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始まり

携帯の着信音が鳴る。

夕霧はもぞり、と布団の中で身じろぎをしたが起きる気配は無い。

しかし、携帯電話は諦めることなく持ち主である彼女を呼び続けている。

いい加減にしろ、とでも言いたげに夕霧の眉間に皺が寄り、ようやく携帯電話に手が伸びた。

「もしもし……」

「ぱんぱかぱーん。君は実に幸せな人間だ!この僕が直々に選んだ、君にぴったりな仕事を与えよう!」

寝起き一発目の衝撃にしては大きすぎたのか、それとも夢とでも思ったのだろうか。

夕霧はぷち、と通話を切るともう一度枕に顔を埋めた。

しかし携帯電話は尚もめげずに鳴り始め、夕霧を呼ぶ。


「あああああっ!うるせぇよなんだよ!」


布団から飛び起きた夕霧は勢い良く通話ボタンを押すと、そう叫んだ。

「おやおや、そんな怒ると早死にするよ?人間はそういうふうに作ったからね」

やれやれ、とでも言いたげに電話の向こうでため息をつかれる。それがまた夕霧の琴線に触れた。

「誰だよてめぇ! 私の安眠妨害したからには大層な理由があるんだろうなぁ? さっさと名前用件謝罪を述べろよ!」

みしみしと携帯電話が軋む。

「あぁ、申し遅れたね。僕は***。君に仕事を与えたくてね……それと、寝てる時にごめんね?」

夕霧の眉間の皺が一層深くなった。こいつの口調もいらつくが、なぜか名前が聞き取れない。

「名前、なんだって?」

「***だよ。……あ、君たちの言語レベルじゃ理解も発音もできないのか」

うーん、と***は考え込む。

馬鹿にされている、と一瞬思ったが、何故だがそれは少し違うような気がした夕霧は少しだけ話を進めてみることにした。そうでなければ二度寝はできそうにない。

「で、何者よ」

「えーと・・・君たちの世界でいうところの神なんだけど、ちょっと待ってね。今君たちでも理解できる言語で名前を考えてるから」

ぶつぶつと人名を呟き続ける自称神。

夕霧はこれは夢だ、と割り切ることにした。

「太郎でいいでしょ。で、仕事って何?」

夢の中なはずだけれども、寝ている気がしない……早くもう一度寝たい。その一心でさくさく話を進めたがる夕霧。

「もっとかっこいい名前がいいなー。天龍とか」

神のくせに厨二病かよ勘弁してくれ、とげんなりした夕霧だが話が進まないのでつっこむのをやめる。

「……で、仕事についてだけど。君の能力をフルに活用して欲しいだけだ。これは君にしかできない仕事だよ。あと、これは夢じゃないからね? まじめに考えて!」

後半、いきなりまじめな口調になる神。

夕霧は君にしかできない、という言葉に僅かながら反応した。しかも、夢ではない……と。

「……私は何もできないよ」

何かを悔いているかのように呟く。

「壊すことくらいだ」

自分を嘲るように笑う夕霧。彼女の脳裏に、ある出来事の記憶がよぎった。

「知ってるよ。僕は何でも知ってるからね」

「え」

神は何でもない、日常の出来事を話すかのように話始めた。

「君は、色々事情があったにせよ、結果的に人を、それも複数をたった一人で半殺しにした。一番怪我が軽かった人でも複雑骨折・・・だったかな。しかも君は素手だった。そうだね?」

「……」

黙り込む夕霧。しかし神は続ける。

「そして君は退学。それ以来ずっと外に出ることもなく、唯一の会話相手は母。でも君のお母さんは君と目を合わせてくれない……そりゃそうだ、一般人から見て君のやったことはとても怖いもの。君がまったく口を割らなかったせいで何故君があんなことをしたのか、誰も知らないんだから……本当君って不器用だよねぇ」

ふふふ、と笑う神、押し黙る夕霧。

この話は、夕霧にとって思い出したくない出来事であり人生を大きく変えてしまったものだ。掘り返して、気持ちのいいものではない。

「……どこまで知ってるのさ」

押し出した一言。夕霧には知られたくない事実がある。一番誰にも言いたくない場所、夕霧が話すくらいなら退学を選ぶ程の事実。

「全部だよ。ぜーんぶ、僕は知ってる。」

「本当に?」

はったりだとしたら、信じてバカを見るのは夕霧だ。

しかし、本当だとしたらこの人物を神だと信じる証拠になる。

なぜなら、夕霧はあの暴力事件の秘密を誰にも話していないからだ。

「これで信じてくれるかな? 君には一人とても大切な友人がいたね。優秀で勤勉な、真面目を絵に描いたような子だ。しかし勉強のストレスからかいつしか愛煙家になってしまい、君がボコボコにした不良たちにバレる。それをネタに彼女は脅されていたんだ。彼女の様子がおかしいと感じていた君はこっそり彼女の行動を見張り、その現場に出会った。彼女が愛煙家であることを知っていた君はすべてを悟り、その場で問題を暴力によって解決した……違うかい?」

まったくもって、その通りである。

この人物は本当に神なのだろうか。あの少女が外部に漏らすわけはない、そんなことをすれば夕霧の決断が無駄なものになってしまう。

「……あってる」

あの事件のあと、夕霧が守った少女は一度も姿を見せていない。夕霧が思っている程に、彼女は夕霧のことを思っていてはくれなかったのだ。

「さて、用件に戻そうか。君のその暴力と正義の心で、世界を救うお手伝いをしてほしいんだ」

神は夕霧が自分の頼みを聞くであろうことを確信したのだろう、ようやく本題に入り始めた。

「日本を暴力で救えるわけないだろ」

夕霧も信じる気になったのか、先ほどよりは真面目に受け答えをする。

「誰も日本を、なんて言ってないよ。君には、ちょっと違う世界に行ってもらう」

「はぁ?」

 思わず、突拍子もない声を上げる夕霧。

「タケノコの里派とキノコの山派が和解するレベルでありえないこと言ってるんじゃねーよ……」

「神にありえないことってあると思うの? ……行くよ」

 神のその声と共に、夕霧はその場から姿を消した。


たまにネットスラングとかあったりしますので、意味がわからない言葉があればご一報ください。

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