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【テーマ2】女の子

「さて、次のテーマは登場人物を決めることだ。登場人物は物語を構成するのに、最早『味噌汁の出汁』と言っても過言じゃない。さあ、君も何か考えてくれ?」

「分かりづらい喩えですね。要は『登場人物は大事だ』と言いたいだけでしょ? ……うーん、そうですねぇ……。性別とか身分とかあるし」

「性別は男と女、どっちがいいと思う?」

 作家はアシスタントに、大穴の空いた質疑を唐突に投げかけた。それを聞いたアシスタントも、即座に困惑する。

「それは、主人公に関してですか? それとも脇役や敵役に関してですか?」

「まあ、全体的に。主人公も脇役も敵役も、みんな」

「何人もいる登場人物を全て同じ性別に統一してしまうんですか? それは登場人物同士の関係や物語の構成にも、何だか味気ない気が……」

「それはやり過ぎか。でも、ぶっちゃけ『男』か『女』かは、物語を大きく左右する、登場人物のデータになると思うよ」

「作風を『男色』にするか、『女色』にするか、ということでしょうか? 確かにその点では、性別は大事ですね。でも、登場人物を全員、同じ性別にするのはどうかと思います」

 アシスタントはズバリと言い切った。そのことを考慮した作家は、こう返した。

「それも全て、僕が決めることだ。君がしていいのは、あくまで『提案』だけで、決して作家を『縛る』ことではない。アシスタントは、あくまでもアシスタントだ。その立場を踏み越えるなんて、言語道断だよ」

 作家はアシスタントを真っ直ぐ見て言った。その圧力に、アシスタントは耐え切れるのか耐え切れないのか分からないような面持ちを見せた。

「では、改めて訊く。今作において、君は男と女、どちらの登場人物の性別がいいと思う?」

 作家はアシスタントを真っ直ぐ見続けながら訊ねた。アシスタントも、作家を真っ直ぐ見返して、答えた。

「女がいいと思います」

「どうして?」

 理由まで訊かれた。だが、アシスタントは怯まず説明した。

「先生はこれまで、女性が主人公の作品を書いてきたでしょう。それも、主人公は十代後半から二十代前半まで――いかにも先生が好きそうな人物像ですね」

「どうして好きそうだと言えるんだ?」

 そこまで訊いてくるとは思わなかったが、アシスタントはありのままに答えた。

「先生のスマホから、若い女性の友人・知人やファンとの通話履歴や、LINEのやり取りから、明らかにそうだと分析したんです。先生は生粋の『女好き』だと」

「成る程ね、僕のスマホを勝手に見るとは……ロックは掛けておいたんだが、解除してまで見るとは……」

「先生のスマホのパスコードは分かり易いんですよ。思い当たる物から適当に打って行ったんですが、まさか『ご自分の誕生日』をパスコードにしてるとは思いませんでした」

「それで一発で当たったと」

「はい、一発で当たりました」

 驚く作家に、アシスタントは得意げに話した。

「成る程、理解した。つまり、君は『やってはいけないことをやってしまった』と」

「先生のスマホを見るのもアシスタントの仕事の一つですから、毎日こっそり見てます」

「ふざけるな。そんなのは仕事も何もない。罰として、今月から給料一〇パーセントカットな」

「それはパワハラですよ」

「自分が蒔いた種なのに何言ってるんだ」

「それはそうですけど、スマホ見たことが減給に見合うんですか? そもそも就業規則に減給のこと書いてありました?」

「権利の主張だけは上手いんだな。ただ、減給のことは就業規則には明記してる筈だ」

 権利と義務の戦いが繰り広げられた。勝者はどちらか……。

「パスコード変えておくから、もう見るなよ。それで終わりだ」

「はい、もう見ません」

 勝ち誇ったよう言い切るアシスタント。その表情と口調に、信頼性の有無は分からなかった。

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