ツバメさん、またね
森の奥には大きな湖がありました。
その湖は水がとてもきれいで、湖の底までよく見えます。お日さまが顔を出すと、きらきら光って宝石みたいに輝く、すてきな湖でした。
「今日はお花見に行こうかな」
たぬきさんはお花見をしに大きな湖にやってきました。桜が満開になると、湖に桜が映ってとってもきれいなのです。
「ああ、ちょっと喉が乾いたな」
たぬきさんが湖の水を飲もうとしたら、足がつるっとすべって、すってんころりん!
湖に落っこちてしまいました。
たぬきさんは慌てて、バシャバシャと手足を動かしました。口の中にたくさんの水が入ってきて、もうダメだ……と思った時。
「たぬきさん、足がつくはずだよ!」
「――本当だ……助かったよ」
サッと飛んできたツバメさん︎が大きな声で教えてくれました。
たぬきさんは立ち上がると、ツバメさんと顔を見合わせて、あははと笑いました。
「助けてくれて、ありがとう」
「無事でよかったよ」
「ツバメさん、お礼にお団子はいかが?」
「いいのかい?」
「もちろんだよ。今日はお花見に来たんだ」
こうして、たぬきさんとツバメさんは友達になりました。
「ツバメさんは、引っ越してきたばかりなんだね!」
「うん、そうなんだ」
ツバメさんは森に引っ越してきたばかりでした。
たぬきさんは、新しいお友達が来たことを知って、お花見のあとに森の中を案内してあげました。
それからも、たぬきさんとツバメさんは時間があえば会うようになりました。
つつじが咲く頃になると、いっしょに花の蜜を味わいました。青いネモフィラが咲いたときには、いっしょに海みたいな花畑でお昼寝をしましたよ。
夏になりました。
たぬきさんとツバメさんはいつも待ち合わせをして遊びます。
「かき氷を食べるのは初めてなんだ」
「親戚のたぬきが送ってくれたんだよ」
「冷たくて美味しいね……!」
雪国に住む親戚のたぬきさんが、氷を送ってくれました。たぬきさんはツバメさんを誘って、いっしょにかき氷を作って食べました。
かき氷にたっぷりかけた蜜は、たぬきさんとツバメさんで集めたたんぽぽの花で作った金色に輝く花の蜜ですよ。
ひまわりがきれいに咲いた日も、たぬきさんとツバメさんはいっしょに見に行きました。
「とってもきれいだね」
「うん! お日さまみたいだ!」
たぬきさんは、明るい黄色のひまわりを眺めながら、ふと思いついたように言いました。
「ねえ、秋になったら、一緒に焼き芋をしようよ!」
たぬきさんはいつものようにツバメさんと楽しい約束をしようとしました。
ところが――
「ぼく……秋になったらここを出ていくんだ……」
「ええっ? どうして?」
「ぼくたちツバメは、寒いところで暮らせないんだ」
「一緒にいればあたたかいよ! 秋も冬もツバメさんといっしょにすることを考えていたのに……」
「ごめんね」
申し訳なさそうにするツバメさんに、たぬきさんはプイッと横を向きました。
「ツバメさんなんて知らない! もういいよ!」
たぬきさんは、走って家に帰りました。
それから数日、たぬきさんは湖のほとりでぼんやりしていました。
「なんであんなこと言っちゃったんだろう……」
ツバメさんのいない毎日は、なんだかちっとも楽しくありません。
たぬきさんはツバメさんに謝ろうと思いました。
庭に咲きはじめたコスモスを摘むとツバメさんの家に向かいました。
「ツバメさん、ごめんね……ぼく、びっくりしてひどいことを言っちゃった……」
「ううん、ぼくもたぬきさんと秋も冬も遊べたらよかった……」
たぬきさんとツバメさんは、涙をぽろぽろこぼして泣きました。
「でもね、たぬきさん――秋と冬はいないけど、また春になったら戻ってくるよ」
「ええ!? 本当に本当なのかい?」
「ああ! だから、また春になったら遊んでくれる?」
「もちろんさ」
仲直りしたたぬきさんとツバメさんは、たくさん遊んで、たくさんお話しました。
緑色の葉っぱに黄色が一枚混ざった日、ツバメさんは旅立つことになりました。
「ツバメさん、元気でね」
「たぬきさんこそ、もう湖に落っこちないでね」
「わかってるよ――またね」
「うん! たぬきさん、またね!」
ツバメさんはぴゅーっと飛び立ちました。
たぬきさんは手を振ります。
寂しくないなんて、うそです。でも、たぬきさんは涙がこぼれそうな瞳を閉じて、来年の春のことを思い浮かべました。
桜がまた咲いて、湖がきらきら光る日。ツバメさんが飛んでくる日を思いました――
「ツバメさん、またね! また一緒に遊ぼうね!」
ツバメさんがすっかり見えなくなっても、たぬきさんはまだ手を振っていました。
また来年、ツバメさんが帰ってくるのを楽しみに、たぬきさんはそっと笑いました――
おしまい ⁺.
読んでいただき、ありがとうございました。
ひだまり童話館さまが、「休館」になることになりました。
タマ館長、鈴木副館長、霜月事務局長、11年間本当にお疲れさまでした。
私は第22回企画「もこもこな話」から参加させていただきました。
ひだまり童話館さまに参加したことをきっかけに、挿絵を描きはじめ、絵本を描くようになりました。
賞をいただいた作品や、岐阜県大垣市図書館に電子絵本としてピックアップしていただいた作品は、どれもひだまり童話館さまのお題をきっかけに生まれたものばかりです。
ひだまり童話館さまは、私が童話を書きはじめたきっかけであり、私の大切なミューズでした。
休館になってしまうことは、本当に本当に寂しいです。
でも、きっとまたいつか、タマ館長がふらりと開館してくださると信じています。
さよならは言いません。
またねと言わせてください。
11年間、本当にお疲れさまでした。
またね!
















