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市場と言えば、お店がたくさんある場所をイメージする。
少なくとも市場は人が多い、商業色の多い場所だと私は思う。そこで向さんが紹介してくれた市場も、そんな感じだと想像していた。
「森の中で市場があるんですね、想定外でした」
港、港近くにある必要なもののととのっている場所、そして待雪草町。そういったところは地方都市にあるような、のどかに見えても都会的な場所だった。
そんな都会の市場が、森にあるのが意外だった。
「おおっぴらにしたら駄目だからさ。ここなら月と火の午前中にこっそりやっていたら、とがめられない」
向さんがうきうきと語る。
遊歩道や登山用の道や、それがあるほど整備された森じゃない。どこを歩けばいいのか迷うほど草が生えていて、木の葉が生い茂っているから少し薄暗い。
こんな道がなさそうな自然の森で市場。くまが出てきそうなほど、自然に支配されてそうな場所なのに。
「そりゃあこんな場所には近づきづらいから、ばれにくいかもしれません。でもここで扱っているのは法に反してそうなものって感じがします」
法に反していない物なら、ここで取引しなくていいはず。
土日にフリーマーケットが行われているのだから、ここよりもそっちで売れば良い。フリーマーケットの方が売りやすいはずなのに。
「この島は学校が支配しているから、学校にとって駄目なのは駄目。そんなの嫌じゃん。だから学校に隠れて、ここで取引をしているの」
慣れたように草を踏みながら、向さんは歩き続ける。
よく見たらところどころ人の歩いたあとを見つけた。そのあとは草が踏み潰されたような形をしている、そこを選んだ方が歩きやすいか。
「ここだよ」
今までよりも薄暗さがましになり、ビニールシートの上に商品を乗せた人があちこちでいる。
雨が降ったら商品が駄目になりそうなほど、雨対策はされていない。
「ほかと違って、KPOPが流れてるんだよ」
向さんの言葉で、ふと我に返った。
森に入って少しの間は、大きな音がなかった。でも今はガンガンにならされたはやりの音楽っぽいのが聞こえる。
「この環境が好きなんだ、この島で」
向さんはにこにこと笑う。
長いとき、私は人と関わるのを避けてきた。そういうこともあって、私ははやりの歌が好きってわけじゃない。
そんなわけで今ここで流れている曲に、私は正直言ってうんざりしている。
「KPOPのCDも売っているしこれは今はやりのうさぎの人形。めずらし、食べ物もある」
向さんははしゃいで、楽しそうだ。草ぼうぼうで足場の悪い場所をすいすい歩いている。
「でもなんで学校ではKPOPが駄目なんでしょうね」
アイドル系歌い手のエッセイやかわいい系アイドルの写真集が図書館にあったから、アイドルなどの文化が駄目ってわけでもない。
だとしたらなんでKPOPは駄目なんだ? 未だに理由がよく分からない。
「分からないよ。基本的に外国のものはだめらしい。だからKPOPは全部駄目で、KPOPテイストのJPOPもあんまり売れない感じ。私CDショップで働いているけどさ、お店じゃあKPOPが売れないから、ここに来るのが唯一の楽しみ」
「そうなんですね」
今まで生きてきた中で、KPOPが好きな人とは仲良くなれたことがない気がする。記憶がぼんやりだから、断言はできないけど。
とはいえこんなにKPOPがガンガンになっているし、よく分からない物も売っているし。なかなかなじめない。
「平日の朝にするっていうのも、間違っても学校の生徒が来れない時間だからですか?」
「そうそう。学校のある時間にここでこっそりするのが黙認されているんだ。本当はフリーマーケットをしている場所でやりたいけど、それじゃあ目立ちすぎるから無理」
こんな道がないような森ですることに対して、向さんはよくは思っていないみたいだ。真面目な顔で、森の木を見る。
「そもそも世界ではやっているKPOPを子供に聞かせないのは問題だよ。ここの子供達はKPOPを聞かずに青春を過ごすなんてもったいなすぎる・・・・・・」
向さんは相当KPOPがすきならしく、熱く語る。
私は別にKPOPを聞かなくても青春を過ごせると思う。別にKPOPだけがすぐれた音楽ってわけじゃないし。
「実は用事がありますので、帰ります」
といって私は市場から出る。草木をかきわけながら、帰宅する。
多分市場へ行くことはもう2度とないかもしれない。いや別に2度と行きたくなるような場所ではなかった。KPOP以外にも島で禁止されている物を見ることによって、この島のことが理解できるかもしれない。そこを考えると、毎週は無理だけど、たまには行ってみようかな。
私が欲しいものが市場にあるとは、思えないけど。
「うわっ、靴が汚れている」
家について玄関で驚いた。靴に泥がついているし、草も少しついている。
市場から家までの間1㎞くらい歩いた気がする。それでも靴の汚れが取れなかったみたい。それほど市場は過酷な自然の中で行われていたんだろう。
そこで靴を洗って、ゆったりとした普段着に着替えて、ベッドに寝転ぶ。
「疲れたな」
久しぶりに聞いたかもしれない、KPOP。ぼんやりとしか思い出せないのだけど、KPOPを避けて私は生きてきたのかもしれない。
だからスマートフォンを取り出して、動画サイトを見る。そして適当にMVを押す。
これは記憶にもある音楽。だから聞いていて安心する。
やっぱり歌い手グループの曲は良いな、なんちゃって。ボカロやVTuberさんの曲も聴くことが多いけど、一番好きなのは歌い手グループの曲だ。
なんで好きかも思い出せないけど、昔から好きなんだ。




