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狭間-紅 一人で歩いた山道

 鳥居を見つめていると、段々と潮が引いていって、参道の石畳が姿を現し始める。

 ……そこでなんとなく、この風景の"終わり"を感じた。まるで、舞台の幕が下りるように。


 また、風景が変わった。


 冷たくなった風が、木の葉を揺らして向こうの方へ駆け抜けていく。

 今度の景色は、紅葉が美しい山だった。おそらく、登山道だろう。燃えるような赤や、鮮やかな黄色の葉が、秋の陽射しに照らされて宝石のように輝いている。


 ヒラヒラと舞い落ちてきた一枚のもみじを、そっと手のひらで受け止める。

 その瞬間、私は力なく笑った。


「みんながお母さんやお父さんと家族旅行に行ってるのに、私だけ行けなくて……ここにも、一人で来たんだよね」


 あれは確か、十一歳の秋だった。

 母を亡くして、父は完全に壊れてしまった。家にいても酒の匂いと重い沈黙しかなくて、そんな現実から逃げ出したくなって、初めて一人で電車に乗って来た場所。


 でも、結局この場所を楽しむことはできなかった。

 周りには家族連れの楽しそうな声が響いていて、それが余計に自分の孤独を際立たせた。お父さんに肩車してもらっている子供、お母さんと手を繋いで歩いている女の子——みんな、私が失ったものを当たり前に持っていた。


「……こんなに綺麗なのに。あんなに、いろいろな場所に連れて行ってもらって、風景の楽しみ方を教えてもらったのに……結局、忘れてしまうなんて」


 もみじの葉を見つめながら、悔しさが込み上げてくる。

 お母さんが教えてくれた「美しいものを見る目」を、私は一人では使えなくなってしまった。愛する人と一緒でなければ、どんな美しい景色も色褪せて見えてしまう。


 それが、あの頃の私には、とても悲しかった。

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