【テーマ1】推理
「先生は推理小説を書いたら如何ですか?」
「推理小説か……」
アシスタントの提案に、作家は「うーん」と言わんばかりの反応を示した。
「先生はこれまで推理小説を何作か書いてきました。そして、実際に売れているのは推理小説でしょう?」
「確かに僕の推理小説は、予想以上の人気を見せている。他のジャンルは売れなすぎて絶版になったが、推理系に限っては、なぜか上手く行くみたいだ。実際、僕の推理小説に関するファンレターが何通か来たしね」
「それほど、先生の推理系のお話は面白い、ということですよね? それ以外の作品はゴミ同然ですけど、推理系に限って光り輝いているんです。ならば一層、次の作品も、その得意分野を活かして執筆されては如何でしょうか?」
アシスタントは目を輝かせて提案し終えた。しかし、その言葉の内容に作家はしっくりこない。
「褒めてるのかディスってるのか分かりにくいけど、確かにそれは悪くないね。よし、それで行くか」
これで一つ目のテーマとして、大まかなジャンルが決まった。たが、これだけでは物足りない。それに作家には、いまいち腑に落ちない部分もあった。
「どうして私の作品は、推理系に限って売れているのかな?」
その質疑を、アシスタントに向けて発した。アシスタントは、「なんで私か答えなければいけないの?」と言わんばかりの面持ちで答えた。
「先生の作品には、どれも共通することなのですが、冒頭部分に必ず死体が現れているんです。これはズバリ、『最初に死体を転がせ』という推理小説の鉄則を遵守しているんです。それで読者を機械的に引き付けてるのかと」
「成る程ね。でも、そんな手法は、僕の作品に限ったことじゃない。他の作家だって大概やってることだ。そういう手法を使っても売れない作品が、この世に何冊あると思う? 累計すると、その本だけで日本の国土は埋まっちゃうよ?」
「過言なのか、過言じゃないのか分からない喩えですね。それでも、先生の作品が売れ行きを伸ばしているのは、先生にしか無い何かが作品に表れているのではないしょうか?」
「僕にしか無い何かって、具体的に何?」
「分かりません。そもそも、先生自身はご存知ないんですか? 何作も小説を書き上げてきたのに……」
アシスタントは謎だと言わんばかりの反応を示した。それに対して、作家は自信を持ってこう言った。
「知らない」
アシスタントも、これ以上は何も言わなかった。暫くの沈黙が流れたまま、この話は終止した。