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世界の果ての小鳥  作者: in.
1/1

【1】1羽の小鳥

ゆっくり書いています。

お茶でも飲みながらお待ちください。

 


 その日は雨が降っていた。


 強くはないが長く続く雨が窓を濡らしている。

 寒くは無い。しかし、元々湿っている海風がさらに湿度を増しているので、窓は閉め切っている。湿度が上がりすぎると不快感が増す。


 今読んでいる小説でさえ少し湿っている。

 先月発売したというこの本はレティシアが持ってきてくれたものだ。彼女は街で評判のお針子で、忙しい中度々気にかけてこの店へやってくる。

 ふと、レースのカーテンを紐で括り、海原が見えるようにしてみた。曇天と海が繋がったような、見る人が見れば不吉だとか恐ろしいと言うかも知れない。

 しかし、そんな光景もコトリは好きだった。



 チリン



 ドアに付けた鈴軽やかに鳴った。

 彼女は本をカウンターに伏せて、ドアに向かう。


「いらっしゃいませ」

「コトリさん、こんにちわ。ご機嫌はいかがかしら?」


 馴染みの老婆がゆっくりとした足取りで店内を進む。


「雨続きですが、私は変わりありません。ありがとうございます」


 老婆は迷うことなく窓際にある2人掛けの席へ座った。窓からは灰色の海原がどこまでも続く。


「果てでは雨続きなのね」

「先日少し晴れ間もあったんですが、昨日の夕方からまた降り続いてて」

「そうなのね。街は晴れてて少し汗ばむくらいよ」


 確かにドアが開いた瞬間に人の活気と共に熱も感じられた。キラキラ光る眩しさに目を細めると同時にドアが閉まった。また雨音が室内を満たす。


 ここ最近は晴れ渡る青空をあまりこちらでは見ていない。


「お茶はいつものでよろしいですか?」

「お願いするわ」

「承知しました」


 水出しのお茶は今の季節にぴったりである。

 保冷庫に保存してあったお茶をグラスに注ぐ。


「コトリさん、果てに来てどれくらいになるのかしら」

「もうすぐ3ヶ月になります」

「まだ3ヶ月だったの。なんか前からいてくれた気がしてたけどまだ1年も経ってなかったのね」

「1年どころか、半年も経ってないですよ」


 季節の移り変わりすらやっとである。

 体験したが少なすぎる。

 グラスを老婆のテーブルに持って行って、彼女と同じように窓の外を眺める。


 初めて来た日は透き通るような晴天で、風も穏やかでそよそよとコトリを歓迎してくれたような気がしていたほどだ。

 あの日は国王の側近と名乗る人がここへ連れてきて、このテーブルに座った記憶がある。たった3ヶ月前のことだが、混乱し過ぎていてよく覚えていない。顔には出さないようにだけ気をつけたのだが、それが逆に大物だと思われてしまったようであれ以降特に便りもない。



 本当に、ここにいるだけでいいのか。



 ドアを開け、

 街へ行き、

 城へ行き、

 それを尋ねることができない。



 コトリがドアを開いても、そこは少しの庭とその先に海が広がるだけ。


 実質、檻のようなもの。

 でも、ここを離れることはできないのにも理由がある。

 他の人は訪れることができて、コトリはここから出ることはできない。


 3ヶ月前にこの世界に来てから、この世界の果てに誰か来てくれることを待っている。



 野々原小鳥。

 この世界では彼女は『結界者』と呼ばれてる。



 彼女は世界に勝手に呼ばれ、勝手に役職を呼ばれ、流れでこの果ての家で静かに暮らしている。





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