更なる扉
うーん、これはちゃんと問い詰めておいた方がいいよなぁ?
何かマジで『異界の扉』召喚しちゃってるし……。
っていうか、召喚した本人、やっぱり扉見えてねぇのか。
何かがあるって感じてるみたいだけど、視線は宙を彷徨っている。
「また失敗かぁ……。ちゃんと布は光ってるんだけどなぁ?」
いや、成功してるぞ。
俺にしか見えない扉だから気付いてないだけで。
でもこれ以上扉を召喚し続けられると、俺の部屋のウォークインクローゼットが完全に埋まってしまう。
それに妹程の超絶美少女が、夜に一人で倉庫に来てるのは何か危ない気がするし、注意しておくべきだよな。
「あい、こんな夜に何してるんだ?」
「ぎゃぴっ!? な、何だお兄ちゃんか……ぬっぺげかと思ったよ。驚かさないで」
ぬっぺげって何だ?
凄く気になるんだが?
「ぬっぺげって何の事だよ?」
「え? わ、私そんな事言った? ききき、気のせいじゃない?」
おい、何だその動揺は?
ぬっぺげって何なんだよいったい?
注意しようと思ったけど、そっちの方が気になってしょうがないわ。
「そっ、それよりお兄ちゃんは倉庫で何してたの?」
あ、誤魔化しやがった。
後で絶対、ぬっぺげについて聞き出してやるからな。
しかし、扉が見えてない妹にどうやってこの状況を説明したものか?
明らかにあいが召喚してたから、扉がある事を伝えたらきっと狂喜乱舞する事だろう。
それで調子に乗ってもっとヤバい物召喚しかねない。
いや、ひょっとしたら既にこの扉自体すげぇヤバい物なのかも知れないけどな……。
「俺はちょっと工具を戻しに来てただけだ」
嘘は言ってない。
他の目的について言及してないだけである。
「あいこそ何やってたんだ? いくら家の敷地内とは言っても夜も遅いし、変な人が倉庫に潜んでたら危ないだろ」
「そうだね。お兄ちゃんが潜んでたし」
ちょっと待て。
俺=変な人になってるだろ、それ。
「私はちょっと異界の扉を召喚してただけだよ。でもこの布の魔法陣は光るんだけど、異界の扉は召喚されないんだよねぇ」
「その布はどこから持って来たんだ?」
「前にお祖母ちゃんの家に行った時に貰った」
あぁ、そういえば前にお祖母ちゃん家に行った時に何か貰ってたな。
お祖母ちゃん、俺には何もくれなかったけど……。
両親が再婚した時、幼いあいを見て「可愛い孫が出来た!」って喜んでたっけ。
お祖母ちゃん、俺も可愛い孫だけど?
「ねぇお兄ちゃん、何で異界の扉召喚されないのかな?」
されてるけどな。
「さぁなぁ。闇の力が足りないんじゃねーの?」
「闇の力……それだっ!!」
どれだ?
妹はまたあの奇妙な魔法陣の描かれた布の前に座り込んだ。
そして何やらうんうん唸り始める。
「闇〜闇〜闇の力よ〜」
何故か布に描かれた魔法陣が、あいの声に反応して明滅する。
何これ、怖い。
「ぱむぱむぽっぴー! 闇の力で異界の扉を召喚したまえ!!」
その気の抜けたような呪文で、何で異界の扉召喚されちゃうんだろうな?
また魔法陣が光ってるから、ちょっと不安になるんだが。
でも今は召喚されたばかりの扉がそのまま残ってるし、さすがに新たな扉は召喚されないだろ。
……って思ってた俺が甘かった。
既に召喚されている異界の扉の横に、新たに扉が召喚されてしまったではないか。
しかも、今回の扉は闇の力を注ぎ込んだせいか、何か禍々しい黒いオーラみたいなのが拭きだしてるし。
これ、絶対あかんやつやん……。
「むー! やっぱり召喚されない……」
意気消沈する我が妹あい。
どうやら、この禍々しい扉も見えてはいないようだ。
でも、前の扉退けなくても新しい扉が召喚される事が分かってしまった。
これ、ほっとくと倉庫が扉だらけになってしまうな。
俺しか見えないし触れないけど、俺が倉庫使う時凄く邪魔になるから困るわ。
「あい、この布は何か危ないから没収だ」
「えー、なんで!?」
「何か光ってて良くない感じがするからな。もし間違ってぬっぺげが召喚されたら大変だろ?」
「ぬっぺげが……確かにそれは困る」
あ、ぬっぺげって困る物なんだ……。
「とにかく、もう夜に召喚したりするなよ」
「は〜い」
妹を先に家に戻らせると、俺は魔法陣の描かれた布をポケットに入れ、召喚された2つの扉を抱えた。
扉は軽いので、なんとか俺一人でも2つとも部屋まで持って行く事が出来た。
ウォークインクローゼットの中には4つの扉が所狭しと並べられている。
マジで狭い……。
そして、そのうちの禍々しいオーラが吹き出してる扉は、見た目通りかなりヤバい代物だと思う。
とりあえず南京錠が足りないので、今日のところは3つの扉をロープでグルグル巻きにして、そのまま寝る事にした。
しかし、布団に入っても、俺は気になる事があって暫く寝付く事が出来なかった。
「ぬっぺげって何なんだよ……?」