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第20話 一緒に寝ましょう

ゆっくりとした時間を過ごした。

日が暮れて、早めに休むことにした。温かいスープとパンを食べ、暖かいお風呂に入る。

ノルベルトは寝支度をするために懺悔室に向かった。


窓の外は雪が降っている。寒そうだ。

懺悔室で眠るノルベルトへ、毛布を届けてあげることにした。

廊下はグッと気温が下がっていた。温度差に顔がぎゅっと強ばる。

懺悔室の扉を叩いて声をかけた。


「ノルベルト? いますかーーーー」


扉を開けると、そこは極寒の地だった。





「アベル? どうした。寝ないのか」

「…………は?」

「何かあったのか?」


寒い。寒すぎる。ありえない。

懺悔室は石造りで底冷えする。暖炉なんかない。

ノルベルトが寝支度をしている布団もペラペラだ。毛布があったとしても気休めにしかならないだろう。


いつもは昼にしか懺悔室を使わないから気がつかなかった。

夜の懺悔室は寒い。しかも今日からは雪が降る。

こんなところで一晩過ごすなんて、身体を壊すに決まっている。


「……あの、ノルベルト」

「どうした?」

「一緒に寝ましょう!」

「は、え、えっ、待っ………」


うろたえるノルベルトの手を引いて、自室に連れ込んだ。





呆然とするノルベルトを横目に、ぱたりと部屋の扉を閉めた。

教会で暖炉があるのは俺の居住スペースだけ。冬を越せるのはこの部屋だけなのだ。


うっかりしていた。申し訳ない。

冬の夜に教会施設を訪れるなんてしなかったから、全く思い至らなかった。

暖炉のない部屋があんなに寒かったなんて。


「ノルベルト、申し訳ありませんでした。あんな寒いところに寝かせていたなんて」

「いや、いい、大丈夫。大丈夫だから、懺悔室で寝かせてくれ」

「ダメです。凍死しちゃいますよ。リュトムスの冬を舐めちゃいけません」

「せ、せめて……違う、部屋にしてくれないか」

「暖炉があるのはここだけです!」


ノルベルトは視線を泳がせていた。

顔を赤くして、困ったようだった。

あわあわとしている様子は迷子の子犬みたいで。



……俺としては、正体がばれるわけにはいかないが、それ以上にノルベルトに寒いところで寝てほしくない。寝ている間も”変化”の魔法をかけているから正体がバレることはないし。


むしろ信頼関係が築けた今、こんなに躊躇われる方が傷つく。なんでそんなに躊躇うんだろう。

食事も仕事も一緒にしてきたのにさ。

さっきまで編み物一緒にしてたのにさ。



「冬の間だけですから。一緒に寝ましょうよ」

「俺の身体は頑丈なんだ。風邪を引いたことすらない」

「だからって、温かいところがあるのにどうして寒いところで寝るんですか。私はノルベルトが寒いところで寝ているのが嫌なんです」


瞳を見つめて懇願する。

ノルベルトはしばしの逡巡を繰り返し、うーんとうなり、最終的に首を縦に振った。




俺のベッドのすぐ近くに布団を敷いた。

布団はしばらく懺悔室にあったからか、すっかり固く冷えていた。そういえば、先程触れた手もすっかり冷え切っていた。

………もっと早く気づけばよかったな。重ね重ね申し訳ない。


暖炉があるとはいえ、床は冷える。

ここで寝たら体調を崩してしまうかもしれない。

俺はうーん、と考えた。


「ノルベルト、こちらへ」

「……?」


首を傾げるノルベルトの手を引き、俺のベッドに座らせる。

そのまま寝かせようとして、ぐいっと肩を押した——

つもりだったのに、ノルベルトの抵抗がすごい。



「!!!????」

「ちょっと。暴れないでくださいよ」



ノルベルトは困惑していたが、押し倒されることはなかった。両手で俺の手を掴んで抵抗する。さすが騎士だな、すごい体幹だ。


「待て待て待て!!! なにをするつもりなんだ!!??」

「何って……。一緒にベッドで寝ましょう? 床は寒いですから」

「いや、あの………まっ、待ってくれ!!!」


顔を真っ赤にしてノルベルトは叫んだ。


「……そ、その……アベルは、そういうつもり、じゃ、ないんだろ?」

「? そういう? どういうことですか?」


寒さを凌ぐ以外のことがあるだろうか。

首をこてん、と傾げていると、ノルベルトはじっと俺の瞳を見つめた。手を掴まれてるからか、思ったより顔が近い。


「っ……! 俺は男だ。わかるか、アベル」

「? はい。私も男ですよ」

「いや、あの、そうじゃなくて」

「……もしかして、男同士で寝るのが嫌なんですか」


俺はぽつりと呟いた。

……そっか。男と同じベッドなんて、嫌に決まってるよな。俺もノルベルトが村に来た初日は、ゴツい男と同じベッドで寝たくなかったし。

俺はそっとノルベルトから離れようとした。


「……私と寝るの、嫌ですよね。すみません」

「ち、ちがう!!!」


ノルベルトは慌てて俺の手を強く握った。

驚いて顔を見上げると、ノルベルトは必死な顔をしていた。



「……俺は、あなたのことを、大事にしたいんだ」




青い瞳が俺を映していた。その瞳は真剣で。

……なぜか、心臓がきゅっと高鳴った。



「えっと、……どういう、意味ですか」

「いや、その……」

「……あ、もしかして、寝相で潰しちゃうとか考えてます? 私、意外と頑丈ですから心配しなくても……」

「あー…………」


ノルベルトは小さく唸っていた。


「そう、そうなんだ。俺は寝相が悪いから。床で寝たい。固くてもいい」

「………でも」

「お願いだ」


あまりにも真剣な顔で言われるものだから、俺はしぶしぶ「わかりました」とだけ呟いた。


ノルベルトは床に敷いた布団に寝転んだ。

さっき触れた布団は冷たかったけど。もう部屋の気温で暖まったかな。

じっと見つめていると、ノルベルトは「暖かいから心配するな」と、ぼそっと呟いた。

………心を読まれた気がした。




俺は部屋のランプを消し、ベッドにあがった。

ベッドの中はやはり暖かい。ノルベルトの方に視線を向ける。

ノルベルトは毛布をすっぽりと被っていた。布団に大きな山ができたみたいだ。

一人だけぬくぬくしてしまって申し訳なくなる。


「ほんとに、床、寒くないですか」

「寒くない」

「やっぱり一緒にベッドで寝ましょうよ」

「大丈夫だ」


……まあ、いいか。

一応暖炉はあるのだし。


「明日、布団の中身を整えますね。ちょっとは暖かくなると思いますよ」

「……ありがとう」

「他にも辛いことあったら言ってください。寒いとか固いとか。なんでもいいです」

「ああ」

「……私も、あなたを大事にしたいんですから」


そう告げると、布団の中のノルベルトが、ぴくりと動いた。ここから顔は見えない。


小さく「ありがとう」とだけ、返ってきた。

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