《 火樹銀花 》
幼き頃
家族の怒鳴り声や 泣き声を
聞いている事に耐えられず
時々そっと
夜に家を抜け出し
近所の公園から見える
遠い街の灯りを
眺めて過ごしておりました
その街の灯りの
美しさに慰められて
いつか 家族や自分が
常に笑顔で暮らせる日が
来る事を願って
けれど
待っても待っても
その様な日は
来なかったので御座います
やがて私は
少女の時期が終わった頃
遠く離れた場所から眺めていた
あの街の灯りの中に埋もれて
過ごすようになりました
埋もれた所から見る街の灯りは
何も慰めてはくれず
何の癒しも無く
私の網膜を焼く様な
烈しい痛みを伴う
刺激があるだけで御座いました
街の灯りからも
抜け出して 幾十年
自分自身の
怒鳴り声と泣き声から
脱け出て 幾年
今を生きております
時々 思い出す
幼き日の夜の公園から眺めた
遠い街の灯り
灯りに向かって
懸命に祈り続けた事
今でも遠く離れた場所に
街の灯りを目にすると
少しの 安堵と悲しみと
少しの 慰めと苛立ちを
感じながらも
もう 全て鎮まった事を
実感するので御座います
そして 今 独り
流れ続けた涙は止まり
遠い街の灯りは
涙で滲む事なく
地上で煌めく 宝石の様に
私の目に映っております