ケーキでここまで豹変するか?
今日は珍しく、教室が平和に包まれていた。
理由はシンプルだ。月に一度のお楽しみの日……本物のケーキの配給日がやってきたからだ。
宇宙戦争が終結してなお、世界は完全には立ち直っていない。
瓦礫と荒廃が残るこの時代、甘いものは貴重な贅沢品だ。特に本物のケーキなど、月に一度の配給でしか口にできない生徒がほとんどだった。
男子も女子も、この日ばかりは争いを忘れ、仲良く配給を待っていた。ハイレグTバックのパイロットスーツも、今日はどこか穏やかに見える。
だが、そんな平和な空気は、遅れてやってきた担任・山崎の言葉で一変した。
「悪い知らせだ。輸送隊が反政府ゲリラに襲撃されてな、ケーキの一クラスあたりの割り当てが半分になった。男女一組になって、半分ずつ分けるなり、どちらかが譲るなり、二人で決めてくれ」
教室が騒然とする中、男子たちは困惑した。
「半分って……どうすりゃいいんだよ?」
「ケーキのために争うのもアレだしな……」
彼らは貴重な甘味を前に、どう対応すべきか迷っていた。
だが、女子たちの判断は素早かった。
普段の強気な態度が嘘のように、アヤメを筆頭にした女子たちが一斉に男子に媚びた態度を取り始めたのだ。
「ねえ、ごめんね……今までキツい態度取っちゃって。素直になれなくてさ……でも本当は大好きだよ?」
アヤメが猫撫で声でタカシに寄り添い、その頬にキスをする。
「ずっと大好きだって伝えたかったけど、恥ずかしくて言えなくて……」
別の女子が別の男子に抱きつき、甘い声で愛を囁く。
男子たちはバカではない。彼女らの態度が本心ではなく、ケーキを狙った演技だと全員が理解していた。
普段は「気持ち悪い」と罵倒し、「絆のため」と尻を突き出してくる女子たちが、こんな態度を取るはずがない。
だが、その偽りの愛らしさに理性を揺さぶられながらも、貴重なケーキを簡単に譲るまいとギリギリで踏みとどまっていた。
「お、お前ら……その手には乗らねえぞ……」
タカシが震える声で抵抗する。
しかし、女子たちはここでトドメの一撃を放った。
アヤメがニヤリと笑い、タカシのズボンに手を滑り込ませ、優しく手コキを始める。他の女子たちも負けじと動き出し、ある者は跪いてフェラまで始めた。
教室は一瞬にして甘い誘惑と喘ぎ声に支配された。
そして、数分後……
男子全員がスッキリした顔で、呆然と呟いた。
「ケーキはお前が食べろよ……」
無条件降伏だった。
女子たちは勝利の笑みを浮かべ、ケーキを美味しそうに頬張る。アヤメはフォークを口に運びながら、「やっぱり甘いものは最高だね」と呟いた。この日、男子全員がケーキを譲った。
彼らは分かっていた。女子の豹変はケーキ目当ての演技でしかないことを。だが、分かっていながらも、その誘惑に耐えられる男子は一人もいなかった。
担任の山崎は、女子たちの現金な性格と二重人格ぶりに慄きながら見守っていた。
(こいつら……エイリアンより恐ろしいな……)
彼の脳裏には、妻であり訓練教官のミサトが似たような手口で彼から甘いものを奪った記憶が蘇る。あの時も「愛してるよ」と囁かれ、手コキされた後にケーキを奪われたっけ……。
(ミサトの影響か? いや、まさかな……)
山崎は首を振ってその考えを打ち消しつつ、黙って状況を見守った。
そして、この過激で奇妙な日常が、このクラスの常態だった。
だが、そんな彼らの知らないところで、宇宙の彼方から新たな脅威が迫りつつあった。次なる戦いの日、ケーキを巡る誘惑が戦場での絆にどう影響するのか、彼らはまだ知らない。