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ライアンとアリア


エイデン家の別邸に訪れる日。


ライアンはルキアスと馬で移動をしていた。

極力人数を減らしたいとルキアスが願った結果だ。




キリィは今日訪れない。まだ事実を受け入れるのに時間がかかるみたいだ。


キリィは公爵家に訪れた日、最後父に「リリアとアリアをよろしくお願いします」とお辞儀した。






アリア。


蜂蜜色の少女が頭に浮かんだ。






最後に見たのは。









聖火祭。

王都では冬のこの日に、一年の終わりに感謝する為に行われるらしい。


今日とて、見廻におわれ、ライアンは街中を歩く。

昼過ぎだろうか、噴水広場に、恋人に会いたいなどとほざいてライアンの休憩時間を潰した銀髪の少年がいた。隣には恋人、婚約者の少女が少年に食べ物を食べさせていた。

ライアンと同じくその二人を見ていた通行人は「可愛いカップルねぇ〜」などと言いながら通り過ぎていった。

今はまだ可愛さが優っているが、少年少女は美男美女の恋人同士だ。なんだかんだでとても幸せそうだと、第三者目線から観察する。


もちろん、仕事中なので話しかける事はなかったが。


人影から一瞥し、ライアンは広場を後にした。



今日は交代制の見廻という事で早めに切り上げた。

宿舎に戻りシャワーを浴びて軽装になる。


夜は家族で過ごしてもいいが、歳のせいか、離れて暮らしていたからか。

あの父と過ごすというのに抵抗があった。とても。


なので食堂へ行き遅い昼飯、早い夕食を平らげ部屋でアロマを焚く。




女性らしいと我ながら思う。

香りのついた蝋燭をガラス細工のポットの中に入れ火を灯すとガラスがキラキラと反射して綺麗だ。

昔、まだ、尊敬できた時期の父が見せた水の花。

水の中で太陽を浴びたら光るキラキラがとても綺麗だった。


別に父が変わったわけではない。自分が生まれた時からあんな性格だったと思う。


自分がきっと大人になれば、苦手。ではなくなると思う。


ようは、反抗期なのだ。

とりあえず父と言う人が気に入らないのだ。いつもヘラヘラ笑って緊張感がない。

でも核心をついてくる。






時計を見て、蝋燭を消す。

ガラスポットは光を失い、輝きをなくす。


ライアンは部屋から出て鍵を閉めた。

小さな部屋には、ラベンダーの香りだけが残った。










夕方。


王都の小高い貴族の住宅街を抜け、下の住宅街が一望できる小さな公園に彼女はいた。


やっぱりか。


と、ライアンは彼女を確認する。

蜂蜜色の髪を緩く結び、夢の中の少女は現実に現れた。


冬に着ていたら寒そうな水色のワンピースコートに白のレースがついている。

グレーのファーを首に巻き、視線は景色を眺めていた。


「こんなところで何をやっているのですか?」


少女は振り返り、青い瞳を見開く。

手には紙袋を持ち、持っていない方の手で口を覆う。


「それ、やっぱり口癖なんですか?」

笑った顔が愛嬌があると思った。


「そう思いますか?」

疑問で返す。

「ええ」

「即答ですか…」


静寂が訪れる。けしてライアンは嫌ではなかった。


「アリア・エイデンと申します。制服ありがとうございました」

紙袋の中身は制服だったのか。キチンと畳まれた中身が見えた。ライアンは受け取り。

「ライアン・ミハエルと申します。エイデン伯爵の御令嬢という事は、リリア様の」

「妹です」

「そうですか。…私の姉もそちらで働かせて頂いております」

「ミミお姉様ですよね。いつもお世話になっております!ミハエル様のお父様やお母様もお優しい方々で。商会では時々お手伝いに行ってますの」


ホウレンソウは大事だと軍で教わったのに。

まさかアリアがライアンの周りと繋がっているとは思わなかった。


「その、洗濯の仕方もミミお姉様におそわったんですの」

実の姉をとても親しげに呼んでいる。

ライアンより、自分の実家に親しんでないか?と。


「そうですか。幾分、私は王城の騎士団寮にて暮らしておりまして。家族とはあまり話す機会がなかったものでして。見廻で外に出る機会があり商会の方にも寄っていたのですが」

「そうなんですか?!会えませんでしたね…秋から通い始めたんですよ。…私が変われたのはミハエル様のおかげですよ」


アリアは笑う。



「ありがとうございます」



その笑顔を見て、ライアンも釣られて笑った。




「ミハエル様って…笑うんですね」


「人をなんだと思っているのですか?」


あと。


「ミハエルではなく、ライアンと呼んでください」


「では私の事もアリアと」




他愛のない話をして、大通りまで送る。

何を話したのか覚えていないけれど。

アリアの瞳が水の様だった。

キラキラ光る、あの時の。





帰宅し、貸していたジャケットを紙袋から取り出した。服の下に丁寧に包装された毛糸の作品が入っていた。


網目の細かいマフラーが入っていた。

これから寒くなる。王都の冬は寒くなると聞いていたので購入を考えていたところだった。

グレーのマフラー。


グレーのファー。水色のコート。



…まさか。

それはない、と、自分の中で言い聞かせる。

期待してはいけないと、心の中で平常心を保ち眼鏡を整える。





そして。

ポケットに入れていた包箱を机の引き出しに戻した。

マフラーが入っていた事が先にわかっていたなら躊躇いなく渡せたのに、と。








ラベンダーの香りは消えていた。


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