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《 迷子 》
何処か それ程 遠くない所。
か細く悲し気な 猫の鳴き声。
野良猫の声ではない。
多分 飼い主の家が、
解らなくなってしまった迷い猫。
小雨が降る中 捜しに行く。
悲し気な声の主を。
なるべく静かにそっと歩いて。
それでも声は消えてしまう。
見知らぬ人間の足音に、
驚いたのだろうか…。
雨に濡れ寒さに震えているかもしれない。
捜す。
絶対に捜し出す。
最も信じない『絶対』という言葉を、
掌の中に握り締めて。
歩いて しゃがみ込み 背伸びして、
背伸びして しゃがみ込み 歩き回って。
でも 見つからない。
どうしても見つからない鳴き声の主。
小雨の中 自分が迷子になった気分。
泣いてる猫は何処に居るの?
掌の中の『絶対』が 雨に溶けて消滅する。