初対面の学園一美少女に「ずっとあなたを探してた」と言われたんだが、彼女は前世から俺を探していたらしい
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髪を短くした空月健太の目の前を、ひらひらと何が通り過ぎた。桜の花びらと分かると、真新しい制服に息苦しさは和らぐ。
花びらを目で追いかけると、その横で黒髪が春風に揺れていた。
長いまつ毛を飾るように煌めくアメシスト色の瞳をした彼女。
(露都詩音さん)
クラスの遠くから眺めていただけの彼女が目の前にいる。
彼女と視線が交差すると、健太の胸は驚いて大きく跳ねる。顔も熱くなった気がした。
目が左右に小さく揺れる健太は口を開けて──。
言葉をかける前に、花の香りだけを残して、彼女は通り過ぎていった。
何も起こらなかった。
ただの日常。
(こんな初日から何か起こるわけがない。あんな可愛い子が俺に興味あるはずがないよな)
胸は冷たい寂しさに支配され、前に出そうとした足先が左右に彷徨う。
彼女を追うように舞っていった桜の花びらに理由をこじつけて、健太は後ろを振り返った。
春の暖かい風が健太の頬を撫でていく。
左から右へ視線を滑らせるが、春の景色が広がっているだけ。
煩かった心臓はとうに静かになっていた。
無意識に期待をした自分自身に肩を落とす。
(当たり前か。いるわけないよな)
そう自分に言い聞かせるけど、足が動かない。健太から小さなため息だけが漏れた。
「健太くん」
いるはずのない彼女の声が横から聞こえた。体を電気が走ったように強張る。
「ろ、露都さん!?」
縺れる足。なんとか耐える。
先程の長い黒髪の彼女はこちらを見て、顔を緩める。
可愛いなんて言葉じゃない。もっと胸の奥を鷲掴みされて⋯⋯目が離せない。
「もし、もう一度、振り返ってくれたら、声をかけようと思っていたの」
「もう一度?」
自分から間抜けな声が出た。
健太の胸にはたくさんの疑問が湧いた。
彼女は自分に言い聞かせるように呟いた。
「だってもう一度チャンスがあるように感じるから」
◇ ◇ ◇
[王女Side]
焦げた匂いが辺りに漂う。
レッドドラゴンの炎が空を赤く染める。
瓦礫と化した城壁に煙が上がっていた。
炎の熱さを頬にひりりと感じる王女。
崩れかけた王宮のベランダでドレスの煤など誰も気に留めることはない。
ただ一人を除いて。
目の前には大切な護衛騎士─自分をずっと守り続けてくれた。
そのせいか、彼の鎧には焦げた跡や歪みがいくつもついている。
彼の群青の瞳は自分の蜂蜜色の瞳に必死に訴える。
「シャーロット王女、地下の秘密の通路からお逃げください。ここで私が時間稼ぎをいたします」
周りの破壊の振動が、身体の奥に何度もずしんと伝わる。
先程から城壁と城を壊している魔物たちとその威嚇の声がビリッと空気を揺らす。
地面を揺らす足音に翼の音──。
大きな唸る声に、王女は震え上がる。
王宮の入口にある鋼製閂に向かって、振り下ろされるこん棒。
ゴラムは重たい金属製のこん棒を何度もそれに叩きつけている。ぶつかる音は濁音に変わる。扉がひしゃげている様子から、長くは持たないだろうと容易に想像できる。
シャーロットは力を込めて首を横に振る。
それなのに手も唇も震えてしまう。
「ケイン、最後くらい自分の意思を通します⋯⋯」
シャーロットはケインを見るたびに胸が熱くなる。いつからか感じていた特別な感情。
(最後くらい、少しでも長くあなたの瞳に映っていたい⋯⋯)
シャーロットは熱のこもった瞳をケインに向ける。それを跳ね返すように、ケインは首を横に振った。痛い。胸を引き裂かれたような気分。
(あぁ、私の気持ちが少しでも伝わったらいいなんて気持ちは思い過ごしだったのね。所詮、私とケインは王女と護衛騎士。彼にとっては職務なのね)
胸の痛みに反応し目の奥が熱くなる。瞳を強く閉じて、こみ上げる涙をおさえる。
「最後くらい役目を果たさせてください。私は護衛騎士です。何よりもあなたが大事なのです」
「えぇ、お父様から命令されて誓っていますものね」
騎士というのは、命を張ってでも守る“騎士の誓い”を行う。
“死んでも守れ”は騎士の尊厳だ。
ケインは、そっと、ため息をついた。
(なぜ、いつも感情を閉じ、任務を優先してきたあなたがため息をついているの⋯⋯? まるで私と身分関係なく接してくれているようで⋯⋯)
真っ直ぐすぎるケインの視線。
シャーロットの胸は射止められたかのように、苦しくなる。呼吸もできない。
(こんな熱い視線、勘違いをしてしまいそうだわ⋯⋯)
「愛する人には一秒でも長く生きてほしい」
アイスルヒト⋯⋯。
頭が追いつかない。
まるで外国語を聞いたように、脳が聞き慣れない言葉の意味を探す。
(私を愛していると、ケインが言っているの? そんなわけないわよね⋯⋯?)
「本当に⋯⋯?」
「もちろんです。出会ったときから、ずっと愛しています」
シャーロットの心臓が強く跳ねた。
その反動で息をのむ。
脳裏には、次々と情景が浮かび上がる。
幼きケインとの初めての出会い。
ぎこちない挨拶。
合わない息。
シャーロットを不機嫌にさせるケイン。
いつも変わらない硬い表情。
稽古で怪我ばかりのケイン。
シャーロットの下手すぎる手当て。
初めて二人で笑い合った。
王族教育に涙を滲ませるシャーロット。
励まそうと、マナーの本を持ってくるケイン。
『そうじゃないの!』と怒りながらも、心が軽くなるシャーロット。
それはもうただの護衛騎士ではなかった。
想いは伝えられなかった。
シャーロットは王女だから。
二人は結ばれることはないから。
いつも心を焦がしていた。
手を伸ばせばすぐに触れられる距離。
でも、そうしなかった。
「私もケインを愛しているわ」
考えるより先に口が動いた。
頭で考えるよりも先にシャーロットの身体が動く。
シャーロットはケインの胸に身をそっと預けた。頬に当たる鎧は硬かったが、彼の優しさを感じるには十分だった。シャーロットは彼の腕の中で幸せを噛み締めていた。
(ずっと、ずっとこうしたかった⋯⋯)
背伸びをして少しでもケインの顔に近づく。
「シャーロット」
「ケイン」
二人の名前が重なる。
そして──。
二人の唇が重なる、半拍前、
レッドドラゴンの灼熱の炎が二人を包んだ。
◇ ◇ ◇
(空月健太Side)
詩音の瞳は透き通っている。
健太の心臓がうるさく鳴り続けている。
息苦しさに呼吸さえも忘れていたことに気付いた。
『懐かしい笑顔』
(なぜ、そんな言葉が浮かんだのだろう⋯⋯?)
心に浮かんだ信じがたい言葉に、顔をしかめて、記憶を辿る。
「どうかしたの?」
健太の行動に首を傾げる詩音。
「いえっ⋯⋯その⋯⋯どこかで会ったこと、ありますか?」
彼女の唇が震えている。そして目が潤む。
今にも泣きそうなのに、口元だけで微笑んだ。
その時、健太の肺が軋んだ。
身体が変な熱を持ち始める。
「⋯⋯たぶん、どこかで⋯⋯」
彼女の声は掠れていた。
分からないのに、健太は温かい気持ちに包まれる。
(どこかで⋯⋯すごく懐かしい⋯⋯いつのことだろう)
健太はもう一度思い出そうとする。
彼女の顔を見ながら⋯⋯。
黒く長い髪、大きな黒い瞳に長いまつ毛の彼女の姿。
ツキン、と肺に何か刺さったように感じた。
彼女の口元が動いた気がした。
健太も自然と真似をする。
「ケイン⋯⋯?」
初めてのはずなのに、耳に妙に馴染んだ名前。
彼女の目は大きく開いた。
まとわりつく春の風は息苦しくさせる。
胸がざわつく。
(そうだ! あれは⋯⋯)
「蜂蜜色の瞳⋯⋯!?」
そう呟くと同時に、走馬灯のように、見慣れない景色が脳裏を埋め尽くす。
西洋の石造りの城壁に、お城。
たくさんの従者に囲まれた“誰か”。
人だかりに近づく。
彼らは左右に引いて道を作ってくれる。
その奥にはひとりの人物。
歴史の教科書で見るような豪華なドレス。
至宝の彫刻が動いているようだ。
きめ細やかな陶器肌。
金糸が螺旋を作るようなウェーブした髪。
そして──。
「シャーロットさま」
自分が分かったと感じる前に、口から答えが出ていた。記憶が遅れてやってくる。
その言葉を聞いた彼女の目に涙が溢れそうになっている。
常に自分の横にいた人物こそ、シャーロットという名の王女だった。その姿を目の前の彼女に重ねる。
「ケイン⋯⋯」
目の前の彼女は肩を震わせる。
目から次々と涙が溢れ落ちた。
「あなたにようやく会えたのね⋯⋯」
数多の時を超えた彼女は、姿こそ違えど、シャーロットだった。
止める理由はなかった。
かつての身分はもうない。
華奢な肩を優しく抱く。
「ずっと胸に秘めていた気持ちがあります」
彼女の顔をそっと覗く。
可愛らしい濡れた瞳が真っ直ぐ向いてくる。
恋焦がれた。
自分が自分じゃないような気がした。
それはかつてのケインが蘇ったのだろうか。
それとも──。
「もう一度会えたら、もう離さない」
優しく、そして情熱的に二人は唇を重ねた。
お読みいただきありがとうございました!
今回の作品は現実恋愛を考えながら作り始めました。
前世があまりにもファンタジーになってしまいましたので、異世界恋愛としました。
稚拙な文章ですが、春の心地よい風、暖かな陽気、それに呼応するような二人を楽しんていだけたらいいなと書きました。
いつものことになりますが、誤字脱字がありましたら、ぜひご連絡ください!




