第1冊 趣味が悪い
初めまして。三日坊主です。
今回の話は短編書庫第1冊目になります。
拙い文でよくわからない所もあるかもしれませんが、暖かい目で見ていただけると嬉しいです。
【恋する男】
「趣味が悪いね」
この言葉は俺の好きな人、美香さんの口癖だ。
その多くが否定的な意味で無く、評価や感嘆そして少しのからかいの意を含む。美香さんにこれを言われていて嫌な顔をする奴は見た事が無い。つまるところ基本的には肯定である。
いつも美香さんはこれを言う時、意地悪に口角を上げて笑う。なんとも可愛らしくて、微笑ましい。俺はそこに初めて惹かれたのだと思う。
期末テストが終わり夏休みも近づく頃、文化祭のクラス会議が行われた。
俺の学校には恋の噂話の一つとして文化祭に飲み物を奢る風習がある。好きな相手に飲み物を渡して恋心を伝えるのだとか。渡す飲み物によって意味が異なり、コーラやサイダーなどの炭酸飲料は「楽しい時を共に」、緑茶などのお茶は「安らぎを与える」とかだった気がする。
噂話の効果はすごく、飲食店や飲食物を中心とする売店を希望するクラスは多い。そして俺のクラスも喫茶店をモチーフとした出展をすることになった。
俺は今年の文化祭で美香さんに飲み物を送ろうと密かに考えていた。そのためシフト表を組む際には美香さんと被らないようにし、計画的なプランを練った。
文化祭の日、俺は目当ての飲食ブースに向かった。持ち帰りできる瓶のコーヒー牛乳を丁寧に包装紙に包んでもらう。それを片手に持ちながら美香さんを探し回った。
美香さんは園芸部と花道部で合同出展だった花を見ていた。あの子は1本30円とバケツに札が掛かった花をウットリと眺め、1本手にとって買った。
俺は屋上から出てきたところを逃さず話しかける。
「おはよ、美香さん。」
「おはよ、高橋君。なんかあった?」
「これ、コーヒー牛乳。俺美香さんのことが好きです。付き合ってください。」
「…」
沈黙が暫く続いたあと、美香さんは天を仰ぐように上を見た。
「趣味が悪いよ…。」
「君が言うなら俺は悪趣味なのかもしれない。」
俺は"彼女"を抱きしめた。
【恋する女】
「高橋君との進展どう?」
「いやそれが全然なんだよねー。」
「好きって言ってた時からアピールしてないの?」
「アピール伝わって無いって感じー。」
高橋くんは私の方に振り向いてくれない。脈無しってやつなのかな。もう無理なのかな。
そう思っていたのは1学期の中間テストの頃。
好きな相手に全くと言っていい程見向きもされずに過ごす毎日。向こうも部活が忙しい時期らしいし恋愛なんてしていられないだろう。私は半分諦めの感情を抱いていた。
そんな日々に転機が訪れる。高橋くんに好きな人が出来たという噂話が流れ始めた。私は疑う余地も無く私だと思っている。何故なら毎日のように一緒に話す仲でこんなにアピールしていて気づかない訳がないのだから。
噂が立ち始めてから高橋くんは身だしなみに気を遣ったり、お昼に私の方をチラチラ見たりしている。これは脈アリというやつだろう。そうだろう。
期待に胸を膨らませた楽しい日々が過ぎていくのは早く、気づけばもう文化祭の季節となっていた。
私は飲み物の噂に頼って今日高橋くんに告白しようと思った。買った飲み物はラテアート。店員さんに頼んで専用の持ち帰りカップに入れて貰った。
ラテアートが崩れないように気をつけながら彼を探していると、スマホから着信音が鳴る。
「恵梨の為に花を買ったんだ!私からプレゼント!告白も私親友として応援してる!今屋上出る所なんだけど会えそう?」
私は親友の言葉を貰って嬉しくなりながら屋上へ向かった。
そこには私を呼び出したはずの親友である美香を抱きしめる高橋君がいた。
「趣味が悪いわ。」
"元"親友の思いやりを急いで受け取ろうと階段を登った時に崩れたラテアートしか私の元には残っていない。
【幸せにしたい女】
「高橋君との進展どう?」
「いやそれが全然なんだよねー。」
「好きって言ってた時からアピールしてないの?」
「アピール伝わって無いって感じー。」
恵梨は高橋くんが好きらしい。なので全力で応援しようと思う。親友の幸せのために。
私は昔から人の手伝いが好きだ。「おせっかい」や「余計」と言われた事もしばしばあったが、それでも助かる人の方が多いし、助ける度に感謝されるのが心地よかった。私は感謝される為に人助けをしていると言っても間違いでは無いのかも知れない。そう思うと自分で自分のことを「悪趣味」だと感じる。
恵梨は自分とは違って努力家だ。たとえその努力が報われなかったとしても、努力を続ける。その姿が私とは対照的でなんとも羨ましかった。親友として誇れる存在だと思う。
「何考えてんの?」
「恵梨のこと。」
「え!なに!やめてよ!恥ずかしいからー。」
「ふふふ。」
私たちがお昼ご飯をこうやって話しながら一緒に食べるのは日課になっていた。
文化祭の前日、恵梨はメールで私に明日高橋くんに告白することを伝えてくれた。恵梨は私より凄い子だからきっとなんでも出来てしまうのだろう。きっと告白も成功する。
「頑張って!」
一言返信を加えて私は寝ることにした。
文化祭当日、親友を応援したいと思った私は花を贈ることにした。
札の掛かったバケツには綺麗なオレンジのアルストロメリア。一目見てこれにしようと思ってしまう存在感を放っている。
1本だけ手に取りそれを包んでもらう。
メールで恵梨を屋上に呼ぼう。花はできるだけ綺麗なうちに渡したい。
「恵梨の為に花を買ったんだ!私からプレゼント!告白も私親友として応援してる!今屋上出るとこなんだけど会えそう?」
恵梨に送られたメールに既読が付き、用も済んだので私は屋上の扉を閉める。
私は屋上を出てすぐに話しかけられた。相手は恵梨だと思っていた。彼女を呼んだから。しかし違かった。
「おはよ、美香さん。」
「おはよ、高橋君。なんかあった?」
「これ、コーヒー牛乳。俺美香さんのことが好きです。付き合ってください。」
「…」
文化祭で飲み物を渡すことの意味を知らないことは無い。私は幸せにしたい。恵梨を。しかし高橋くんは私を好いてしまっている。私は高橋くんも幸せにしたい。皆んなを幸せにしたい。
あぁ。神様はなんで、なんで、
「趣味が悪いよ…。」
「君が言うなら俺は悪趣味なのかもしれない。」
あぁ、悪趣味だ。
「第1冊目 趣味が悪い」を読んでいただきありがとうございます。本作品は3視点で構成されるお話となりました。
今回出てきた飲み物の噂話の種類を下に載せておきます。あくまでも三日坊主の中での構想なので、自由に想像して頂いた物でも構いません。
・コーラ、ソーダ等の炭酸飲料
「楽しい時を共に」
・緑茶、紅茶等のお茶
「安らぎを与える」
・コーヒー牛乳、いちご牛乳等の牛乳飲料
「いつも新鮮な気持ち、新しい挑戦」
・ラテアート等の芸術的飲料
「あなたのための努力」
・スムージー系統
「濃厚な愛を」
などなどとなっています。(あくまでも仮定です)
また投稿があった際はよければ見てください。




