1-27 隠されたもの
「魔人…?」
魅入られたように、『魔人』と呼ばれたものを見上げて、ティアは呟いた。
その言葉は、ティアの知識にはないものだ。しかし、ひとつだけ。『魔人』を見た瞬間から、ティアは確信していた。
あれは、傷つけるものだと。あれは、奪い取るものだと。あれは…倒さなければならない、と。そんな、確信が。
ティアは、一歩足を踏み出し……
「退くぞ、ティア」
レヴィンに、止められた。
「何でですか!? あんなの、放っておけないでしょう!? なら、倒さないと…」
「無理だ。少なくとも、今は」
「そんなの、やってみないと解らないでしょう!!」
らしくない、弱気なレヴィンに、何故かティアは苛立つ。その言葉を聴かず、とにかくその『魔人』とやらに立ち向かおうとして…
「ティア」
すぐ後ろから聞こえた、レヴィンの声。ティアは、咄嗟に振り向いて…
ドン…ッ
「か…はっ……」
腹に、鈍い衝撃。
鳩尾に埋まる、レヴィンの拳。
見上げた先には、無駄に美形なレヴィンの、めったにない苦しそうな顔。
うっすら届いた、その声。
「アレは、『あいつら』じゃないんだよ。
…何とかしておけ、『夕凪』の」
そして、ティアの意識は暗転する。
ぐったりと力の抜けたティアを支えて、レヴィンはティアの髪を撫ぜる。
「…ご存知だったんですね、僕のこと」
どこか諦めたような、感情の抜け落ちた声で、セフィは呟いた。
「はぐらかすかと思ったが…意外と往生際は悪くないようだな」
「答えてください。どうして、僕のことをご存知なんですか? 僕は、表に出た覚えはないのですが…」
言うセフィの声には、どこか焦りのようなものが感じられる。レヴィンはティアを抱き上げると、なんでもないことのように言った。
「情報なんて、どこからでも手に入る。特に…お前らみたいなのの情報は、気をつけて集めているからな。とはいえ、お前のような存在がこいつと一緒にいるというのは、予想外だった」
「それは…ティアさんのため、ですか?」
レヴィンは、無言。それが、何よりも雄弁な答えとなった。
「俺からも、一つ問おう。何故、こいつと一緒に行動していた? …こいつが終焉属性だと知っていながら。他ならぬお前が、何故?」
「それ、は……」
セフィは、そのまま押し黙った。レヴィンはそれを見ると、ふと肩をすくめて踵を返す。
「ティアは、目を覚ませば必ずあれに立ち向かう。それまでに…できれば、片を付けろ」
赤々と燃え、天を突くように伸び上がる焔。肌を刺す熱気を背に受けながら、レヴィンはゆっくりと歩き出す。
その背後で、セフィが無言で杖を構えた。




