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第32話 初デート、ですね。

俺とノルベルトが恋人関係になって、数日が経った。

”恋人”になったからといって大きく変わったところはない。まあ俺たちはその前からキスをしていたし、一緒の部屋で寝ていたのだし。

あえて言えば、寝る前のキスがとろとろに甘くなったことくらいだ。




そして、年越しの日。

リュトムスでは”新年の儀式”が行われる。


三十一日の夕方から、村人は広場に集まりだす。

中心には大きなかがり火がある。太陽神・プリマのお力をいただいた神聖な火だ。

ちらほらと雪が舞っていても火の近くにいればそれほど寒くない。村人たちはかがり火を囲んで、各家庭から持ち寄った酒やお菓子を楽しんでいた。


広場を囲うように、村人たちが作った雪像が並んでいる。雪だるまや雪兎、都市部で人気のある小説のキャラクターまで。

「しんぷさま! こっちこっち!」と、はしゃいだ子どもたちにカソックを引っ張られてあちこちに振り回されるのも、この日の醍醐味だ。




広場からやや離れて、ノルベルトとふたりで新年の儀式で使う道具を確認していた。

よし、問題ないな。あとは年越しの時間まで暇だ。

かがり火から離れるとやはり寒い。楽しそうな声が響く広場に目を向ける。


「子どもたちは元気だな」

「ですね。やっぱり年越しの雪祭りはみんなテンション上がりますから」

「収穫祭も楽しかったが、冬もいいな」


ノルベルトが、そっと手を繋いできた。

手袋越しにじんわりと体温が伝わってくる。


「……誰かに見られたらどうするんですか」

「寒いから仕方ない。……嫌か?」

「嫌じゃないですけど」


……まあ。いつもは仕事ばかりなのだし。

寒いし。うん。仕方ないな。寒いから。たまには。

恋人になってから初めてのお祭りだし。

俺はキュッと手を握り返した。








俺たちは広場に並ぶ雪像を眺めていた。なんとなく手は繋いだまま。

目の前には、城を模した美しい雪像がそびえ立っている。


「すごいな」

「壮観ですよねぇ」

「王都の宮殿か? ここまで細部を作り込むとは……」

「あれはおとぎ話に出てくるフリューゲル城ですね。王子様と下僕の少女のラブストーリーですよ。毎年熱烈なファンがこれを作ります」

「……すごい熱量だな」


ノルベルトは初めての景色なのか、目を輝かせていた。

城は丁寧に作り込まれていて、かなり大きい。俺が見上げるくらいだ。手先が器用な村人たちの共同制作だった。毎年のことながら、ここまで熱量を込めるのには感心する。




「アベル様!」

「あ、フローラ、……と、ポール?」


遠くからフローラが駆け寄ってきた。隣にはポールもいる。来春には結婚するふたりだから、当然と言えば当然なのだが。熱々というよりは穏やかなカップルの雰囲気が流れていた。


「アベル様たちも雪像見にきたの?」

「ええ。儀式はもうちょっとあとですからね。おふたりも?」

「そうよ。この城、私たちも作ったから! ほら、見て。右側の階段は私が彫ったのよ」

「……すごいですね」


フローラが城を指さす。

花の装飾まで丁寧に彫り込まれていた。


「でしょ! 大変だったのよ。ポールはそのちょっと上の屋根のとこをやったの。ね?」

「うん。フローラったら、ひとつの装飾に何時間も掛けるものだから。おかげでずっと寒かったよ」

「もう! いいでしょ、終わったんだから!」


目の前でふたりはキャイキャイと語り出す。

キスの相談の時にはどうなることやらと心配していたが、やはり相性のいいふたりのようだ。前よりも親密度が増している。お互いが想い合っているのがわかって微笑ましい。



「アベル様とノルベルト様もデート?」



ポールが何の気なしに聞いてきた。

その表情は本当に純粋な質問だった。

俺はぴくりと固まる。


……でーと? これ、デートだったの!?

今までずっとノルベルトといたから意識したことなかったけど。たしかに、付き合ってるふたりが出かけるのなら……。

え、いや、待って待って。そもそも村人たちに恋人関係って知られるってどうなの!? 俺たちそう見られてたの!? いつから!?


一気に思考が巡って顔が熱くなる。

恥ずかしさと照れと困惑と、誤魔化したほうがいいのかとかで言葉に詰まっていた。



「ああ、デートだ」



隣のノルベルトが答える。

サラッと。何の問題もないような声で。


「ちょっと!」と止めようとするが、肝心のノルベルトは「どうした?」と首を傾げていた。

俺は口をパクパクしてしまった。

知られていいのか、俺と付き合ってることとか。いろいろ。



フローラとポールはキラキラした瞳で俺たちを見つめる。


「やっぱり! そうだったのね。おふたり、そう……! よかったわ。そうだったのね」

「いや、フローラ。あの、ちょっと待ってください」

「収穫祭の頃からお似合いだなって思ってたのよ。ふふ、よかった。嬉しい。私も嬉しいわ。アベル様にそういったお相手ができて。ほんとに嬉しい!」


フローラがはしゃぎだす。ポールもニコニコとしていた。



……なんだこの空気は。

むずかゆくて恥ずかしくて耐えられない。耳が熱くなる。


「ノルベルト様、アベル様のことをよろしくお願いいたしますわ」

「ああ、任せろ。俺がアベルを幸せにする」


キリッとした表情でノルベルトは告げる。

フローラは「きゃー!」と感激していた。

たしかに、カッコいい騎士、だな、今の姿は。



……だからって、村人の前でやられるの、めちゃくちゃ恥ずかしいんですけど!!!



俺は、ややうつむきがちに「アリガトウゴザイマス」と、片言で返すしかできなかった。


照れてしまって、握っていた手を離そうとする。

けど、ノルベルトは強く指を絡めてきた。

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