アリアと魔法
寮の壁はそこまで薄くない、けど聞こえるものは聞こえてくる。特に隣の部屋の音とか大声出したら。大声出さなくても壁に耳澄まして聞こうと思えば聞こえる程度に。
「今度ムチ贈るね」
「要らんわっ!」
リリア達は相変わらずだった。
それから小さな声で話し始めたのか話は聞こえなくなったけど。
大抵小さな声になっている時はイチャイチャしてるんだろう、なんだかんだで仲がいいから。リリアもぐちぐち言いながら甘やかしてるし居ない時は寂しそうだし、されるがままの時はあるけどお似合いだと思う。性癖が特殊だなとは思うけど…
ミミさんの指導の元、カーラとアリアはミミさんの部屋にいた。
カーラが熱中し始めたので寮の近くの何でも屋に差し入れを買いに行こうかな、と、外に出た。
お気に入りのポシェットは水色。白いフリルが組み込まれていて大きな開きは財布になっていて前ファスナーはハンカチなど入る様に。デザインして売りに出したら大ヒットした。色は何種類かあって今回も漏れず水色を手に取ってしまった。
お金は最低限入れて残りはミミさんに預けている。限度額を決めているカードも入る様にカードケースが付いている財布の中に小銭をしまいこみ。
少し甘い花の香りに誘われて。
夕陽を見る。
冬は陽が落ちるのが早かったけれど、まだ少し明るい。
遅くなる前に帰らないとな、と思い早歩きで店まで足をすすめた。
店の中で飲み物を選びお菓子を手にする。適当にえらび、好物のスイートポテトを手にした時、男性の手と触れ合った。
「ごめんなさ…ぁ」
ライアンだった。
一緒に店を出て聖火祭ぶりに並ぶ。
「母がよく作っていたものでして。姉の差し入れにと…」
どうやら向かう先は一緒の様だ。
ルキアスも遊びに来てたもんな、結構自由なんだな、と思いながら。
「私も好きなんですよ。美味しいですよね」
「そうですね」
「ライアン様は好きなものは何ですか?」
食べ物で、と言いそびれた。
「アロマキャンドルですね。女性らしい好みだと思って話したことはなかったのですが…」
キャンドルに香りを付けて楽しむ、時々ミミさんがしてくれて部屋一面に花の香りが漂う、あの。
「とても素敵ですよね!どの香りが好きなんですか?」
「香りは特にはこだわりは無いのですが、ガラスの入れ物に入れて火をつけたらとても綺麗なんですよ」
ガラスの入れ物…ロマンチックだと思う。
「とても綺麗なんでしょうね!良いなぁ〜、私そういうのは試した事ないかもっ」
つい砕けた口調で言ってしまい、昔の彼にワザとらしいと言われたことを思い出し、口どもる。
「あっ、ごめんなさい…先程の口調で話すの…嫌でしたよね…」
「別に嫌ではないですよ、アリア様の今の言葉をきちんと伝えているのですから」
優しいな、やっぱり優しいな。
「よろしければ今度、一緒にガラス工房に行きませんか?王都に着いて知り合いになった方がしている工房なのですが」
「良いのですか?!ライアン様、ありがとうございます!」
デート?デートなの?!
いや、期待しちゃダメだ、ここは慎重にならないと…!
「あと、アリア様」
「は、はいっ!」
「聖火祭ではマフラーありがとうございました。冬の見廻の時に活躍してくれてとても暖かかったんです」
あの綺麗な笑顔を向けられた。
あっ、お出掛けはそのお礼かな?
「よろしければ、コレを」
差し出されたのは瓶に入ったお菓子と、小さな紙箱。
「このお菓子は無くなったら言って下さいね。時々、衛兵時代の上司に会うので頼むんですよ。金平糖」
キラキラ小さな金平糖は瓶の中で輝いていた。
まるで、
「魔法みたいですね!」
昔読んだ絵本の、大好きな魔法使いさんが魔法を使う時に星が周りに描かれていた。
「ライアン様は魔法使いさんみたいですね!」
思わず言って、恥ずかしくて赤面する。
ライアンはその言葉で目を見開き、
「もし魔法が使えたとしたら、アリア様は何を願いますか?」と、問う。
「うーん、魔法が使えたら…」
昔は家族と仲良くしたい、だった。
でも、自分自身が変わったら周りも自然と変わって来た。良い方向に。
「環境の変化とか周りに求めることはしたくないですね。今欲しいものは…花が欲しいですね、癒されたいです。部屋に置いておきたいです!」
いかんせん、今日来たばかりの部屋は殺風景だ。
彩が欲しい。純粋に!
その答えに、ライアンは懐かしそうに笑った。
寮までのあと数歩。
春風はとても心地よかった。




