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ほかにはなにも持たない

作者: 花澤悠


 


ひとつしかみていない目で

いちわ鷹が

矢のかたちをして急降下し

聖域を清く硬く鋭い爪と

愚かさをあからさまに鋭敏な嘴で

切り裂こうとする


真水のほかはなにも飲まない

白く細い咽喉を


ため息のほかはなにも語らない

昼間は無口な口唇を


綺麗な未来の歌声のほかは

なにも聴かないちいさな耳朶を


血の匂いに敏感に恐れ慄き

息をするのを忘れるくらいの鼻腔を


なにものにも犯されない覚悟の

縮こまったちっちゃな胸襟を


けしてひとには知られない

秘密の妄想に毒された脳漿を


切り裂こうとするのだ

かの鷹が


じっくりとみると

やさしいおだやかな目で

わたしを引っ掻こうとする

わたしを啄もうとする


恨みなどではない理由で

おそらく襲っているのだとわからせる

慈愛に満ちた目のような

目で


お別れを告げる真摯なまなざしで


闇を光に変える明るいまなざしで


二度と立ち止まらないという約束


悲しみは永遠に続かないという曙光


新しく生まれるものは無数にあり


それゆえに新しく生まれる愛も


無限無尽蔵に降り注ぎわたしをそっと


困らせることになる


ことばなんて役に立たないから


いや僭越


わたしのことばなんてと云い直す


いちわ鷹が

矢のかたちをして急降下し

聖域を清く硬く鋭い爪と

愚かさをあからさまに鋭敏な嘴で

切り裂こうとする


愛のほかはなにも持たないこころは

けっきょくは傷つくことになろうとも

けして後悔未練などとは無縁な

ぶざまであさましいほど尊い

愛を咲かせて風に吹かれているだろう

そんなすこし引きつりそうな

夢みたいな予言の言の葉ならば

ちょい

聴いてみてもよいかも

信じて騙されてみてもよいかも

愛のほかにはなにも持たないこころは

けっきょくは

ことばのほかにはなにも待たないのだから










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― 新着の感想 ―
[良い点] これぞ花澤節、、花澤悠さんの真骨頂 魂のビブラートが裏腹な気持ちなのか 真意なのかと心臓にまで波が立ちます。 いやいや 花澤さんが鷹だわ、、なんて思って 久しぶりの切っ先に 完全復活だなと…
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