第23話 キスの仕方ってどう調べればいいんでしょう
めんどくさい宿題ができてしまった。
キスの技術を伝える、とは。
一体何から手をつければいいんだろう。
はあ、と肩を落として教会への道を歩いていた。
心なしか足が重い。フローラの頼み事でグッと疲れた。
もう日が沈みそうだった。空はまだ雪がちらついている。
ノルベルトに傘を差してもらっていた。歩調が遅くなってもペースを合わせてくれるのでありがたい。
「あの少女……フローラ、だったか。すごい相談だったな」
「ええ……。フローラはまあ、ああいう子なので仕方ないんですが。どうしようかなぁ」
「どうやって調べるつもりだ?」
「うーん。書庫に閉じこもるしかないですかね。でも聖典には書いてなかったですし。このへんの文化的な質問が一番困るんですよね……」
「……まさか、本で調べるのか?」
「ええ」
うーんと唸りながら歩を進める。
教会の文献は前に一度あさったけど、キスに関する記述はなかった。伝記だって『誓いのキスをした』で終わるし。
教会にある本に具体的なキスの描写なんかあっただろうか。恋愛小説はいくつかあるけど、俺はあんまり読まないから覚えてないな。
解決策が出ないまま教会に到着した。
扉を開けると暖かい空気に包まれる。基本的に暖炉はつけっぱなしにしている。
夕食をとり、今日は俺が先に風呂に入った。
その間もずっと誓いのキスの仕方について考えていた。
ノルベルトが風呂に入っている間に書庫へ向かった。
何冊か目を通し、自室に運ぶ。寝る前に読んでみようと思った。
だが、ぱらぱらとめくったところ、それらしい記述は見つからなかった。
「……アベル、何をしてるんだ」
ノルベルトが風呂から上がってきた。その顔はなんだか信じられないものを見るような様子だった。
……”変化”の魔法、解けてないよな。
さりげなく頭を確信し、人間の姿をしていることを確認する。よかった。そういう驚きではないようだ。
「何って。キスの仕方について調べてるんですよ」
「……本気だったのか。本で調べるって」
「ええ。でも、あんまり書かれてないですねぇ。もっと具体的な描写がほしいのですが」
「書かれてないと思うぞ」
ノルベルトが髪を拭きながら近くの椅子に腰掛ける。知ったような口ぶりだな。
……なんだか、俺のしていることが的外れな気がしてきた。
ちょっと落ち込んでいると、ノルベルトが声を掛ける。
「アベルは、その………。キスの経験が、ない、のだろうか………」
「……え。秘密です」
ちょっとムキになって返すと、ノルベルトは「いや、その、うん。そっか……」と変に納得していた。何か変なことを言っただろうか。
「アベル、キスの仕方というのは……おそらく書に残すものではないと思う」
「えっ」
「というより、角度やら手の位置やらを意識してキスする人間はそうそういない」
俺は口をぽかんと開けたまま黙り込んでしまった。
カップルはみんなキスをしているから、それなりのハウツーがあると思っていたのだが。
……じゃあ、俺はどうやって調べればいいんだ。
「ノルベルトは詳しいですね」
「いや、詳しいとかじゃ……」
……待てよ?
チラリと視線を上げる。
ノルベルトは眉根を寄せたまま、俺に視線を向けていた。
湯上がりだからだろうか。頬は赤くなっている。
「ノルベルト、お願いがあるのですが」
「なんだ」
「私とキスしてくれませんか?」
次回、キス回です!!!笑笑笑
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