アリアと魔法使いさん
昔読んだ絵本でお姫様に魔法をかけて綺麗なドレスに変える魔法使いさん。
私は魔法使いさんが好きだった。
お姫様を変えてくれた魔法使いさん。
お姫様は魔法使いさんがいなかったら、あのままだったんだろうな。
幼い私は、そう思った。
お茶会の帰り道の馬車の中。リリアに頼み事をした。本当はすごく怖かったけど、あの人の服を掴んで勇気がもらえた気がした。
それから世界は一変した。
自分が今まで体験したことのない経験。
自分さえ変われば今までのことが嘘みたいに楽しくなった。
あの人と同じ髪色の女の人。刺繍を教えてくれて始めるとすごく楽しくて。どんどん上達していくのがわかった。才能を見出してくれて実家のお店に置かせてもらえる様にもなった。
使用人達の仕事も覚えた。今まで好き嫌い言ってた料理を作る手間や、当たり前の様に生活していた陰に彼らがいる事を気付いたら感謝しか出なかった。
気がつくと私の周りに沢山の縁が出来ていた。
毎日誰かと会って。気が付いたら時間が過ぎてて。また、今度ねって言葉が続くのがとても嬉しかった。
パパも変わったねって笑って言ってくれた。
パパはずっと私のことを見ていてくれてたのに。
私がパパと真っ向から向き合ってなかっただけだった。
ミミさんとリリアとミミさんのパパ、ママに会いにいった時、あの人の名前を聞いた。
そんな面影あったもんなと彼らを見て思った。私が作品を販売するスペースを借りているお店の方達だった。
あの人の目元とそっくりなママさんが色々教えてくれた。
話している時に「アリア様と話しているととっても楽しいわ!」と言われた時。あの人に言われた気がして、それがとても嬉しかった。
帰りがけにパパさんに呼び止められて
ライアンに会いたくないかい?
と。
今度こそ、名前を教えてもらいたい。
そして、私の名前を名乗りたい。
あの人に、私の事を、認めてもらいたい。
小さく頷いたのに、パパさんは嬉しそうに頷き返してくれた。
それからもママさんやリリアの未来のお姑さんや、親戚の方に会ったりしてまた新たな縁が増えた。公爵家の使用人の方も優しくて、ママさんやパパさんのお店の人も優しくて。
自分が自分でいられることが嬉しかった。
でも。
楽しい毎日の中でもふとした時に思い出すのはあの人の影。
お店に行く時など街を歩く時に同じ制服の人を見るたびに落胆する。
会いたいな。
パパさんが会える日と場所を教えてくれたけど。
それでも物足りない。
偶然を装って会えないかな、と、街を歩く。
会えないまま、月日は過ぎた。
欲求不満なのかな。
気がつくと、服の好みがあの人の色になっていた。
自分でデザインしたドレスやワンピースをママさんがくれるたびに。
またやってしまった、と思う。
水色のワンピースコートとか。
冬なのにね、寒そうなのに。
色は何種類か作って販売するのよ、と教えてくれたけど。
そのフォローが痛い。
リリアの編み物指導をしている時も気がついたらグレーのマフラーを編んでいた。
慣れって恐ろしい…
「叶わない恋ってやめた方がいいわよ!泥沼になるし、誰も幸せにならないわよ!」
叶わないなんて言わないでってワガママな頃の私が叫んでる。
無理して答えを導き出した。
「…知ってるわよ」
「それに、渡すつもりもないわよ…」
ただ作っていただけ…
「アリア…奥さんいる人はちょっと…フォロー出来ないから、ね?」
リリアはパパさんが好きだと勘違いしているのかな?
私はパパさんもママさんもミミさんも大好き。
あの人の家族だからとかではなく、自分を見てくれるから。
もしあの環境で育っていたら真っ直ぐな性格になっていたのかな。
そう思う時があるけれど。
私が望むのは。
あの人の妹ではなく、隣に立つ事だから。
気が付いたら恋に落ちていた。
落ちる時は、ストン。と堕ちていくんだと感じた。
この思いを。
自分に自信が持てる様になったとき。
伝えようと。
渡すつもりがないと言いながらほんの出来心で隠す様に制服の下に置いた。
貴方を意識してます。そう思われない様にしたかったから。お気に入りの服を着て、約束の場所に着いた時。見事に彼の配色になっていたことに気づいた。お気に入りがいつの間にか水色とグレーだった。
気づかないで欲しい、気づいて欲しい。
意識されたい、私を見て欲しい。
「こんなところで何をやっているのですか?」
何もしていないじゃない。
待ち望んでいた人の声を聞き、平常心を保つ。
ようやく名前を聞けた、話せた。
彼の家族の話をした。
街の見廻はしていた、と。
少し残念だった、だって会えなかったから。
笑った顔が、とても綺麗な人だと思った。
名前を呼ぶ権利をくれた。
街中を歩く時に私の話を聞いては頷いてくれたり。今まで自分に[近づいて来た]人達とは全く違う。とても心地よかった。
グレーの瞳が私だけを映してくれて、それがとても嬉しかった。
入学前に曾祖父様が亡くなりママが変わり始めた。
少しずつ歩み寄ってくれる様になった。
お互い挨拶だけだけど。
久々にママの顔を見たら「ごめんね」って謝っている様に感じた。
こっちこそ、ごめんね。たくさん迷惑かけて、ママを困らせていたねって伝えたかったのに。
挨拶しか出来なくて。
でも、その一言だけでも嬉しかった。
私の魔法使いさんは、ライアンだった。
入学式にいた彼は制服をキッチリ着て堂々としていた。
リリアと席に座ると聞こえてくるのは他の女の子達の声。
ライアンがかっこいいって声。
ライバルが多いのはわかってる。
けど、諦めたくない。
彼の隣に立てるように。
私が隣にいてお似合いって言われる様に。
頑張ってやる。




