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【テーマ3】ホラー

「さて、推理、女の子ときたところで、最後に決めるべきテーマはジャンルだ」

「先生、ジャンルは先程『推理』と決めたんじゃないんですか?」

 アシスタントは作家の言葉に容赦なく指摘した。

「『推理』に加えて、何のジャンルと合わせようかと思ったんだよ。世の中の小説のジャンルは単一なものだけじゃない。例えば、学生の恋愛小説だったら、『学園』と『恋愛』みたいにジャンルが合わさってるものもあるんだよ」

 アシスタントは押し黙った。作家は続けた。

「作家のアシスタントをやってるのに、まさか、そんなことも分からないで、今みたいな指摘をしたわけじゃないよね? そんなんだったら、君はアシスタント失格だよ」

作家にとって、その突っ込みは既に想定の範囲内だった。よって、いとも容易に反撃した。

「……申し訳ありませんでした。先生にそのようなお考えがあったとは思っていませんでした」

 アシスタントは素直に謝罪した。

「分かればいいんだが、君は僕のアシスタントでありながら、僕のことを全く信頼してないわけじゃないよね?」

「それはありません。確かに先生はミステリアスで、私も半信半疑な思いで先生と仕事をしてきましたが、決して信頼していないわけではないです」

 アシスタントは自分の胸の内を述べた。それを聞いた作家は、不快に思って顔を歪ませた。

「どういう意味なんだ?」

「これ以上、言うことは何もありません」

 作家の追及に、素直に対応するアシスタント。その様子からは、これ以上、何も知らない。どうにでもなれ、という雰囲気が作家には見て取れた。

「……まあ、そんなことはさておき、推理に加えて、何か僕が書けそうなジャンルは無いかな?」

 作家は話を本題に戻した。

「そ、それは、分かりません……」

 会話の流れが一変して、アシスタントは戸惑いつつも即座に答えた。

「それはつまり、君は僕のことを勉強していない証拠じゃないか。君から見て、僕は何の話が書けそうなんだ? それを客観的(あくまで作家向け)に答えて欲しいんだよ」

 何? 何なの、この人……。アシスタントは、当惑の面持ちを隠せなかった。口には出さないものの、作家の問いが、まさに意味不明だという反応を表情で示した。

「まあ、分かってないなら仕方ないな。じゃあ、こうしよう。今から簡単な質問をするから、それに一つ一つ答えてもらおう」

 作家の言葉に、アシスタントは少し思い悩んだ。どんな質問が来るのか不安に感じつつも、アシスタントは心構えをした後で、「分かりました」と返した。

「では、第一問目。僕がよく見る映画のジャンルは何だ?」

「映画のジャンルですか? そうですね……先生はよく怪奇ものとか、ホラーものとか見てますね」

「それは分かるじゃないか。流石、我が身の側近は違うね。有名作家の私生活を覗けるからね」

「先生が無理やり私に、私には苦手なホラー映画を見せたりしたから、そんな趣味なんて言うまでもなく分かりますよ。というか、先生は今になって漸く名前が売れ始めたんですよね?」

「そうだよ。だから何?」

「あまり調子に乗らない方がいいですよ?」

 アシスタントは再度ストレートに指摘した。

「そうかも知れない。続いて第二問目。僕はホラー映画のファンだと思うか?」

「ホラー映画のファンと言えば、そうかも知れませんね。先生は、よく私に、興味もないようなホラー映画の名前、ストーリー、トリックを話してくるじゃないですか。だから、かなりのファンかと思います」

「正解、よく知ってるね。君は興味も無さそうに、僕の話にただ相槌を打ってるだけなのに、研究成果は素晴らしい」

「私、ホラー映画は苦手だし興味ないんで」

 アシスタントははっきりと言った。その発言に、作家は馬鹿にされたような不快感を覚えながらも話を続けた。

「では、最後の問題。君は僕にホラー小説を書く価値があると思うか?」

 最後の質問は、簡単なようで至難に感じた。今後、作家が書く作品のジャンルを決めることになるからだ。

「……」

 アシスタントは、意を決して回答した。

「先生にはホラー小説を書く価値があると思います」

「……」

 作家は暫く無言になった。そして、

「やはり君は、僕のことを分かっていたんだ」

 作家は満面の笑顔でアシスタントに言った。アシスタントの作家に対する理解度を正確に把握できて嬉しく感じたのだ。

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