オナニーぐらい一人でさせろ
「ちょっと男子たち! トイレでコソコソ私たちをオカズにオナニーしてるとか何なの!? ありえないんだけど!」
女子たちの怒号が教室に炸裂した。アヤメを筆頭に、スーツ姿の女子たちが腕を組んで男子たちを睨みつける。
そのハイレグとTバックの露出度バッチリなパイロットスーツは、今日も男子たちの視線を否応なく引きつけていた。
男子のリーダー、タカシが立ち上がって即座に反論する。
「お前らこそ何だよ! オナニーを見せろって俺たちに強要するな! しかも胸や尻、股間を見せつけてきたり触らせたり、自発的にオカズになるとか正気か? オナニーってのはな、一人でこっそりするもんだ。だからトイレで処理してるんだよ。お前らの方がよっぽどありえねえよ!」
教室が一瞬静まり返り、次の瞬間、女子たちが一斉に声を上げた。
「ちょっと待って! 私たちがオナニーを強要したことなんて一度もないよ!」
アヤメが髪をかき上げながら冷静に続ける。
「宇宙戦争時代のパイロットにとって、女が男に胸や尻、股間を見せつけたり触らせるのは友愛や絆を深めるための行為。私たちもその伝統に従ってやってるだけ。他意なんてないよ?」
男子たちは顔を見合わせ、呆れ顔で反撃に出る。
「オナニーしないとさ、お前ら不機嫌になって口聞いてくれなくなるだろ。それって実質的な強要以外の何物でもないだろ!」
タカシが声を荒げて続ける。
「つーか、宇宙戦争時代のパイロットがそんなことしてたなんて聞いたことねえよ。嘘つくな!」
女子たちは負けじと反論。
「嘘じゃないよ! 宇宙戦争時代のパイロットにとって、女に胸や尻、股間を見せつけられたり触らせてもらった男はその場でそれをオカズにオナニーするのが礼儀だったんだから!」
アヤメが自信満々に胸を張る。
「これは訓練教官のミサト先生に教えてもらったことだから間違いないよ。現に、担任の山崎先生がミサト先生を触りながらオナニーしてるのを私たち何度も目撃してるし。私たちが不機嫌になるのは男子の非礼のせいだよ。『親しき仲にも礼儀あり』って言葉、知らないの?」
その言葉に、担任の山崎は内心で盛大に頭を抱えた。
(何!? いやいや、違うだろ! あれはミサトが好きなプレイなだけで、パイロットの伝統とか関係ねえよ!)
山崎は元パイロットであり、妻であるミサトとは戦場で苦楽を共にした仲だ。
確かにミサトは彼に胸や尻を押し付け、「これで気合い入れな!」と言いながら妙なプレイを仕掛けてくることがあった。
そして彼もそれに応じたことが何度かある。だが、それはあくまでミサト個人の趣味だ。パイロットの伝統でも何でもない。
(ミサトの名誉のためにも黙っとくか……いや、俺の名誉はどうなるんだよ……)
結局、山崎は苦笑いを浮かべつつ、口を噤んだままだった。
教室では、男女のバトルがさらに加熱していく。
「嘘つけ!」
タカシが拳を握り潰す勢いで叫ぶ。
「嘘じゃないよ!」
アヤメが負けじと胸を張って言い返す。
「オナニー強要すんな!」
「礼儀を知れって言ってるだけ!」
「トイレでこっそりする権利を認めろ!」
「その場で処理するのが絆だよ!」
騒ぎは収まるどころかヒートアップし、教室はまるで戦場と化していた。
山崎はただただ疲れた目でその光景を見つめる。
(宇宙戦争よりこいつらの相手の方がキツいな……)
彼の脳裏には、ミサトの視線を感じながら自身の性器をしごいた記憶が蘇る。あの頃は軽い遊びだったが、今頃になって生徒たちに影響を及ぼすとは。
そして今日も、女子と男子のバトルは平行線をたどる。
この奇妙で過激な日常が、このクラスの常態だった。
だが、そんな彼らの知らないところで、宇宙の彼方から再び暗雲が忍び寄りつつあった。次なる戦いの日、この誤解だらけの「絆」が試される時が来ることを、彼らはまだ知らない。