《 命を抱き締める 》
秋の夜の
澄んだ匂いに包まれて
母として祈る事
涼やかに響く虫の声
無数の星の光り
窓から溢れる家々の明かり
深まる夜は過ぎ 夜が明け 朝
君が笑顔を失くした あの日
ベランダ越しに
父親と 最後に手を繋ぎ
大粒の涙を流し続けた時
人々の営み
出会いと別れ
喜びと悲しみ
君の心が完全に凍った あの日
かつて君の父親だった体が
乾いた液体になり
床一面を染めていて
父親の無音の泣き声を聴いた時
希望と絶望
愛情と憎悪
幸福と苦悩
君はその度に心を切り刻まれて
その一欠片 一欠片を置き去りにして
傷だらけの心で 今を生きている
人は皆 生き歩み 安らぎ眠る
尊き命の 美しさと哀しさ
君にとって
良い父親ではなかったでしょう
そして私も
良い母親ではありませんでした
けれど 君の父親も母である私も
常に
君をとても大切にして愛していました
そして今でも
変わらず愛しているのです
君への父親の愛情も 沢山残っています
いずれ君が
自分の家庭を築き父親になった時
置き去りにした心の欠片を取り戻し
笑顔を取り戻し
真の幸せを感じて欲しいのです
あの秋の日
消えた命と 今在る命を見つめて
ずっと祈り続けている事は
君の幸せな生きる道
今でも ずっと
これからも ずっと
美しき命の
輝きと 哀しみを
抱き締めながら生きてゆく