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番外編② スペース【SIDE アベル】

※本編終了から数日後くらいのアベルとノルベルト

ノルベルトに俺の正体を明かしてから数日が経った。

俺はリュトムスで神父を続けている。

朝早くに鐘を鳴らし、村人たちの相談に乗って、日々祈りを捧げる。


もう身体に染みついたこの習慣を手放さなくてよかった、と。

ステンドグラスから差し込む美しい光を眺める。ふっと顔をほころばせた。





それにしても物が多いのは事実だ。

俺はひとり、居住スペースを見渡して考えていた。


ノルベルトとふたりで過ごすには、この部屋は若干手狭だ。棚には色々と雑貨が詰め込まれているし。

これからノルベルトの私物も増えるだろう。彼の分のスペースも作ってあげないと。


ごそごそと自分の私物を整理する。

もう着なくなった服や古い本は村人にあげてもいいかな。

みんなとの思い出の品を捨てるのは忍びないから、倉庫にでもまとめてーーー


「アベル!? 何してるんだ」


部屋に戻ってきたばかりのノルベルトが、勢いよく俺の手を掴んだ。





「……え? どうしたんですか?」


振り返ると、ノルベルトは肩で息をしていた。

焦ったように強く俺の手を掴む。


「……アベル、何しようとしていた」

「何って……物が多いから整理しようかと」

「……それだけ、だよな。ただの整理だよな」


じっと瞳を見つめられる。俺はたじろいだ。

なんか、いつもより圧が強いというか。

こんなに切羽詰まっているノルベルトは初めてだった。

いや、指輪をもらったとき以来と言うべきだろうか。


ちらりと視界の端に小さなカバンが目に入る。

そして、ああ、と納得した。

安心させるよう、極力柔らかい笑みを浮かべる。


「私、どこにも行きませんよ」


ノルベルトはじっと俺の瞳を見つめて、それからゆっくり息を吐いた。掴む手の力が緩んでいく。


俺は、おいで、とばかりに両手を広げる。

ノルベルトは大きな身体を寄せて、正面から抱きしめた。ぽすん、とぴったりくっつく。

俺の首筋に顔を埋めてすんすんと息を吸った。

可愛い。やっぱ、大型犬みたい。


「…………よかった」

「勘違いさせちゃいましたよね。ただの荷物整理です」

「……すまない。わかってる。……ただ、不安になっただけだ」


俺を抱きしめる力が強くなった。


数日前、俺がこの村を去るつもりだったと知ってから。

ノルベルトはずっと俺の側を離れなかった。

俺の姿が見えなくなるとすぐ探しに来たり。

寝るときはぎゅっと抱きしめて寝たり、小さなカバンを俺の手の届かないところに置こうとしたり(まあ、俺だって大人だから普通に届くんだけど)。


ここ数日は落ち着いてきたのだけれど。

俺がまた荷物整理を始めたのを見て、その不安が蘇ったようだ。

心配させて申し訳ないな。

俺はぽんぽん、と優しい力でノルベルトの背中を叩いた。


「あなたのスペースを作ろうと思ってたんですよ」

「……俺の?」

「ええ。この部屋で一緒に過ごすなら、あなたの私物も増えるでしょう。さすがに物が多すぎますからね。それで、整理を」

「……そうか」


ノルベルトは、はぁ、と気の抜けたように俺にもたれかかる。重い。

その重さがなんだか可愛らしかった。


「不安にさせちゃいましたね。ごめんなさい」

「……いや。俺も勘違いして悪かった」


ノルベルトは調子を取り戻したようだ。すっと真っ直ぐに立つ。

重くなくなったけど、もうちょっと重くてもよかったのにな、とか思ってしまう。

ノルベルトは俺の髪を慈しむように撫でた。

それから部屋をちらりと見渡して、目尻を細めた。


「確かに、物が多いな」

「ええ。私、片付けがあんまりうまくなくて」

「ふふっ、そうだな。あなたは意外と雑なところがある」


俺はちょっと恥ずかしくなった。

隠してたつもりだけど、俺はものを定位置に片付けるのが苦手だったりする。

書庫から引っ張り出してきた本はずっと枕元に置いてしまうし、村人からもらったものは机に置きっぱなしにしちゃうし。

ノルベルトがよく「これ、戻していいのか」って聞いてくるから、邪魔だなぁとは思ってたんだろうな。


「片付け、一緒に手伝ってくれません?」

「……ああ。任せろ」


ノルベルトが微笑む。

俺は胸の奥がぽかぽかとした。

前まではひとに頼るのがちょっと苦手だったけど。

ノルベルトなら、大丈夫だ。



俺はそっと背伸びをして、ちゅっと軽くキスをした。


なんか、したくなった気分だから。


ノルベルトは目を丸くして、顔を赤らめた。

俺はいたずらが成功した子どもみたいに、ふふっと笑った。

番外編③は明日の19時半ごろ投稿予定です!

アベルの私物を整理していたら、ノルベルトがレネ・ホフマンの服を見つけちゃって……汗!

ブクマ&評価、よろしくお願いします~☆

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