《 母への手紙 》
お母さん… 今の貴女は 何を思っているのでしょう。
あんなに活発だったお母さんが、布団に横たわり虚空を見つめ ぼんやりしている時、私はとても寂しくなります。
貴女を苦しめる身体の痛みは 貴女の心も痛めつけ、私は何もしてあげられないのですね。
なぜ私の周りの大切な人達は、笑顔を失ってしまうのでしょうか。
お父さんさんが亡くなった あの時、お母さんは哀しそうだったけど その瞬間を受け入れられず、何が起こっているのか解っていないような表情をしていましたね。
私達姉妹が幼い頃から、お母さんとお父さんは、決して 円満な関係を築いてるような夫婦には見えなかったけれど。
声を聞けず、手を繋ぐ事も出来なくなって、どれほど自分の為に相手が努力を積み重ねてくれていたか、やっと思い出したりしますね。
目の前に存在している時は、己の不安や不満ばかりで つい忘れている大切な事…。
お母さんとお父さんと、そして貴女の長女である私のお姉さん。
自分が結婚してから生んだ我が子と、その父親だった人。
皆 それぞれの運命に翻弄されて、皆 それぞれ笑顔を失くして、私はそれが苦しくて今までの人生 我武者羅というほど 皆の笑顔を取り戻そうとしてきたけれど空回りして、結局は自分の無力さを痛感するだけという、それが私の運命のようです。
でもね、お母さん… 貴女も 貴女の長女も 私も、これから躍動的な花を咲かせる事は 絶対に無いけれど、根は枯らす事なく 僅かでも青々とした葉を落とさず、 その葉の一枚一枚に暖かな陽射しを浴びて 穏やかな日々を送りたいと思っています。
傷付きボロボロになっても、残った家族で 微かな笑みが浮かぶ時間を大切にして、生きていきたいのです。
貴女の唯一人の孫である 私の息子も、これから先 色鮮やかな花が咲く事は無いかもしれません。
でも 大樹には成るかもしれないから、その育っていく姿を 一緒に見守って欲しいのです。
今では見上げるほどの身長になった孫の、赤ちゃんだった頃の写真を見て、久しぶりに笑顔になっていましたね。
私が幼い頃 テントウムシを見つけると捕まえて、なかなか手放そうとしなかった時「テントウムシの国の王様が心配するから 逃がしてあげなさい」と微笑んでいた顔と同じでした。
お母さん… これまで 私達の母親として頑張ってきたのだから、孤独に飲み込まれずにいて欲しいのです。
貴女の二人の娘と孫が、ずっと傍に居るから。
もっと涼しくなったら皆でお散歩に行きましょう。




