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もんだい1

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 今回書かせていただくのは、タイトルのとおり。保健室に女の子の探偵がいて、男の子の語り部がいて、色々な事件がおきて、二人がそれを推理して行くというような学園ミステリでございます。しっかりした推理小説、というのを目指してトリックなど特に力を入れていきますので、冒頭から非常に陰鬱な描写がございますが、どうかお付き合いください。

 (★★☆)


 凶器も犯行時刻も現場も動機も被害者すら不明なのだけれど、自分はどうやら殺人事件の加害者であるようだった。

 木曽川一馬きそがわかずまは湿った部屋の中でベッドに顔を埋めていた。一万の視線から逃れるように体を震わせるその姿は、肩を僅かでも突付かれただけで飛び上がりそうなほどである。

 一馬は人を殺してしまった。このことは百パーセント確かなことであり、この世界の神が定めた絶対の摂理であるとも言えた。故に一馬は怯えている。この世界の全てが敵に回ったような気分だった。しかもそれは事実だったのだ。

 あの母親はきっと自分に味方などしてくれはしないだろう。自分が何をしたのか知ったところで、彼女は驚くことすらせず、面倒くさそうに受話器を持ち上げるだけのことだ。他に頼るものもいない。これまで僅かばかりでも口を利いてくれていたクラスメイト達にこのことを話しても、彼らは汚物を見るような目を一馬に向けるだけだろう。

 状況は絶望的だった。そう、周囲には敵しかいないのだ。人を殺害してしまった自分はどこに言っても疎まれる。自分はそれを分かっていて、こんなことをやったのだろうか。分からない。一馬はどうして自分が人を殺したのか知らないし、誰を殺したのかも知らない。ただ漫然と、しかし確実に、自分は人を殺してしまったのだという、絶望的な認識がそこにあるだけのことだ。そこには罪悪感も嫌悪感も付属していない。ただ発覚するのが怖かった。

 このまま消えてしまいたい。この世の中で自分は、誰もかもを恐れながら、誰もかもと繋がれないまま、生涯を過ごさなくてはならないのだ。これから始まるだろう血生臭く苦痛に満ちた隠蔽行為を、自分は完全なる孤独の中で行わなくてはならない。

 だからなんなのだ。このままベッドに顔を埋めていれば自分は助かるのか。そんなことはない。何も考えず、何もしないでいることほど愚かな行為は存在しない。助かるためには、生きるためには、自分にはしなくてはならぬことがたくさんあるではないか。

 一馬は立ち上がった。

 そして一日は始まる。煩雑で、難解で、広大なこの世界の中で、輝かしいほど一人きりの絶望的な戦いが、今日もまた始まるのだった。


 目を覚ました時に目に入って来た壁の染みは、想像力を働かせれば、辛うじてだが何者かの顔に見えた。ほんの数年前までは、壁の染みは一馬の兄か友人のどちらかで、母親に呼ばれてぼんやりと起床した一馬におはようの挨拶をしてくれたものである。

 一馬は壁の染みから目を逸らした。あんな夢を見た後では、天井に浮いた人の顔などと不気味なようにしか写らない。あんなものは鬼かはたまた悪魔だ。

夢に見たとおりの汚い部屋の床に足を着け、着替えを済ませてから一馬は一階へ降りる。小汚いリビングルームに、母親はいなかった。となるとパチンコか、それとも男遊びか。一馬は床に座ると、一馬は賞味期限を確認することもせずに、袋入りの食パンを手に取った。水ものまずにもにゅもにゅと、間抜けな音を立たせながら、寝起きで滑った構内に程よく湿ったパンが押し込む。時計を見ると、もうのんびりとはしていられない時間帯だった。

 夫と離婚した母が慰謝料を使って悪い遊びを極めるようになってから、一馬は得体の知れない孤独感と焦燥感を味わうようになっていた。すなわち、自分は自分の力で生きていかなくてはならないという少年らしい思いと、それに対する不安である。彼が悪い夢を見るのも、そんなところから来るのではないかと思われた。

 漫然と薄らぼやけた頭で、人とぶつかるようなことも辛うじてなく、一馬は学校にたどり着いた。いつも通っている中庭は職員室の前に位置していた。一馬はいつも、そこでなんとなく注意力を働かせるようにしている。用心深いのか愛車が可愛いのか、一馬の担任教師である工藤直治くどうなおざねは真っ赤な車をこの中庭に停めているのだ。巨大な二つの植木鉢の隣、職員室の窓から良く見える場所が目印である。今日はそこに何もない。つまり、今日工藤は学校に来ていないのだ。

 しかし予想に反して、教室に着くとその教壇には愉快に話す工藤の姿があった。遅れて入ってきた一馬に、不自然な勢いで笑顔を憤怒に塗り替えて猛烈な叱責を工藤は飛ばす。新人だとは思いがたい剣幕だった。自らの非を自覚していた一馬がはい、と素直な返事で答えると、次からは気をつけるよーにと妙に間延びした声で言ってから愉快なお話に戻った。

 いつもの車はどうしたのだろう。パンクでもしているのだろうかと思ったが、そんな無駄なことに思考力を費やすことはせず、一馬はせいぜい点数を下げないようにと、工藤の方を向いて話を聞く振りに勤める。頭の中で、一馬は相変わらず漫然として、劣等感と孤独感、狂おしい焦燥感の中を舞っていた。


 その日の一時間目の授業は水泳で、これを取り仕切るのが体育教師の工藤である。彼の授業は生徒達には大いに不評だった。

 一馬の所属する一年一組の生徒が水泳の授業が憂鬱だと言えば、他のクラスや学年の者は信じられないと口を揃える。彼らにとって水泳という授業はただのお遊び、数学や英語などのかったるい授業の間に挟まれたちょっとしたオアシスなのだ。水を得た彼らは五十分の授業時間中好きなように遊んでいて良い。魚のように水の中を泳ぎまわるのも、泳ぎ回るその足に組み付いて悪戯をするのも自由。それが疲れるというならプールサイドに座り、運動場にいるはずの女子の尻でも眺めていれば良い。

 だがしかし、それを良しとしないのが工藤という体育教師なのであった。彼は受け持った男子生徒達を三つのグループに分けてから、一グループずつ水に入れて端から端まで二往復させる。型は自由だが、周りに遅れると恥をかくことになるので、基本的には自分の好きな泳法、或いは全力のクロールに限定される。泳ぎ終わったら再び列の中に紛れて順番を待つが、休めるのはほんの数分もない。

 その過酷な授業内容は生徒の気力・体力を著しくそぎ取る為、一馬のクラスメイトの中にも欠席をするものが多くいた。工藤はそれに対して何も言わない。付いて来るなら来いといった具合である。

 一馬は生まれつき体が小さく、体力もなかった。泳ぎも決して上手いとは言えず、他の者が一往復する間に端まで辿り付けていないと言った具合。しかし一馬は一度として欠席をしたことがない。

 自分に限らず、ここの学生のその全ては将来的には自らの知力と体力、根性で生きて行くことを要求されるのだ。それは決して逃れられない。それがこんな子供の内から、ちんけな水泳の授業ごときに欠席していたのでは先が思いやられる。というのが一馬の一流の考えだった。子供にしては立派だと言えばそれはそうだし、いささか捻くれていると取ることもできる。何にせよ一馬は逃げるというのが嫌いだったし、しかし何もかもに立ち向かって行こうとすれば、彼は脆弱に過ぎた。

 結果、一馬は溺れた。

 情けないことこの上ない。疲労しきった体を水で覆われ、減速する自分を感じながら、自分は果たして向こう岸までたどり着くことができるのだろうかと考えた。その瞬間だけ、一馬の体を動かすことへの集中力が途切れたのだった。

 その時の一馬には自分を包み込む水という水が敵に見えた。足に絡みつき腕に絡みつき、腹部に巻きついて頭を押さえ込み、一馬を底まで引き擦り込もうとして来るのだ。途端に一馬は冷静な判断力を失い、どのように体を動かせばどうなるのかまったく考えられなくなり、すると今度はどこに重力が働いているのかも忘れ、窒息して行った。気絶寸前の一馬の体を持ち上げたのが担任教師の工藤で、彼は一馬を抱えて更衣室に向かって行った。

 「大丈夫か。良くがんばったな」

 工藤はまずはそう言って笑った。良くがんばったな、じゃねぇよと一馬は苛つく。この程度の事故を想定できなかったのか。ひねたことを考えながら、しかし実のところ一馬の心を占めているのは途方もない劣等感である。

 「俺はおまえのこと、すごいと思っていたんだぜ。体そんなに強くないだろ? いつかこうなるの、自分で知ったたんじゃないか?」

 「……いいえ」

 「そうか。とにかくおまえ、根性あるよ。でも無理するなよ」

 まったく嬉しくない。無理するなというのをこの男が自分に言う権利はないのではないかと、一馬は捻くれたことを考えて着替えを済ませた。

 「保健室、行くか?」

 一馬はうなずいた。

 「ちょっと訊きたいことがあるんだ」

 工藤はなんと保健室まで付いて来た。なんと、というのはもちろん一馬の驚きを表している。工藤は少しだけ真剣な顔をして一馬にこう尋ねた。

 「おまえ、学校来る時いつも中庭通って来てるよな」

 「ええ」

 一馬は生返事を返した。冷房の切られた保健室、白いカーテンに遮られたベッド。一馬と工藤以外人はいないようだ。カーテンの向こうに何者かが潜んでいるという可能性もあるにはあるが。

 「それじゃあ。朝来た時は俺の赤い車、あったか?」

 「いいえ」

 一馬は答えた。

 「いつも、でかい植木鉢の隣に停められてますよね」

 「ああ。あそこが職員室から一番良く見えるんだが。どこの不届き者だ、俺の車に何をしたんだ?」

 この担任教師はマイカーに深い愛情を抱いている。ちょっと無理して買った値段らしい。体育の授業中も暇が出来たら自動車の雑誌を読んでいたりするのを、一馬は何度か目撃している。

 「どうしてあんなところに停められて?」

 「俺が中坊の頃は、気に入らない教師の車には良く悪戯をしたもんだよ」

 妙な人だ。一馬は思った。

 そんなこと、恐れたところで仕方がないというものである。一馬はそう思う。しかし、それにしても。

 「ってことは、車がなくなった、てことですよね」

 「ああ。そのとおりだ」

 工藤は頷いた。

 「鍵は俺が持っているはずなのに。おかしいんだ」

 保健室には一馬一人が残された。妙な相談をされたものだな、と思う。しかしそれは、不可解な謎と言えば謎だった。どうして車が消える? 誰かがピッキングして持ち去ったとでもいうのだろうか。そんなことできる訳がない。車はいつも職員室から見えやすいところに置かれているのだ。だいたい誰がそんなことをするというのだろう。

 体調も回復した一馬は、この問題に少しだけ興味が沸いた。工藤にとって見れば一大事とでも言うべき問題なのだろうが、無関係な一馬にして見ればちょっとした推理パズルのようなものである。

必要な情報は、だいたい手に入っているような気がする。これは一馬の勘だった。当然今以上の手がかりを求めて中庭に向かうこともできるし、そっちの方がきっと効率が良い。でもとりあえず今立ち止まって考えてみて、それで答えが出たら心地が良いというものだ。

 「なぁ。そこの君。見事な溺れっぷりの君」

 その時、一馬にそんな声がかかった。

 「そこのカーテン、分かるだろう。空けてくれないかな? 君の顔、見せてみてよ」

 言うので、一馬はベッドの前にかかったカーテンを開けた。

 そこにいたのは一人の少女だった。白い顔と黒長い髪を持った彼女は、真顔でこちらに手を差し出した。起こしてくれ、と暗に訴えているのかもしれない。一馬はそのとおりにしてやった。すると鼻を突き合わせることになった少女と一馬の距離は、タバコ一本分に満たなくなる。

 その至近距離で、少女は一馬に言った。

 「さえない顔ね」

 うるせぇよ。

 「あとちょっと体後ろに引いてくんない?」

 言うので、一馬は手を放してその場を離れようとする。「違う違う。あたしの体後ろに引っ張って。壁にもたれてないとしんどいじゃん」それくらいのことも自分でできないのか、と一馬は呆れ顔でその壊れそうに細い肩を掴み、言うとおりに後ろに引っ張ってやる。少女は人懐っこく笑って「ありがと」と一言述べた。

 「君の溺れっぷり、見ていたよ。いやぁおもしろかった。いやぁ水の中というの、悲しいところだよね。人間にとって。かつて捨ててしまった、もう二度と戻って来られない楽園で、今では両手足を使ってばたばた無様に浮いていることしかできないんだから」

 少女は言った。一馬は認識する。こいつ変人だ、妙なのに声をかけられてしまったものだ。人懐っこく繊細な表情と声、黒めがちな瞳に柔らかそうな髪、白い肌となかなか美人の条件を満たしているのに、もったいないことである。

「それにしても君はどうして、水に馴染めないのに水泳に参加するの?」

 首を傾げて少女は訊く。一馬は答えた。

 「単位と内向」

 「ふうん。本当にそれだけ?」

 「本当だよ。おまえこそ、どうしてこんな時間に保健室にいるんだよ?」

 「あたし。灰村灯はいむらあかり

 少女は突如として自己紹介を始めた。

 「保健室とーこーで、今は自習中。あたし君のクラスなの、木曽川一馬君。初めて会った時より暗い顔してたから、一瞬分かんなかったけど」

 「悪いけど、忘れてたな」

 そういやそんな生徒がいたな、という認識である。しかし保健室登校ね。

 一馬の小学校にも似たような生徒がいた。クラスでいじめにあって、それから逃げるように保健室登校に切り替えた男である。その内彼は保健室にも来なくなり、何もかもから逃避して家に閉じこもっているのだ。

 あんな風にはなるまい、と一馬は思ったものだ。

 「そう。残念ね」

 少女、灰村灯は一瞬だけ寂しそうな顔をしてそう言う。すぐに人懐っこい笑顔を振りまき、とんでもないことを言い始めた。

 「ねぇ君。あたしのワトスンにならない?」

 一馬は大きく口を空けた。

 「あたし名探偵しようと思ってんの。だから君には、あたしの手伝いをして欲しいのよ」

 「なんだよ唐突に」

 一馬は溜息をついた。

 「君ってなんか好きだもん。さっきの溺れようと言い」

 灯は人懐っこく言った。

 「名探偵ってのはなんだ?」

 「読んで字の如くよ」

 灯は手元にあったハードカバーを一馬の方に投げて寄越した。少し身を乗り出せばそんなことをしなくても良いのに、どうやらそれすら面倒くさいようである。

 「知らないならそれを読むと良いわ。世界でもっとも格好の良いヒーローがいるわよ」

 シャーロック・ホームズの児童書であった。図書室で借りて来たものだろうか。しかし一馬はこのシリーズなら小学生の時に、学級文庫にあったものを散々読んで、飽きてしまっていた。

 「知ってるよ」

 「そう。それは奇遇だね。おもしろいよね、ホームズ」

 「まあね」

 「そうだよ。きらめく頭脳っていうのにすごい憧れないかな。男の子なら分かるでしょ? ものすごい荒唐無稽なヒーロー番組を見ながら、そのごっこ遊びするの。あたしそれが良く分かんなくて。でも」

 灯は目を輝かせて、饒舌に語る。

「でも憧れっていうのはね、自分もそうなりたいって気持ちなの。ホームズのお陰で、あたしそれが分かったんだ。だからホームズの真似をするの」

 「あっそう」

 ガキそのものだ、一馬は思った。授業中だというのに随分と暇なものである。探偵ごっこならどうぞご自由に、と言い返してやりたいところである。

 「それでさ。聞かせて欲しいのはさっき先生と話してた事件の話なんだけど」

 探偵ごっこにはちょうど良い事件が転がっていた、という訳だ。しぶしぶ一馬は事件の話をしてやる。

 「別に。さっき話してのが全てだよ。先生は中庭の植木鉢の脇に停めてある自分の車が、なくなっているのに気付いた。いつからなくなっているのか俺に聞いた。俺は朝来た時にはもうなかったといった」

 「そう。見落としたりしてない?」

 「してないよ」

 どうだろうか、と一馬は内心で思っていた。いつもの植木鉢は確認したが、先生がそこに停めていないのであればそれまでだ。いいやしかし、先生自身底に停めたのは認めていたではないか。ならば自分の証言は間違っておらず、何らかの手段で車を奪ったその犯行は、一時間目の授業が始まる前に行われていたことになる。

 「先生は、自分で中庭に見に行ったの?」

 「知らないよ。だけど、車はいつも職員室から見えるところに停めてるから。わざわざ行かなくても分かるだろうね」

 「そう」

 灰村は楽しそうに、何事か考えるように少し黙ったあと

 「なるほど。分かった」

 嬉しそうにあろうことかそんなことを口にした。

 「ねぇ君。ちょっと中庭まで見て来てくんない?」

 「嫌だよ」

 一馬はすぐに答えた。

 「俺は自分のことで精一杯なんだ」

 だいたいワトスンは小間使いじゃねぇだろ、と一馬は思った。

 「それじゃあな」

 自分じゃ何もできないのか。一馬は背後の少女にそう溜息を付いてから、保健室を後にする。

 残された少女は寂しそうな顔をして、何も言わずに見送った一馬のことを考えていた。


 教室に帰った一馬を待ち受けていたのは、仲間からの嘲笑と言葉であった。彼らが言うには、一馬が水に足をとられる様は非常に『見事』なものであり、コメディックで笑えたのだという。

 「なっさけねぇなあ」

 クラスメイトの誰かがそういうのを聞き流し、一馬は憮然として机に頬杖を着いていた。いつもは話をすることもないような連中が、こんな時だけどうして突っ掛かって来るのだろう。

 「愚図。体力ねぇの」

 一人が言った。普段話をすることもないような連中だけに、言って来ることは非常に辛辣だ。自分とは禄に建設的な関係を築いていない奴らなのだ、一馬に何を言って不愉快にさせても、そこにはなんのデメリットもないという訳である。

失敗をしたりして劣悪な様を晒した人間のところに寄り集まり、嘲笑することでしか自らの優位性を見出すことのできない連中だ。だがしかし、そんなバカ共に笑われてしまうようでは、自分は情けないという他ないのではなかろうかとも思われる。なので一馬は、その連中からの侮蔑の言葉を仏頂面で聞き流していることしかできなかった。

 「何とか言えよ」

 一馬を取り囲んだ一人が言った。退屈そうな、気に入らないような顔をしている。これに対しても一馬は無言を貫いた。適当に媚びて、この場はおどけて見せるような狡猾さが備わっていれば、少しは一馬もクラスに馴染むことができるだろう。だがそれができないのだ。

 「気にいらねぇ」

 一人が言った。そりゃそうだ。誰だって無視されれば不愉快になるに決まってる。それが分かっていて返事をしていないのだ。罵声が激しくなる。生意気だの根暗だの、水泳の授業で見せた醜態など最早関係ないのではないかと、一馬には思えて来た。苦痛だった。

 「まあまあ君ら暇じゃないんだし、わざわざそんな大人数で取り囲むんじゃない」

 と、間に入って来たのはクラスの室長を務める桐家宗一きりいえそういちという男子生徒だった。

 「君なんて授業さぼってたろ。僕もだけどさ。きちんと授業に出席しているだけ、そこの木曽川のが立派だというものだよ。彼だって、水に入ってすらいない連中に溺れたことをバカにされては、無視を決め込みたくなる訳だ」

 中学生にしては随分と論理的な喋り方である。さっきの名探偵気取りのように意味不明ではなく、非常に聞き取りやすく、また分かりやすい。このように堂々とした弁舌を振るうことができるが為に、桐家は室長を勤め上げることができているのだろう。きっと頭が良いのだ。

 桐家のその一声に、一馬を取り囲んでいた生徒達は少しだけ困ったような顔をした。中でも中心的に一馬を攻撃していた生徒が桐家に黙らされたので、統率を失った生徒達は完全に烏合の衆と化している。そこで桐家は言った。

 「ところで。僕はこれから木曽川と話があるんだが」

 集団一人一人の顔を見回す桐家。中心核の男はなんだかバツが悪そうに肩を竦めて、その場を去って行った。他の者はなんとなくそれに付いていく。つくづく主体性のない連中だ、一馬は思った。きっとああいう連中は将来、一人で生きて行くことができず常に誰かに淘汰されて、一生良い思いができずに終わるのだろう。あんな風にはなるまいと思った。

 「塚本。今日は一緒に帰ろうな」

 中心核の男にそう桐家はそう言った。男は軽く手を振ってそれに応じる。桐家は事後のフォローも忘れない。つくづく頭が良い奴だなと一馬は感心した。こんな風に振る舞えるようになりたいものである。

 「桐家」

 一馬は声をかける。

 「ありがとうな。なんだか助かった」

 「ううん。邪魔だったから」

 桐家は一馬にそう返事をした。そのはずだ。そうでもなければ、この桐家が魯鈍なる自分にあんな親切を働く理由もない。となると、話というのは連中を遠ざける為の方便ではいことになる。

 「それで。話っていうのは?」

 「君。さっきの授業の間に、どうやら保健室まで行って来たらしいね」

 一馬は桐家の言い方がひっかかった。

 「行って来た、らしい?」

 「先生から聞いたんだ」

 「見てなかったのか」

 「うん。さっきの授業中、僕は一人で校舎をうろうろしていたから」

 桐家は表情を変えずに言った。となると、さっきの授業中桐家はプールの脇にいなかったことになる。一馬はこのことにまったく気付かなかった。

 「一人で? 校舎を」

 「ああ」

 変わった奴だな、と一馬は思った。

 「いや、変な奴だと思わないでくれよ」

 桐家はそんな一馬の表情の変化を見逃さず、すかさず自らをフォローする。その表情には、自分という存在に確固たる自信を持った人間にしか、かもし出すことのできない余裕が備わっていた。

 「炎天下の中で、両脇にはむさい男子生徒、聞こえて来るのは熱血教師の怒声、そんな状況で体育座りよりか、こっそり抜け出して校舎を探検していた方が楽しいというものだよ。スリルも味わえるしね」

 なるほど。理屈には適っているが。一馬は微妙な心境になった。この優等生然とした男がそんな理由でサボりなどするだろうか。いいや、そんなレッテル張りに意味はない。室長だって暑いのは嫌だし、嫌なことからは逃れたくなるのが当たり前だ。

 「話を戻すよ。それで僕が聞きたいのはさ、保健室の灰村さんのことなんだけど」

 「灰村か」

 一馬は思い出していた。ほんの数センチの距離で鼻を突き合わせ、拝んだ白い顔。掴んだ肩の華奢な手触り。そしてその言動。

 「あの名探偵か」

 「名探偵?」

 桐家は面食らったような顔をしていた。

 「名探偵って。あのミステリの?」

 「ああ。古典的な」

 「古典的じゃないさ。時代と共に形は増えたが、名探偵という存在と役割は未だミステリ小説の世界でそのヒーロー性を遺憾なく発揮している」

 桐家は少し早口にそう言った。それが一馬には意外で、訊き返してしまう。

 「おまえ。ミステリ好きなの?」

 「うん。今は新本格だけど。古典的なのも、小学生の時は貪るように読んだ。乱歩とか」

 「へぇ」

 乱歩なら一馬にも覚えがある。とは言え、貪るように、とはいかなかったが。少年探偵団など子供向けのシリーズを、なんとなく数冊だけ読んだだけのことである。

 「もしかして。あのミステリ研究会に入ってたり?」

 私立動堂中学のミステリ研究会と言えば悪名高い。変人集団と噂されるだけでなく、部員からは何人か死者が出ている。今から一年前のことだ。部内で殺し合いがあったものだとさえ噂されているのだが、本当かどうかは一馬には分からない。だが火の無いところに煙はたたぬ、そんな噂が起こるほど、気の違えた連中だということだ。

 「そうだよ」

 桐家は表情を変えずに言った。

 「悪い噂も多いけどね。知ってて入ったんだ。友達に進められて、三人で」

 「ふうん。良かったのかい?」

 「結果的には。しかしやっぱり変わった人が多いんだ。まあその話は後で。灰村さんだよ」

 随分と話が脱線していたようだ。だがこれは、桐家が名探偵という単語に食いついたことが原因である。どうやら桐家はその手の小説のフリークであるようだ。

 「名探偵なんだってね」

 「自分でそう名乗ったんだ。いいや、そうなりたいと言っていた」

 「それはすごいな」

 桐家はおかしそうに笑った。

 「それで桐家。おまえは灰村に何の用があるんだ?」

 「別に用なんかないさ」

 桐家は流暢に言う。

 「ただ興味があっただけだよ。どんな女の子なのかってね」

 本当にそれだけらしい。物好きだな、と一馬は思った。

 「あっそう。なら直接、自分から会いに行けば良いじゃないか」

 一馬はもっともなことを言った。すると桐家は

 「行ったさ。そして名前を読んで見た。返事がない。君のクラスの室長を務める桐家宗一だよって挨拶をしても、灰村さんはあの白いカーテンを開けようとしなかった。どうやら僕じゃダメみたいだった。じゃあ君の場合はどうなんだろうって思ってね」

 「ふうん」

 灯は自分から一馬に声をかけて来た。保健室の窓から見た、その溺れっぷりが気に入ったのだという。そう言った灰村の表情は、先程一馬を罵った連中のような卑下たものとも違っていた。

 「どうして灰村が気になったんだ」

 「さあ」

 桐家はそう言った。一馬は少し面食らう。

 「保健室登校だったからかな」

 「どんなだよ」

 「分かんない? ちょっと普通じゃない気がするじゃないか。そういうのを見ると、自分から接触して、何とか自分の手中に収めたくなるじゃないか」

 そこまで言って、桐家は何かに気付いたように両手をこちらに突き出しながら

 「いや。手中に収めたいってのは、別に変な意味じゃないんだよ」

 と焦ったように言った。なので一馬は

 「やめとけ」

 と少しだけ唇を持ち上げて

 「あいつは変な女だ。ものすごく変な女なんだよ。だからやめとけ」

 「だからさぁ。そんな気はないって言ってるだろ」

 否定する桐家だった。実際、そんなことはないのだろう。会ったことも無いような女を、保健室登校児だという理由だけで好きになる男がいるものか。

 ならば手中に収めたくなる、というのは、いったいどういう意味なのだろうかと一馬は思った。

 それから一馬は、自分の見た灰村灯の全てを桐家に語って聞かせた。最後に変な女だというのを強調すると、やはり桐家はおもしろそうに

 「やっぱり普通じゃないね」

 と満足そうに言った。

 「余計に会いたくなって来たよ。しかし彼女は、先生の車がなくなった事件に興味があるのか」

 桐家は唇を持ち上げて、なんだか嬉しそうに笑った。一馬は桐家に問う。

 「おまえはどう思う? ミステリ好きとしては、この事件、ちょっとは推理できるのか?」

 「なんだかんだ、君も探偵ごっこには乗り気だね」

 桐家は皮肉っぽく言った。うるさいなと、一馬は思った。

 「そうだね。車なくなったんじゃなくて、ただ変身しただけというのはどうかな?」

 「変身?」

 一馬は鸚鵡返しに言った。桐家は楽しそうに

 「そう変身。さっき校舎をぶらついていて気付いたんだけど、中庭には先生の車とは別の車があった。いいや、僕は先生の車を見たことがないから、おそらく別の車だろうということなんだが。どうして別の車だと言えるのかというと、それがとんでもない痛車だったからだ」

 「痛車……」

 一馬の知識では、痛車というとアニメなんかのキャラクターが大量にペイントされたアレである。確かにそれは、あの工藤のイメージとはそぐわない。あれを見て工藤の車と思う奴はいないだろう。

 「もしかしたらさ。犯人は先生の車に悪戯して、アニメキャラのシールを大量に張りまくったりしたのかもしれないよ。もしかしたらナンバープレートも取り替えていて、先生にそれを自分の車と認識できなくさせたのかもしれない」

 なるほど推理である。しかし一馬は首を振った。

 「工藤は自分の車をいつも職員室から良く見えるところに置いている。その車にそんな悪戯を施そうと思っても、職員の誰かに見咎められて終わりだろうさ。それに、工藤はあるはずのところに自分の車が無かったんだと言っている。仮にその痛車が工藤の車だったとして、どうやって車をその位置から外したんだ」

 「なるほど。こりゃ僕が間違っていたようだ」

 桐家は素直に認めた。そして次に、何事か考え込むように虚空に視線を彷徨わせると、思いついたように

 「そうだ!」

 と叫んだ。

 「これは我ながらナイスアイデアだよ」

 自信たっぷりである。一馬が促すと、桐家は少しだけ間を置いてから両手を前に差し出して

 「いいかい? 車の位置が変わった、というのはあくまで、先生がそう認識しているだけかもしれないんだ」

 「どういうことだ?」

 「発想の逆転だよ」

 桐家は自信たっぷりに

 「車の位置が変わったんじゃない。犯人は何らかの手段で、職員室の位置を変えさせたんだ。だから職員室から見て工藤は自分の車を確認することができなかったし、犯人は悠々と先生の車を痛車にすることができたということだよ」

 「本気で言っているのか?」

 一馬は流石に目を向いた。桐家はくすくすと笑って

 「もちろん。冗談だよ」

 そう答えた。ふざけていた。

 「だがしかし。逆転の発想は必要だよ。ミステリを読み解くには、いつでもね」

 桐家は言った。もしかしたら、これは自分にとって、事件を謎を解くヒントになりうるのではないかと思った。

 「ところで。灰村さんはその謎を解いたのかい?」

 「さあな。分かった、とは言っていたけれど」

 実際のところどうなのか。一馬には疑わしかった。どっかから電波を受信して、たった今桐家が語って見せたような、ふざけたことを思いついたというのが真実ではなかろうか。

 「そう」

 桐家はそっけなくそう答えて

 「しかし。なんだか人が殺されそうなんだよね」

 一馬は目を見開いて桐家の方を向いた。桐家はいや、と一馬の方に手のひらを突き出して

 「今日起こったのは先生の車がなくなるなんていう、なんだかぬるい感じのする事件だったろう? ミステリ小説じゃ、こんな退屈な事件はほとんど起こらないんだ。だってそうだろ? どうせ探偵が推理するなら、もっとインパクトのある大事件が良い。密室殺人とか、首切り死体とかさ」

 何が言いたい?

 「もしこれがミステリの世界だったらね。このまま連鎖的に色んな事件が起きて行って、最終的には誰か人が殺される。とびっきりむごたらしい方法でさ。その時に登場するのが真の名探偵だよ。今回の事件は、その為の伏線だったって言う訳だ」

 桐家の言い分に、一馬は溜息を吐きたくなった。しょせんはガキか。頭の上からつま先まで、ミステリ小説に汚染されてしまっている。のめり込み過ぎるというのは、どんなことであれ危険なものだ。


 その日の帰りぎわだった。

 一馬はいつもどおり、職員室前の中庭を通っていた。くまなく観察すれば、ちょうど職員室からは死角になりそうな場所にその痛車はあった。タッチの異なる様々な少女の描かれたそれは、無節操で悪趣味な印象があった。本当にアニメが好きな人間が、こんなペイントの仕方をするようには思えない。

 これが工藤の車だとでもいうのだろうか……? 一馬は考えながら、その車の脇を通り過ぎる。中庭を出て、ちょうど職員室からも死角で人の来ない場所に差し掛かったところ。一馬はふと立ち止まって考えた。仮にあの車が工藤のものだったとする。職員室から死角となる場所に停められた工藤の車。あの死角は、工藤の車に何らかの悪戯をしようと思っている人間には、まさに格好の場所だろう。どうやってそこに車を移動させたのか。

 ……分かった。

 一馬はほくそえんだ。確かにこれは桐家の言うとおり、逆転の発想という奴が必要になることだろう。だが簡単だ。きちんと手がかりと登場人物を整理すれば分かる。あの灰村灯などは、一馬から話を聞いた瞬間に真相を看破したというではないか。

 興奮気味に足を速める。一馬の心はある種の満足感に満ちていた。謎を解くというのは、心地の良いものだ。そう思う一馬の肩を、乱暴に叩くものがあった。

 「よう。君が溺れちゃったバカな木曽川君だよね?」

 同じ一年生の生徒だった。一馬はそいつらの顔も知らない。ぶくぶくと肥え太った顔を醜悪な表情にゆがめ、歪な形をした唇からは、悪臭と共ににひひとかぐへへとか品のない笑いが漏れ出していた。

 そいつの後ろには、目の前のデブとは対照的ながりがりのっぽと、髪を金色に染めたアホ面の少年が構えていた。そいつらの容貌と、デブの第一声から用件はだいたい理解できた。こいつらはわざわざ自分のことをいびりにやって来たのだ。工藤の授業で自らの体力の無さを露呈させたような生徒ならば、いくらいびったところで、碌な反撃はしてこないに違いないと酷く臆病な打算をし、それに加えてわざわざ三人という人数で登場する。そうでもしなければ恐ろしいのだ。

 デブの少年は一馬の胸倉を掴んで言った。

 「なんつーの? あれだよ、俺達ちょっとアレやろうと思ってんの。俺らみたいのがやること? なんだっけ? なんていうんだっけ?」

 「カツアゲだよ」

 後ろでガリガリのっぽが言った。

 「ああ。そうそう。もちろんキョヒケンないから。殴るから。殺すから」

 デブはそう言った自分の言葉がおもしろかったのか、ぎひひと気持ちの悪い笑い声をもらした。やり方がぎこちないのはこれが初めてだからなのだろう。そして慎重なこいつらは、初めての挑戦には確実な対象を選んだ。それが自分なのだ。

 「早くしろよ。財布、持ってんだろ」

 情けない。情けないから、この程度の連中になめられて、こんな状況に陥ってしまうのだ。

 「おい聞こえてんの?」

 そしてこの程度の状況も自分で打破できなければ、それは自分が本当に救いようのない情けない人間だということだ。

 「早くしないと怒っちゃうよ。俺が怒っちゃうんだよ? おまえに」

 ふざけんな。

 「てめぇ。シカトこいてんじゃねぇの? 黙ってりゃ良いと思ってんの? バカなの?」

 どうする?

 「なんだ? ハンコーテキだな」

 考えろ。

 考えろ? 考えてこの情報を打破するのか? 何か知恵を絞って、こいつらを撃退して、何の犠牲を払わずに助かるのか? そういうのを考えるのか? 考えればどうにかなるのか? 

 「あったまきた」

 考える必要なんて、ないだろ。

 一馬はそれに気付いた。当たり前だ。答えなど初めから分かっている。

 「殺してやる」

 デブがそれを口にし終わった時には、一馬はその股座に全力の蹴りを浴びせていた。デブは悶絶した表情で股間を押さえ、目からは涙を流し、ぐええと気味の悪い悲鳴をあげた。完全に戦意を喪失しているのだが、今まで喧嘩などしたことのない一馬に、そんな加減が分かるはずもない。ただ夢中で、くしゃくしゃに涙を流し続ける汚い顔を殴り付けた。

 こうしていないと、自分という存在が廃れて行くような気がした。

 こうしていないと、自分は一人で生きていけないような気がしていた。

 自分を攻撃する者、自分にとって障害になる者は、殴りつけて排除する。敵と戦い、そして勝利し続けることが、自分の力で生き抜くということだ。

 気が付けば一馬の拳は真っ赤に裂けていて、ずきずきとした痛みが走っていた。足元にはデブが転がり、他の二人は彼を置いて逃げ出していた。

つまり自分は勝ったのだ。三人組から、あの状況から。自分の力で。

 生まれて初めての暴力に、一馬は心地の良い疲労感を覚えてその場にへたりこんだ。デブがこちらを見ている。顔の形が変わっていた。一馬が顎をしゃくると、デブは這うようにしてその場を逃げ去っていった。それで良い、あんな奴とこれ以上関わるつもりもない。

 自分はこれからもこんな風にして生きて行く。父にも、母にも頼れない。仲の良い友もいない。仮に誰かと繋がりを持ったとしても、そいつらも結局は自分のことしか考えていないに決まっている。

 「よう木曽川」

 その声は工藤だった。

 「先生?」

 「何があった?」

 「いいえ」

 何がいいえなのかは一馬にも分からなかった。工藤にも分かるはずがない。だが面倒くさかったのだろうか、他に理由があるのか。工藤はそれを追求することもなくこう言った。

 「無理するなよ」

 何を言っているのか分からなかった。

 「先生。車は見付かりましたか?」

 一馬はなるべく話題を逸らそうとした。暴力を振るったことがばれれば、少しは点数に響くことだろうと考えたのだ。

 「見付かった」

 工藤は言った。

「これから向かうところだ」

 「あの痛車ですか?」

 「そうだ」

 工藤は溜息でもつきそうに

 「ふざけた悪戯だ。ナンバープレートまで変えられているから、俺の車とは分からなかった」

 桐家の言うとおりであった。流石はミステリ小説を散々読みふけっているだけのことはある。しかし謎が全て解けた訳ではない。

 「そういう訳だ。それじゃあな」

 と言って、工藤は中庭に向かって行った。一馬も立ち上がる。

 工藤の車は中庭の中でも職員室から死角になるところにあった。はたして、どうやって工藤の車をあの位置に移動させたのか? それについて、一馬の推理はこうだ。

 車を停める場所の目印になっている、二つの大きな植木鉢。この位置ならば、車は職員室からも良く見えるというその安全印を、犯人は死角まで移動させたのだ。そうとは知らず、工藤は植木鉢の隣に車を停めた。ここなら安全だと、勘違いしたのだ。

 それを確認した犯人はほくそえみ、植木鉢を元の場所に戻す。これで工藤は自分の車がどこにいったのか、分からなくなる。そして職員室の死角から、思う存分車を痛車にペイントしたという訳だ。

 なんともくだらない動機で車を消失させたものだ。こんなくだらないことをするのは、よっぽど幼いガキに違いない。犯人は、自分達のようなしょせんは中学生なのだ。

 さて、では犯人は誰だろうか。これは一馬には分からない。あの名探偵は知っているのだろうか。

 どうでも良い。一馬はそう結論して、一人きりの家への帰路を歩いた。

 読了ありがとうございます。

 お楽しみいただけたでしょうか? 書いてみての感想は、解決編の描写の仕方が下手だったかな、というものです。肝心の部分で申し訳ない。これから精進いたします。

 トリック自体はこれでもわたしにとっては完成度の高い方で、それだからこそ第一話に持ってこさせていただきました。作中でも触れていますが、しょせんは車が盗まれる程度の事件。退屈だったところもあるかもしれません。ですがもちろん、これからはもっともっと大変な事件を起こす予定です。

 この主人公は非常にうざったい奴なのですが、作者にとっての『こうありたかった私』でもありまして。どんな偏屈な考え方でも、それに準じようととにかくがんばれば、何か得るものがあると思うのです。

 次回はなんとか二日以内に仕上げようと思います。なるだけコンスタントな投稿をしていこうと思いますので、どうかこれからもお付き合いしていただけたらなと思います。

 小説を発信するのは楽しいです。誰かが自分の文章を読んでくれている様子を想像すると、その場で踊りだしたくなるのです。

 それでは。今この小説を読んでいただいているあなたのことを想像し、最大の感謝をささげながら、今回の投稿とさせていただきます。それでは。

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