増える扉
翌日俺は学校が終わってから、ホームセンターに行って鍵を買って来た。
部屋の扉を外してドアノブを付け替えようとしたけど、どうやらロックするための穴を柱の方に開けなければいけないようだ。
もっとちゃんと調べて購入すれば良かったか。
「父さん、工具ある?」
「たぶん倉庫にあるぞ。父さんがやってやろうか?」
「いやいいよ。父さんは仕事あるだろ」
「ちょっとぐらい大丈夫だって」
と仕事をさぼろうとしていた父さんは、義母さんに見つかって首根っこ掴まれてた。
父さんの仕事は謎だ。
何をやってるのか絶対教えてくれないんだよな。
在宅ワークでかなり稼いでるみたいだし、俺も将来は在宅で仕事したいなと思ってるから参考にしたいんだけど、端から見ても何やってるのか全然分からん。
時折電話で「何だと!!魔法少女がっ!?」とか言ってるけど、マジで何の仕事してんだよ?
アニメ関係?
パソコンで原画でも描いてるのだろうか?
タブレット使ってるとことか見た事無いけど……。
閑話休題。
俺は今日もまた、庭の倉庫にやって来る事になった。
昨日は部屋にある不用な物を置きに来たのに、逆に不思議な扉を部屋に持ち帰る事になってしまった。
今日は工具を取りに来ただけだし、そんなおかしなイベント起こらないよな——。
「おい、何でまた扉あるんだよ……?」
倉庫の中央に鎮座する扉。
昨日の扉とは僅かに扉周りの装飾が違うように見える。
大まかな形や大きさは前の扉と一緒で、上部が半円になっていてドアノブみたいなのが付いていた。
もう意味が分からない。
あれか? 扉を退かすとそこに扉が生まれるシステムなのか?
この倉庫って先日父さんが工務店から購入したものだよな。
新品だったみたいだし、いわく付きとかって事は無いはずなんだが……。
俺はその扉のドアノブを回した。
カチャリと音がしたので横にスライドしてみると——動かない。
引いてみたら開いた。
なんで仕様が変わってんだよ?
扉の中をのぞくと、前の扉の時とは違った部屋の景色が映し出されていた。
かなり広めの洋室である事に違いは無いのだが、置かれているテーブルの上には、試験管等の化学実験で使う器具が置かれていた。
どう見ても生活空間では無く、明らかに実験室だ。
暫く覗いて見ていたが、結局ずっと人の気配は無いままだった。
でも何時この部屋の主が戻ってくるか分からないので、俺は扉を閉めて直ぐに鍵を取り付けた。
鍵とは言ってもドアノブを改造する訳ではなく、金具をビスで留めて、南京錠を掛けるタイプのものだ。
人間は透過してしまうのに物質とは接触する扉なので、問題無く鍵を取り付ける事が出来た。
しかし、南京錠は1個しか買って来なかったので、俺の部屋に置いてある方の扉はそのままロープで縛った状態を維持する事になる。
しょうがない、明日もう一度買って来よう。
「この扉も、そのまま置いとく訳には行かないよな……」
俺は扉を持ち上げて、自分の部屋に運んだ。
俺の部屋は2階にあるのだが、扉は軽かったので俺一人でも難なく運べる。
しかし、それなりに嵩張るので、ウォークインクローゼットの中は結構窮屈になってしまった。
2つの扉を眺めて暫し考える。
「明日になってまた増えてたらどうしよう? 扉を動かさないのが正解だったりして……?」
そんな不安を覚えつつも、俺は一つの行動を決意する。
倉庫の中で一晩様子を見る事にしようと。
倉庫は割と新しいので、中に潜んでいるのはそれほど苦痛ではない。
それなりに広さもあり、道具を整理すれば俺が隠れる場所ぐらいは作れる筈だ。
俺は夕食を済ませてから、誰にも告げずにこっそりと倉庫の中に身を潜めた。
倉庫に入って直ぐは、まだ次の扉も現れていなかった。
この辺は田舎なので、倉庫に鍵を掛けたりしない。
家の玄関には一応夜だけ鍵を掛けるが、それも必要無いぐらい平和なのだ。
でも、鍵が掛かってないのをいい事に、誰かが扉を置きに来ている可能性もある。
何の意図があってそんな事をしているのかは突き止めておきたいところだ。
でも、何かヤバい事に巻き込まれそうだったら、そのまま隠れてよっと……。
倉庫に入って1時間程した頃、それは倉庫の入口を開けて入って来た。
小柄な人型のシルエットが微かに見える。
暗くて顔は良く見えないが……。
やはり、扉を持って来ている誰かがいたという事になりそうだ。
でも扉らしきものは持っておらず、手には布のような物を持っているだけだった。
その布を扉があった付近に置いて、その人物は何かを唱え始めた。
「ぱむぱむぽっぴー! 闇の力で異界の扉を召喚したまえ!!」
すると、その布に魔法陣の模様が浮かび上がり、凄まじい光を倉庫内に放った。
そして例の扉が出現すると共に、それを召喚した人物の顔もはっきりと見えてしまった。
妹だった……。