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ようやくここでの生活に慣れてきた気がする。そう思えたのは、今だ。
大体平日の朝はお客さんが少ないとか、学校がない時間にお客さんが多いとか、そういうことが分かってきたから。
「こんにちは。三緒さん」
金曜日の夕方、学校の授業が終わってから少し経った頃に、いつも現れるイケメンこと海都さん。図書館を準備しているときから来てくれたほどの、常連さんだ。
ここ瑠璃島に通う子は同じ名字が多いので名前で呼ぶのがいいとか学校に関することを教えてくれる、優しい子でもある。
「こんにちは」
「クリスマスっぽいですね」
カウンターの上にあるツリーを手で触る海都さん。
「12月といえばクリスマスなので飾ってみました。元々ありましたし」
「そうですね。クリスマスっぽいです」
ツリーからさっと手を離す海都さん。そのままパソコンのあるコーナーへと向かう。
「こんにちは。三緒さん」
図書館に入ってすぐカウンターへ来て、私の手をぎゅっと握る雀さん。三つ編みで真面目っぽい見た面のに、なぜか雀さんは私の手をにぎってくる。この理由はよく分からない。
「こんにちは、雀さん」
「じゃあ今日も仕事をがんばってください」
雀さんは新聞を読み始める。雀さんは新聞が好きで、よく読んでいる。
海都さんと雀さんの2人が図書館の常連みたいな感じ、ほぼ毎日来ている。その2人に加えて、歌歩さんもよく来る。歌歩さんは歌い手グループの歌を森で歌っていることが多いのもあってか、海都さんと雀さんの2人ほどは来ない。
「こんにちは。三緒さん」
瑠璃色の髪をハーフアップにしているのが目立つ、瑠璃さんもやってきた。
瑠璃さんは海都さん雀さん歌歩さんほどじゃないけど、よく図書館へやってくる。だからこの子も常連みたいな感じかな。
「こんにちは。瑠璃さん」
「クリスマスの飾りがあるんですね」
カウンターの上にあるクリスマスツリーのことが気になっている瑠璃さん。
「もうすぐクリスマスですからね、クリスマスっぽい飾りにしました」
「クリスマスっぽい飾りですが・・・・・・。ところで不気味な感じがするうさぎみたいなぬいぐるみはないんですね」
瑠璃さんが何かを探している。不気味なうさぎのぬいぐるみって何?
「図書館にぬいぐるみはないですよ」
「じゃあこれからです。この図書館に飾ってあったぬいぐるみが盗まれるんです」
若干自慢げに、瑠璃さんが話す。
「今存在しないぬいぐるみが盗まれるって、どうやって分かるのですか?」
今ぬいぐるみがあるのなら、推測ができるかもしれない。
例えば瑠璃さんの知り合いや友達がぬいぐるみ好きなので、図書館にある物を盗むかもしれないとか。
でもそうじゃない。今存在しないぬいぐるみのことを、どうやって推測するの?
「私には分かるのです。このままだとこの図書館にあるぬいぐるみが盗まれることになります」
なぜか瑠璃さんは自信満々なのだ。
「瑠璃さんの言うことだから、多分何もしなければ起きると思いますよ。まあぬいぐるみが飾られなければ、起きないかもしれませんが」
海都さんは瑠璃さんの言うことを、信じるらしい。
「盗まれるぬいぐるみってどんなのですか? ぬいぐるみは多分いろいろありますので、ぬいぐるみの種類によって違う結果になると思います」
100均にありそうな安いぬいぐるみから、有名なキャラクターのぬいぐるみまでいろいろある。
そしてこの島でもぬいぐるみは売っているはず。そこで盗むよりも買った方が早いんじゃないかな? それにほら盗むのって、犯罪だし。
「うーん人の顔をして、うさぎの着ぐるみをかぶっているかのようなぬいぐるみです」
少し考えて、瑠璃さんは答える。
「それって島で見たことはありますか?」
「見たことはありません。もしかしたら島で手に入れられないぬいぐるみかもしれません」
うさぎの着ぐるみをかぶっているようなぬいぐるみ。
それは島の外、っていうよりも外の世界で人気なぬいぐるみかもしれない。
「それって流行語大賞の候補に選ばれた子ですか?」
海都さんがパソコンの画面を見せる。確かにこういうぬいぐるみ見たことがあるわ、島の外で。
「そうです。この感じのぬいぐるみが盗まれます」
瑠璃さんはにっこにこの笑顔で話す。
これって外国製のぬいぐるみだ。となれば市場で売っているのかな?
となればこの島で学校の生徒が正規の手段で手に入れるのが難しくて、このぬいぐるみが図書館にあれば盗まれる可能性は高い。
「瑠璃先輩の言うことは本当です。このぬいぐるみ、図書館に置いたら駄目ですよ」
雀さんも瑠璃さんのことを信じているらしい。
「いや別に私はこのぬいぐるみ好きじゃないので、買わないです。図書館に置くこともないですよ」
このぬいぐるみを私は買いたいとは思わない。
たくさんのかわいいキャラクターがいるのだもの、そっちのぬいぐるみがほしい。
「そうですね。他のぬいぐるみよりもかわいくないです。でもこんな感じのぬいぐるみがこの図書館で盗まれるんです」
瑠璃さんは自信を崩さない。
というよりも自分の考えが間違っていないと、瑠璃さんは確信しているみたい。
「まあまあ未来は変わるもんですよ、過去とは違って。だからこのことを三緒さんが知って、未来が変わることもありますよ」
海都さんが落ち着いて語る。
まあ私はこのぬいぐるみ、図書館に飾ろうとは思わなくなったから、このことが起きるわけないかもしれない。
いやそもそも図書館にぬいぐるみが置かれること、そのぬいぐるみが盗まれること、誰にも分かるわけないからね。




