呆れたようなため息をつくリヴィだったが、表情はそこまで嫌そうではない。むしろ、嬉しそうにも見える。

一人仲間が増えた一行は、意気揚々と山を降りると、ドラゴンを仲間にしてきたことに驚愕の色を見せる村人たちを笑いながら、次の旅路をどうするか相談するのだった。


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