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第31話 恋人って何すればいいんでしょうか

言葉にすると、急に実感が湧いてくる。

顔が燃えるように熱くなって、しゅわしゅわとした感情が込み上げてきた。


ーーーえ。

俺、ノルベルトのこと、好きだったんだ。


全然気づかなかった。これがみんな悩んでいた”恋”だったのか。

顔を覆った。時間差で恥ずかしい。やばい。今ぜったい変な顔してる。



「……アベル」

「あ、あの! え、えっと、み、見ないでください!」

「えっと、あなた、も、俺を……」

「は、はい! すき! すきだからっ! ちょっと! だまって!」


頭が追いついてこない。何を言ってるんだ俺は。


「……可愛い」


ノルベルトは、俺をまっすぐに見て、とろけるように笑った。

ーーーもう!

うつむく。なんだか目尻に涙が浮かぶ。頭はパニックだった。

どうすればいいんだろう、俺はノルベルトが好きで、ノルベルトも俺のことが好き、らしい。

……え? こ、これはいわゆる”両思い”というやつなのか?


「アベルが俺のことを好きだなんて、思いもしなかった」

「……ちょ、っとまって、ください」

「一生かけてあなたを愛す。あなたのそばにいさせてほしい」

「ちょっと待ってって言ってるでしょ!」


今はいっぱいいっぱいなんだ。これ以上追撃しないでほしい。

手でパタパタと扇ぐ。風はほぼ来ない。頬の熱は冷めない。気休めだ。

でも、何かしてないとおかしくなりそうだった。


「……いきなり、結婚は早い、気がします」

「ああ、そうだな」

「こ、恋人、から……で、は、だめ、ですか」


ぽつりとこぼす。手が震えた。

ノルベルトは、嬉しそうにはにかんだ。


「だめじゃない。俺をあなたの恋人にさせてほしい」







その日の夜。

俺はもう、ずっとそわそわして身体が強ばってうまく話せなかった。

夕食でも会話がかみ合わないし、何も考えられないし、お風呂でもぼーっとしちゃうし。


ーーーーまじか。

俺は人生で初めての恋人ができた、らしい。




お風呂から上がると、ノルベルトは嬉しそうな顔で俺を待っていた。


「アベル、おいで」


俺はノルベルトが待つベッドに座った。

以前は全然何も、そんなに、気にならなかったのに。キスだって、ディープキスだってしたのに。

……心臓がバクバクとうるさい。

関係に名前をつけるだけでこんなに緊張するなんて。

両手を膝においてぎゅっと握る。

ノルベルトの顔が見れない。身体はガチガチだった。


「……アベル」

「はい!」

「手を、握っても?」

「は、はい……」


ノルベルトはそっと俺の手を取る。緊張をほぐすように柔らかく包み込んだ。


「そんなに緊張しないでほしい」

「……すみません」

「あなたを傷つけることはしない」

「あ、ち、違うんです……。その」


弱々しい手つきでノルベルトの手を握り返した。



「ど、どう、振る舞っていいか、わからないんです。恋人、って、何するんでしょう」



村人の恋愛相談にものってきた。おおよそカップルがすることは知っている。

けれど、いざその場面に立ったとき、頭が真っ白になった。

もしノルベルトが、恋人らしいことを求めているなら。……俺は、何をすればいいのだろう。



「抱きしめてもいいだろうか」


ノルベルトがぽつりと尋ねる。

俺はびくりと肩をふるわせ、そして、小さく頷いた。

ノルベルトは手を離し、俺を後ろから包むように抱きしめた。彼の香りに包まれる。温かい。


「力を抜いて。俺にもたれかかって」

「……はい」


ぽすん、と、背中をノルベルトに預けた。筋肉のついた立派な体躯が俺を支える。

……なんだか、妙に、落ち着いたかもしれない。


「上手」


耳元でノルベルトの声がする。

優しい、とろけるような声だった。


「……上手って。私、何もしてないですよ」

「それでいい、という意味だ」


ノルベルトの腕に力が込められる。肩口に顔を埋められて、ノルベルトの髪が首筋に触れた。むずむずする。

……けど、ずっとこのままでいたいような。


「恋人らしいなんて意識しなくていい。あなたがそのままでいてくれるだけで俺は嬉しい」

「……でも」

「強いて言えば、もっと俺を頼って、もっとワガママを言ってほしい」


なに、それ。

……よくわかんないな。もう。

背中の体温に身体を委ねた。

ノルベルトの香りは安心する。体の力が抜けて、中からぽかぽかと温かくなってきた。


しばらくは無言だった。会話をしなくとも、お互いの鼓動の音だけで伝わった。

……俺たちが、恋人になったことを。




「ノルベルト」

「どうした?」


俺はちらりと見上げる。

ノルベルトは優しそうに俺を見つめ返した。


「この体勢も好きですけど。あなたの顔が見たいです」

「わかった」

「……あ、あと、もう一つ」


少しだけ言いよどむ。

ワガママだって思われたらイヤだけど。

言うのもめちゃくちゃ恥ずかしいけど。

……意を決して口にした。



「キ、キスがしたい、です。こ、恋人の、キス……」



ノルベルトは顔を赤くした。

何かを堪えるように唇をキュッと噛んで、唾をごくりと飲み込む。


……え。なんで黙ってるのさ。

そっちがワガママ言っていいっていったのに。

ぷい、と顔を背けようとしたけれど、ノルベルトによって妨げられた。

じっと見つめ合う。とろける青の瞳に俺が映っている。


「いいのか」

「……したい、って、言ったでしょう」


青の瞳が輝いた。その瞳は雄弁に、愛おしさを伝えてきた。見つめられるだけで胸がときめく。


ノルベルトは俺の頬に手を添えた。キスの合図だ。

目を伏せる。唇に柔らかい感触がした。

ーーー前にも、していたのに。


なぜだか今回は、

とびきり甘くて、胸の奥から幸せが込み上げてきた。

祝・恋人!おめでとう〜!

コメント、ブクマ、評価、ありがとうございました…!

めちゃくちゃ嬉しいです……!!朝起きてびっくりしました……感動……!!

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